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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
30話 残酷スクランブル!
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#9 笑う月輪

【#9】


「お疲れ様。よくやってくれたわ。完璧よ」


 アイヤツバスは賞賛の言葉で迎える。


「色々と想定外は起こったがな。それを乗り越えてこそ成功の美酒は映えるというものだ!」

「よく言うよ、死にかけたくせに」

「う、うるさいな」


 ゼットワンはばつが悪い風に咳ばらいをし、そしてシャーデンフロイデへと向く。


「何れにせよ私たちの役目は終わりだろう?」

「物分かりが良くて助かる。私としてはもうひと悶着起こると予想していたからな」


 静かに腕を組むシャーデンフロイデの背後には、グラバースニッチ、イヴィユ、ロゼストルム、ミクロマクロの四人。おそらくは、三人の逃走を想定して呼び寄せたのだろう。


「ハァーハ! いくら私達とてそこまで往生際は悪くないさ!」

「そうだナ。再び三人デ集えた以上、最早悔いハないだろウ」

「ああ。スカーアイズとインペールがいるのならば、私はどこでも往こうとも」


 どこか風格すら漂わせるその様子に、トガネが余計な口を挟む。


〈投獄されるだけなのに偉そうだ……〉

「うるさいな! なんなんだお前たちは二人揃って! 姉弟か!?」

「まあ、大体そんなとこ!」

〈そうなの!?〉


 平穏を感じさせる一幕。今度こそ、危機は去ったのだと。


「さて、そろそろ潮時だろう」


 シャーデンフロイデが指を鳴らすと、どこからか人形がやってきて、三人の手首に錠をはめる。


「何か言い残すことは?」

「強いて言うのなら……すまなかった、と。謝罪の意を示したい」

「おまえみたいなやつでも反省はするのだな。その言葉だけは受け取っておこう」

「カイトラってば辛辣ぅー」

「私としては、貴女の驚いたあの顔に免じて、許してあげようかしらね」


 パーティーメイカーズはゼットワンの言葉を、各々受け止めた。


「感謝ヲ。ゼットワンとノ再会、そしテ再び我ラの絆を確かめル機会をくれタ事へ。」

「特段感謝されることでもないが……まあ、受け取っておこう」

「汝ラの旅路ガ輝かしイことヲ祈っていル」


 と、インペールは残酷魔女たちに一礼した。

 そして。


「ンッンー、特には無いが……そこの嬢ちゃん」


 スカーアイズが捉えたのはアクセルリスだった。


「私?」

「お前はすごいやつだ! がんばれよ!」

「……言われなくても、頑張るっての」


 共に目を合わせ、笑った。



「では、任せたぞ」

「はいよー。しかし、流石に人使いが荒すぎやしないか? 私達は一仕事済ませた直後なんだけど……」

「人手が少ない以上仕方あるまい」

「やれやれ……そろそろ残酷魔女も求人票を張った方が良いと思うな」


 ミクロマクロはそうぼやきながら、三人を連れ、消えた。



「ん~、今日も一件落着ね。久々に再生したからお腹すいちゃった」

「あ、同感~。時間も時間だし、そろそろご飯にしよっか?」

「いいわねぇ。カイトラもどう?」

「……同行はする、が……」


 カイトラは頭を抱える。

 ここまで誰も一度も触れてこなかったが、シャーカッハは腕一本から再生し、ケムダフは魔力で新たな依り代を作った。だが、それ以上のことはしていない。つまり──


「いい加減、服を着ろ……」


 素っ裸で何食わぬ顔をし続けた二人に、カイトラは呆れるばかりであった。



「これで今回の任務は無事完了だな。皆、ご苦労だった」


 シャーデンフロイデは集った残酷魔女にそう言う。


「突然の事態だったが、よく成し遂げてくれた」

「鍛えてるからな。余裕だぜ」

「ええ! わたくしたちが後れを取るなど、ありえませんわ!」

〈〈まったく、誰のおかげだと……〉〉

「要は進化、だな」

〈〈それはちょっと、分からないわぁァぁ……〉〉


 それぞれが納得したような表情を浮かべている中、アクセルリスは心の中で何かに気付いた。


(……あれ? 今回私、特に何もしてなくない……?)


 思えば残酷魔女として活躍したのは、お菓子を貪り食っていたことぐらいだ。その恐るべき事実にアクセルリスは恐怖する。


「アクセルリス」

「は、はいっ!?」


 ゆえに、シャーデンフロイデからの呼びかけに、素っ頓狂な声で返事をしてしまうのだ。


「私達は戻るが、お前はどうする?」

「私は……もう少しお師匠サマたちといます」

「分かった。気を付けて、充分に休息を取るように」

「はい、了解です!」



 そうして残酷魔女たちも去り、残ったのはアクセルリスたち。


〈……なあ、主〉


 ふと、トガネが切り出す。


「なんじゃらホイ」

「あいつらって……悪いやつなのか?」

「あんたも難しい質問するようになったね……」


 苦笑いしながらも、トガネの成長を感じ喜ぶ。


「どうなんだろう。少なくとも、邪悪魔女を襲ったり、暴動を起こしたりしたのは悪いことだよ」

「でも、彼女たちは傭兵」


 アイヤツバスが言葉を挟む。


「傭兵は雇い主の命令に従う。それがどんなものであれ、ね」

「と、考えると……善とか悪とかじゃないのかも」

〈……つまり?〉

「彼女たちは彼女たちのやるべきことをやっただけ。それが結果的に悪になっても、彼女たちは知らないし、関係ないのかも」

〈どっちにでも成りうる、ってことだな?〉

「そうね。だから、あなた達にも覚えておいてほしいわ」


 二人はアイヤツバスに視線を向ける。


「尊敬する人、所属する組織。それらが常に正しいとは限らない。最終的に物事を判断するのは、自分しかいないこと」


 いつになく真剣な様子のアイヤツバスに、二人は少し訝しむ。


「特に、私のような悪い魔女の言葉を信じすぎないようにね」

「何言ってるんですかお師匠サマ、私はお師匠サマの言う事なら全て従いますよ! それだけの恩がありますから!」

〈そうだぜ創造主! オレたちは家族だろ! 泣いても笑っても恨みっこなしだ!〉

「いや、それはちょっと違うと思う……」

〈そうなの!?〉


 藹々とする二人、その真っ直ぐな眼差しを見て、アイヤツバスの表情も綻ぶ。


「……うふふ。ありがとう。そうね、私達は家族……」

「そうです。だから……いつまでも、これからも、皆で一緒にいましょうね!」

〈オレも、そう思う!〉

「ええ、きっと」

「約束です!」


 輝かしい家族の愛。希望に包まれた夜の元、アクセルリスは魔製の月を見上げた。


 月は、笑っていた。



 それは、これからアクセルリスに訪れる試練を、知っているかのように。




【残酷スクランブル! おわり】

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