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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
31話 ひとり去るとき/When you leave
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#2 禁戒のデスモテリオン

【#2】


 東部カーサースの森、その入り口にて。


「ここが……」


 見渡すアクセルリス。その規模は死んだ妖精の森よりも大きそうだ。

 立ち並ぶ木々はみな黒く、森に足を踏み入れるものを呪うかのよう。


〈これだけ広いと、途方もないな……〉

「故に、手分けして探す。異論はないな」

「ありません。バシカル様の指示通り、行動します」

「助かります、姉様」

「私も了解です」

「良し。ではこれを」


 バシカルが手渡したのは伝気石。すでにそれらには同じ輝きが宿っている。


「何かあればすぐに連絡を。何もなければ、3時間後に再びここに集合とする」

「了解です!」

「承知致しました」

「では、行くぞ。何が出るかはわからない、くれぐれも注意を怠らないよう」


 バシカルは正面、カーネイルは右方向、アクセルリスは左方向に、それぞれ進み始めた。





「……」


 バシカルは注意深く周囲を探りながら、森を進んでゆく。

 彼女の黒い眼差しが目に映すものすべてを冷徹に把握し、その一つ一つを観察する。

 そして、一つの痕跡に気付く。


「足跡か?」


 土が浅く抉られた後。鋭利なものが刺さったようなそれは、到底足跡には見えない。

 だが、バシカルは知っている。アラクニーは移動する際、背部の副腕で歩くことを。そしてそれが残す跡は、まさにこのような形として残る。


「ふむ」


 見ると、地面以外にも蜘蛛が通過した痕がそこかしこに確認できる。それらはバシカルを誘うようにも。


「……」


 言葉を発することなく、痕跡を辿ってゆく。



 やがて一軒の工房に行き当たった。

 それはアラクニーの工房。痕跡は途絶えている。


「さて」


 バシカルは初めに、工房の周辺を調べた。

 周囲への警戒も欠かすことなく、冷徹に遂行する。

 工房の外壁にも触れ、異常が無いかを見極めてゆく。



 そして、何もなかった。


「周囲に目ぼしいものは無し。やはり内部か」


 彼女の決断は早い。即座に伝気石を取り出し、二人にこう告げる。


「アラクニーの工房を発見した。突入する」


 そして、返信を待つこともせず、すぐに扉を蹴破り歩み入った。





 一方のカーネイルは、得意の魔力探知を駆使し、僅かに残っているアラクニーの魔力を追っていた。


「一筋の微小なものだけど……確かにアラクニーの魔力を感じる。この森にいるのは確かね」


 ただ冷静に集中し、蜘蛛の糸を手繰り寄せてゆく。

 時に魔力を見失い、立ち止まることもあった。だがそれでも、カーネイルは確実にその魔力を追い続ける。



 やがて一軒の工房に行き当たった。

 それはアラクニーの工房。魔力は途絶えている。


「うん?」


 そして、彼女が辿り着いてすぐ、バシカルからの連絡が入った。「突入する」と。


「一歩遅れちゃったか。まあ、私は外で有事に備えるとしましょ」


 リラックスして工房の外壁に寄り掛かり、物憂げそうに空を見上げた。


「……上手くやってくれるでしょうか」


 その言葉の本意は、果たして。





 そして、アクセルリス。

 バシカルからの連絡も届いたが、彼女は彼女で別な場所を探索していた。


〈なあ主、何を目印にして進んでるんだ?〉

「勘だよ!」

〈そんなこったろうと思った……迷子にはなるなよ〉

「心配ご無用! 道は大体覚えてるからね」

〈そうなのか?〉

「まあ最悪鋼で飛べばいいし?」

〈雑だ!〉


 といった風に、トガネと共に他愛のない会話を交わしながら、森をくまなく探索していた。



〈……ん〉



 ふとそんな中、トガネが何かに感づく。


「どしたの?」

〈魔力を感じる……〉

「それって……アラクニーさんの?」

〈いや、違う。でも、どこかで嗅いだことがある……これは……〉


 目を細め、思い出そうとするトガネ。


 しかし、その必要はなくなった。


「ッ!」


 アクセルリスは何かに気づき、一切の躊躇なく槍を放った。

 木陰を狙ったそれは、甲高い音とともに弾かれる。


「隠れていたつもりだったが、流石は目ざといな!」


 現れたのは、誕生の魔女バースデイだ。


〈あいつは!〉

「バースデイ、なぜお前がここに──いや、お前がここにいるということは」

「その通り! アラクニーのロストに私が一枚噛んでいる、ということだな」

「なら、居場所を吐かせる」


 残酷に槍を構えるアクセルリスを、バースデイは手で制する。


「そう急ぐな。教えてやるとも」

〈やけに素直だな、何を企んでる!〉

「私の退屈を紛らわせてくれれば、話してやるさ」

「……」


 アクセルリスは暫しの疑念ののち、槍を消す。


「……その口車に乗ってやる。それで、何がしたいの?」

「質問に答えてくれれば、それでいい」

「言ってみろ」


 鋼の許しを得て、バースデイは問う。



「──お前の『生まれた意味』はなんだ?」



 その問いに、アクセルリスも、トガネも、滞る。


「考えろ。そして導き出せ。お前の……お前たちの答えを」


 試すように手をかざすバースデイ。その表情はまっすぐに。


「────私は」


 アクセルリスが、口を開いた。


「この名のもとに、生を貫く。その為に生まれた。だから私は生き続けて、戦火の魔女を殺す」


 決然と見上げる目に一切の曇りはなく。


「なるほど! それもまた良い。興味深い意見だ」


 バースデイは目を輝かせて称賛を送る。そして、その眼が次に捕らえるのは、影。


「では、お前はどうだ。シェイダーよ」

〈オレ……オレは……〉


 トガネの言葉は詰まる。懸命に言の葉の形を成そうと試みているが──実らず。


〈主……主……!〉

「トガネ……」


 縋るようなトガネに、アクセルリスは優しく返事をすることしかできない。


「……無理もない。本来ならば使い魔が葛藤を覚えている時点で、驚くべきことだからな」

〈オレは……!〉

「……なら、お前はなんなんだ。お前の生まれた意味は!」


 アクセルリスは声を荒げて問いを返す。その足元でトガネは惑う。

 バースデイの答えは、シンプルなものだった。


「私か? わからない」

「な」


 悪びれる風もなく、言い切った。


「強いて言うのならば、それを探すことこそが私の生まれた意味、だろうよ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいない! そのために、生まれた意味を知るために! 私は手を尽くしてたのだから!」


 バースデイの声色には、強く真剣な感情が宿る。


「そして私は目星をつけた! それがアクセルリス、お前とその使い魔だ」

「私と……」

〈オレが?〉

「極めて強い生存本能を糧に死線を潜り抜け続ける残酷なる魔女、アクセルリス。そしてその使い魔、知識の魔女アイヤツバスによって生み出された叡智極まるシェイダー! これほどまでに《生》を知らしめるものは他にはいないとも!」


 声高らかに、バースデイは二人を称えた。


「だからこそ、私はここにいる」

「…………」


 アクセルリスは様々な感情がない交ぜになった混沌の状態で立ち尽くしていたが、やがて口を開いた。


「……アラクニーさんは、どこだ」


 それは使命を忘れぬ、鋼の意思だった。


「アラクニーか。この森にある、彼女の工房にいる」

「そうか」

「だがもちろん、私が何の妨害もしないと思うか」


アクセルリスは踵を返し、背を向ける。


「私と戦え、アクセルリス!」

「断る」


 快刀乱麻に言い切った。


「もうお前に用はない。アラクニーさんの場所は分かった。なら救出を優先する」


 冷静沈着に、己の役割を読んでいた。



「……ハッ。行きたければ行くがいいさ。どのみち、蜘蛛の巣に捕らわれる獲物が増えるに過ぎない」

「……なに?」


 その言葉がアクセルリスをその場に留まらせた。


「どういうことだ」

「呪術の魔女アラクニー。この森は、その魔法によって支配されている」


 そう言いながら、バースデイは蜘蛛の巣の模様が描かれた黄色い魔石を取り出す。


「そして、アラクニーは私が支配した」

「……!」


 アクセルリスの銀の瞳が、バースデイの笑みを映す。


「さあ。私と戦え。そして私の生きる意味を教えてくれッ!」

「……それを知るよりも先に、殺してやるよ」


 残酷が牙を剥く。


「トガネ、行くよ」

〈…………ああ……! あいつは今、ここで殺す……!〉


 赤い決意を鋼の殺意で固め、アクセルリスとトガネはバースデイへと駆け出した。



【続く】


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