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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
31話 ひとり去るとき/When you leave
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#6 誕生を叫ぶ者

【#6】



「これが──終わりだ」

〈行くぞ……バースデイ!〉


 全身に魔力を漲らせ、アクセルリスは駆け出した。


「オオオオオオオオオオッ! 来いッ!」

「はぁ、アアアアァァァッ!」

 振り下ろされる太刀。アクセルリスはそれを、両手に構えた槍で、受け止める。

 ──拮抗する。

「ほう……! 思っていた以上に頑丈じゃないか!」

「当たり前だろ……! これは私とッ! トガネの二人の力なんだからッ!」


 剣戟。重い刃がぶつかり合い、互いに一歩も譲らず。


 アクセルリスは今や、異形の巨人バースデイと互角に果たし合う。

 二人分の魔力が、一つの体に満ちているのだ。そこからは、想像もつかないほどの力が、放たれる。


「だから私は、生きるッ!」

「善い、善い善い善いぞ! その奔流だ! お前のその残酷なほどの生存本能! それをこうして浴びることで、ワタシは答えへと辿り着ける! さあ、さあ、さあ!」

「はああああああッ!」

「セイハアアアアア!」

 共に極まった両者。力が互角にぶつかり合うのならば、それを決するのはエゴの強さに他ならない。

「もう少し……あと少しッ!」

「殺す……殺すッ!」

「ハハ、ハハハハハハハーーーーッ!」

「うおおおおおおああああッ!」


 激しくぶつかり合う互いの(エゴ)。鈍い金属音が止むことなく鳴り響き、静寂を殺す。

 二つの刃が真っ向から打ち合い──衝撃が走る。


「く……ッ!」

「ハ、ハハハ……!」


 両者後方へ飛び退き、息を整える。間合いがリセットされる。


 そのときだった。


「……っ」

 アクセルリスは胸の奥が、ざわついているのを感じた。

 赤い光が、苦しそうに呻くその感覚に、目を細めた。

「────トガネ、これって」

〈聞かないでくれ〉

「…………分かったよ」


 トガネの意思は、守り抜く。

 その疑念を黙殺し、再び剣を構える。


「────ッ!」

 距離を一気に詰め、全霊を乗せた突きを放つ。

「セイハッ!」

 バースデイはそれを漫然と斬り払い、防ぐ。

 しかしそれは、アクセルリスの計略の内にあった。


 ──彼女は、両方の手に、刃を備えている。

「しまっ」

「隙ッ! 見えたりッ!」

 防御が空いた逆サイド。がら空きとなったそこに、アクセルリスは全力の斬り上げを叩き込んだ。

「ぐ────ぬ──!」

 深い一撃。竜の鎧に、確かな傷が、刻まれる。

 だがバースデイは、凌いだ。

「オ、オオ……」

 狂った理性を剥き出しにし、反撃を構える。

「オオオオオオオオッ!」

 暴威の太刀が振るわれる──だがそれよりも早く、アクセルリスは動く。

「はあッ!」

 彼女の全身から伸びた無数の影が、刃となりバースデイを裂く。

「く、ァァ……ッ!」

「与えない……隙も、間も!」

 さらに影鋼の槍で切り刻む。

 分厚かった竜の鎧も、無尽蔵たる斬撃の嵐に呑まれ、少しずつ欠け落ちてゆく。

〈やれ、主ッ!〉

「貫く!」

 アクセルリスはバースデイに手を当てる。巨大な槍が、零距離で生成される。

「これ、は……!?」

「お前自身が! 槍と化せ!」

 そしてそのまま、バースデイごと、槍を撃ち出した。

「グアアーーーーーッ!」

 諸共に吹き飛ばされるバースデイ。樹に激突し、その身を磔にされた。


「オ、オオオ……!」


 全身の鎧から赤黒く濁った血が流れる。それは使い潰されていった竜たちの怨念のようにも。


「痛い……痛い……! だが、この痛み……違いない……! もう……もう! ワタシは、掴める……!」


 鋭利な一撃を食らってなお、呪いめいた欲望は一切の衰えを見せず。


「あとほんの少し……もうすぐに、手は届く……ッ!」


 槍を引き抜き、ゆっくりと進む。


「まだ言うか……私とトガネの前に、その鎧すら打ち破られているのに」

「確かに、この鎧……この力にすら追い縋ってくるとは、想定外だった」


 胸の魔石に手を置くバースデイ。鎧の内には、どのような感情が渦巻いているか。


「────だがッ! 知っているはずッ! 無意味だとッ! ワタシはアラクニーを、この森を、手中に収めているッ!」


 異形が吠える。額の魔石が輝く。


〈またさっきのか……!〉


 森がざわめく。それに呼応するように、竜の鎧が修復されてゆく。


「ワタシを滅ぼすならば、この森を滅ぼすことと同じ! お前にそれができるというのか、アクセルリスッ!」

「できるよ。私とトガネなら、なんだってできる。この世界だって、滅ぼせる」


 バースデイの言葉に、アクセルリスはそう返した。その言葉に飾り気は無い。彼女は本気で、そう思っているから。


「大言を……! ならばやってみろ! ワタシに、その力を、証明してみよ!」

「断る」

「ハハハ! 怖気づいたか、らしくないぞ!?」

「その必要がないからだ」

「……何を?」


 バースデイが一瞬、訝しみの感情を覚えた──その直後。


「────があっ」


 蜘蛛の魔石に、亀裂が走った。


「な……な、あ?」


 異形は額を抑える。何が起こったのか、判断に遅れる。


「バ……バカな、この魔石が……森の力が!? そんなこと、アラクニーが直接森への魔力を絶った以外、あり得な──」

〈〈──絶ったのだよ、実際に──〉〉


 狼狽の中、森に声が響き渡る。その声の主は──アラクニーだった。


「アラクニー!? なぜ、お前が……!?」


〈〈私がやった、それだけだ〉〉


 答えたのはまた別の声、それは冷徹なるバシカルのもの。


「バシカルさん!」

〈〈聞こえているようだな。アラクニーは私とカーネイルで救出し、保護した。無事だ、安心しろ〉〉

〈〈──助けられてしまった、すまない──〉〉

「あの呪縛から、どうやって……!」

〈〈力尽くだが、何か〉〉

「く……!」


 その言葉に偽りはない。

 カーネイルによって魔力供給を妨害された工房を、バシカルは剣と己の身で元の姿に叩き直したのだ。

 空間拡張魔法さえなければ、何の変哲もない工房だ。アラクニーはすぐに見つかり、そしてバシカルは彼女を縛る呪いをも力任せに引き千切った。

 魔女機関執行官の力は、万象を押し通す力である。


〈〈それともう一つ、力を貸そう〉〉


 その言葉の直後、バースデイの直上で光るものがあった。

 それは一振りの剣。バシカルの愛剣、ロストレンジ。

 バースデイがそれに気づいた時には、もう遅かった。


「グ────!?」


 ロストレンジはまっすぐに、蜘蛛の魔石を穿つ。

 ついに、魔石は、粉々に砕けた。


「──アアアああっ!」


 そして異形の兜も同時に砕け、バースデイの素顔が露わになる。

 竜の首を落としたロストレンジは、導かれるようにアクセルリスの足元へ刺さった。


〈〈これを使え。多少乱暴に扱っても、毀れはしないだろう〉〉

「はい! お借りします!」


 アクセルリスがロストレンジを構える。影がその刀身に集い、さらに大振りな刃へと変貌させる。


〈〈さあ、やれ〉〉


 そこで声が途切れる。



 アクセルリスは小さく息を吐き、そして銀と赤の両眼で、バースデイを強く睥睨した。


「良かった。これで心置きなく」

〈お前を殺すのに専念できる〉


 バースデイの素顔は、憤怒に塗れる。だがしかし、焦りの色は見られない。


「戯言を……! たとえ森の支配権を失ったとて、ワタシにはまだ戦火の魔女の力がある……!」

「戦火の魔女の力、ね。丁度いい。私はいずれ、そいつも殺すから」


 アクセルリスはゆっくりとロストレンジを構え、叫んだ。


「来いッ!」



【続く】

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