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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
4話 トレジャーハンターA&A
14/277

#2 森のお宝をめざして

【#2】


「急がば急げ! アクセルリス、準備できた?」

「うん。まあ準備も何もないけどね私は」

「それもそうか」

「……一応聞いておきけど、場所分かってる?」

「もちろんだよ、すぐ近くだからね!」

「ならよかった……」



「はい着いた!」

「ホントに近かったな」

「信じてなかったの!?」

「いや、信じてたけど?」

「ふーん? ま、いっか」


 アクセルリスは視線をまどろみの森に移す。

 見たところ、何の変哲もないただの森だ。


「アディスハハはここには何回くらい来てるの?」

「んー……二、三回……」

「そんなもんか」

「そんなもんよ」

「何かアテはあるの?」

「いや、特にないけど」

「出たとこ勝負か……」

「……なんか今日のアクセルリスはやけに用心深いね」

「いやぁ、ちょっとこの前色々あってね……」

「大変なんだねー。んじゃじゃ行きますか」

「そうだね、とりあえず森の真ん中を目指そうか」

「いいね! 名案だ」


 二人は意気揚々と森に足を踏み入れた。


 ◆


「迷ったー!!」

「嘘でしょ……早すぎる……」


 叫ぶアディスハハとうなだれるアクセルリス。


「なんでだろうね」

「わからない」

「とりあえず引き返してみる?」

「もうどこから来たかもわからないよ……」

「むむぅ。パンくずを目印にしていれば……」

「多分野生動物に食べられて終わりじゃないかな」

「……確かに」


 耳を澄ませる。アクセルリスの言う通り、動物たちの声がにわかに聞こえてくる。


「どうしよっか」

「もうとにかく、進むしかない」

「そうだね、歩いてればどこかしらには着くよね!」


 気を取り直してアディスハハが歩き始めようとした。その時。


「──ん?」



 不意に木陰から姿を現したものがいた。動物ではなかった。


「……誰だ、あんたたち」


 それはエルフの少年。その顔つきにアクセルリスは既視感を覚えた。


「ファルフォビア?」

「何……? あんた、姉さんの事を知ってるのか?」

「うん、友達だよ。大親友!」

「……じゃあまあ、悪者じゃなさそうだ。オレは《フィアフィリア》。姉さん──ファルフォビアの双子の弟で、ここ《まどろみの森》を警備している」

「私はアクセルリス。それでこっちが」

「いじけアディスハハ」


 少し目を離した隙にしゃがんで土をいじっていた。これがいじけアディスハハだ。


「なにいじけてんのさ」

「私以外に大親友がいるなんて……」

「そこ!?」


 二人の様子には気にも留めずフィアフィリアは言葉を続ける。


「姉さんはまだ死んだ妖精の森に住んでるのか?」

「あっ、うん。元気に真面目に毎日働いてるよ」

「ならよかった。オレも元気だと伝えてくれ」

「あいわかったよ」

「んじゃじゃ! 森にあるなんらかのお宝について何か知ってる!?」


 飛び上がるアディスハハ。その高さ約2m。


「うわっびっくりした、情緒不安定なの?」

「宝、か。心当たりがないでもないが」

「ぜひぜひ! ぜひ情報提供を!」


 フィアフィリアに急接近するアディスハハ。思わず彼もたじろぐ。


「わ、分かった、案内するから、離れてくれ」

「おっと? 私の美貌に見惚れちゃったかな?」

「あらー? 意外と純情なんだね? かーわいっ」

「かーわいっ」

「えへへっ」

「にひひっ」

「う、うるさいな」


 フィアフィリアは茶化す二人に背を向け、早足で歩きだした。


「ついてこい」

「「はーいっ」」





「ここだ」


 フィアフィリアが二人を連れてきたのは洞穴。位置的には丁度森の中央。


「ここかあ」

「この中にお宝があるんだね!?」


 飛び込もうとするアディスハハを必死で止めるフィアフィリア。


「待て待て! 話を聞け!」

「えー、もったいぶるなあ」

「ここは《王の洞穴》と言われている」

「この森の王?」

「ああそうだ、その王の宝がここに隠されていると噂されているんだ」

「それはさぞかし豪勢なものでしょうね!」


 アディスハハの勢いは止まらない。


「……はぁ」


 フィアフィリアも観念し、彼女を離す。


「アクセルリス! 行くよ!」

「うん!」


 ◆


 その洞穴は想像よりもはるかに浅かった。

 三人はすぐに行き止まりに面した。

 そして、古びた置物を見つけた。


「……これが」

「これが財宝!? ウソでしょ!?」


 アディスハハの叫びが反響する。


「普通にショックだ……」


 色を失いつつあるアディスハハを横目に、アクセルリスはフィアフィリアの方を見る。

 彼は洞穴の壁をじっと見つめていた。

 その壁に何かが刻まれていることにアクセルリスもすぐ気づいた。


「それは?」

「古代妖精文字だな。遠い昔妖精たちの間で使われていた文字だ」

「読めるの?」

「多少な。今解読してるからしばらく待っていてくれ」

「だってさ。アディスハハ聞いてた?」

「…………」


 アディスハハは土をいじっている。いじけアディスハハだ。


「まーたいじけてるし……」

「いじけアディスハハでも話は聞いてるもん」

「ならいいんだけどさ」


 アディスハハは立ち上がり、置物を眺めまわす。

 アクセルリスは腕を回しストレッチ。ここ最近肩こりが目立ってきていた。



 二人揃って手持ち無沙汰。置物鑑賞にも飽きたのか、アディスハハが切り込んだ。


「……そういえばさ」

「ん?」

「アクセルリスにも弟とかいるの?」

「…………妹が二人と、弟が一人」

「へぇ、お姉ちゃんなんだね。道理で寛容性があるわけだ」

「……ありがとう」


 アクセルリスは多くを語らない。今ここで真実を語っても、アディスハハの気遣いを打ち落とすようなものだ。


「アディスハハは?」

「私? 私はねー…………正直、覚えてないや」

「覚えてない?」

「うん、色々あったんだ、魔女になってから」

「……そうなんだ」

「色々ね、本当に、色々……」


 そう繰り返すアディスハハの横顔はどこかもの悲しく、影を落としていた。

 いつか、そう遠くない未来。

 私たちはお互いの全てを語り明かすだろう。

 二人は心のどこかでそう感じた。



「よし、終わったぞ」


 黙考に入りかかっていた二人を引き留めたのはフィアフィリア。


「どうやらその置物は財宝ではないらしい」

「ほんと? じゃあ何なのコレ」

「『鍵』だ」

「鍵……というと?」

「今からそれを含めた全てを教える。ご丁寧に細かく記されてあったんでな」



「まずさっきも言った通り、その置物は鍵となる。だが、鍵といっても実際に鍵としての働きをする訳ではない。似たような役目を担っているだけだ」


 どこからか取り出した木の棒で壁の文字を指しながら、二人に解説を行う。


「じゃあ何の鍵なのか。単刀直入に言う。《森の王の試練》の鍵だ」

「……」


 息を飲む。思ってた以上に大事になりそうだぞ、これ。


「《森の王の試練》。それを達成したものは、森の王より大いなる財宝を得る権利を授けられる」

「大いなる財宝……!」


 アディスハハの目が輝く。


「だがもちろん、試練は非常に難易度が高く、これまでに達成したものは現れていない」

「そんなに」

「で、その肝心の内容は」

「それが、書いてないんだ」

「ほへ」

「試練の内容は書いていない。ただ、ここの壁にはこう書いてあった。『試練は王より直々に与えられる』と」

「つまり……森の王が教えてくれるってことなのかな」

「十中八九そうだろう」

「じゃあ、チャレンジする為にはどうしたら?」

「やる気マンマンなんだね……」

「もっちろん! そのために来たんだからね」

「それこそこの鍵の出番なんだ。試練に挑むものがこの鍵を手にし、洞穴を出る」

「ほうほう。そしたら森の王さんが教えてくださるって感じなのね」

「そうだ。先に言っとくが、挑戦できるのは一人だけだ」

「だってさ。アディスハハどうする?」

「もちろん、私が行くよ。言いだしっぺは私なんだし」

「分かった。アディスハハがそう言うんなら任せるよ」

「任されたよ!」


 アディスハハは鍵を手にし、出口へ悠々と歩きだした。


「あまり無礼な行いはするなよ!」

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

「大丈夫じゃなさそう」

「心配だ……」



 洞穴から出た三人。アディスハハは早速鍵を掲げて叫んだ。


「おーい、森の王さんやーい、出ておいでー」

「…………」


 聞こえてくるのは鳥のさえずりをはじめとした環境音だけ。


「あれー」

「出てこないね」

「手順は問題ないはずなんだが……」


 三人が怪訝に思っていると、突然地響きが森に響いた。


「うおおおおおおお!? おおおおおおお!?」

「うわあああ! 揺れてるうううう!」

「な、なんだなんなんだ!」


 三人は見た。周囲の木々がざわめき始めたのを。

 三人は聞いた。彼らが立つ大地がきしみ始めたのを。

 そして、三人は感じた。おおいなるものの鼓動を。



 爆発。そうとしか形容できない現象。

 大地がめくれ上がり、土煙が森を包む。


「う……!?」


 アクセルリスは煙の中にわずかに見えたものに目を疑った。

 鱗。蛇のものだろうか。いやしかし──巨大すぎる。


 あたり一面が土色に染まったころ、彼らは何か巨大なものに囲まれていることを感じ取った。

 やがてその何かは動きを止め、天を覆っていた土煙もゆっくりと収まっていく。

 だんだんと姿を晒すそれは、信じがたいが、やはり蛇であった。

 大きさは規格外。その一言に尽きる。


「こ、これが……」

「森の……王……!?」


 巨大蛇は三人を取り囲み、洞穴の上に頭を乗せ鋭い眼で見据える。


「Srrrrrrrrrr…………」


 舌を出し入れしながら王は訪問者の様子を見ていたが、やがて口を開いた。


「Srrrr……Hmm……Yoorsschhhrngggggg?」

「……え?」

「……へ?」

「何?」


 三人には呻き声にしか聞こえない。

 何を伝えようとしているかが誰にも分からない。


「Hmm。Well……ザヤタシ、ヒオヱチ、サホヨユノキ」


 続いて今度は文字の羅列。言葉として聞き取れはするが、これも意味は分からない。


「……分からない」

「……私も」

「これは……古代妖精語だ」

「ホント?」

「じゃあ何言ってるか分かるの?」

「いや……読解はまだ未修得で……」

「サエナヨネヱソ。ハワマ……これならどうだ」

「あっわかる!」

「わかるわかる!」


 三回目にしてやっと王は三人にも伝わる言葉を発した。三度目の正直。


「やっとつうじたか。まったく、ことばというものはふべんなものだ」

「あなたが……森の王ですか」

「いかにも。よがこのもりをすべるものである」

「あの、私試練を受けに……」

「わかっている。よをよんだのはきさまであろう。なのるがよい」

「蕾の魔女アディスハハ」

「まじょか。よかろう。しれんへのちょうせん、うけたまわった」

「では王、彼女らに試練の内容を」

「もりのおうのしれん。それすなわち、かぎをもりのそとへもちだすこと」

「……それだけ?」


 出し渋った割にはあっけない内容にアクセルリスは拍子抜け。


「ただし、じょうけんがある。それは『もりのものをきずつけてはならない』こと」

「……それでも、簡単すぎるような」

「そうおもうか、ならばそれでよい」


 森の王は何か含んだような言い方でそう言った。



「森の王、質問です。この試練は協力して挑んでもよろしいのですか」

「かまわぬ。みたところ、こたびのきゃくじんはふたりのまじょ。ちからをあわせ、しれんのたっせいをめざせ」

「だって。私も手伝えるね」

「うん! アクセルリスと私ならだれにも負けないよ」

「そうだね!」


 互いを見据え、強くうなずく二人。


「ではよいか」

「もちろん!」

「いつでも!」

「よろしい……では」


 森の王は首をもたげ、天を仰ぐ。そして──


「……SSYYYRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!」


 咆哮が森に轟いた。

 そして、それに続いて、森の各地で甲高い絶叫が上がった。


「こ……これは!?」


 突然の事態に混乱する三人。いち早く気づいたのはフィアフィリアだった。


「《サケビタケ》だ!」

「サケビタケ……って、動物を興奮状態にさせるっていうあの!?」

「そうだ! なるほど、確かにこれは一筋縄ではいかない……!」

「さあ、しれんははじまった。ゆくがよい、ちょうせんしゃよ!」

「アクセルリス、行こう! こうなったら短期決戦だ!」

「わかった! フィアフィリア、ありがとうね!」

「ああ、幸運を祈る!」

「ばいばい!」


 案内人と手短に別れを済まし、二人の魔女──挑戦者は森の出口目指して駆け出した。


【続く】

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