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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
30話 残酷スクランブル!
135/277

#6 クローベリング・タイム!

【#6】


「さあ。蹂躙の時だ」


 グラバースニッチに迫るツープラトンたち。

 ──ふと、彼女の背を踏み付けるツープラトンが、何かに気付いた。


「スゥーッ……フゥーッ……」


 足元の獣が、異様な呼吸を併せて、脈動している。


「……なんだ? その呼吸は」

「スゥーッ……反省を兼ねた……フゥーッ……準備運動だ……」

「いい心がけだ。だがいまいち、一手遅れているな」


 足を上げ、再度強く踏み蹴る──


 だがその足は、大地を蹴った。


「……何?」


 ツープラトンが訝しんだ直後。前方より迫っていたツープラトンが吹き飛んだ。


「グアアーッ!」

「ッ!?」

 残り二人は驚きと共にそちらを見る。


 そこに立っていたのは、熱の籠った呼気を出す獣、グラバースニッチだ。


「貴様、何を……」

「俺としたことが、まんまと油断させられちまったようだ」


 妄念を振り払うように頭を振る。見上げる眼には、獣性が満ち満ちる。


「だが、もうその手は通じない。百獣の王は、一匹のウサギを狩るときだろうと、全力を出す」


 そう言いながらグラバースニッチは、黒い鎧を外してゆく。

 全ての鎧が解かれ、高機動スーツのみの姿となる。それはまさにしなやかなる黒豹。


「……今更何をしようとこけおどしだ、私の優位は変わらない」

「試してみるか」

「何を」


 直後、後方のツープラトンが吹き飛んだ。


「グアアーッ!?」

「な──」


 神速。絶句するツープラトンの眼には、黒い風にしか映らなかった。


「これでも、か?」

「き、さま……!」


 怒りを見せるツープラトンに、グラバースニッチは追い討ちの言葉を投げる。


「何人にでも増えてみせろ。俺はその全てを、狩る」

「……ほざけーッ!」


 ツープラトンは手を広げる。彼女とグラバースニッチを囲むように、数十──いや、数百にも上るほどのツープラトンが出現する。

「圧し殺してくれるッ!」

「やってみろ。やれるものなら──」

 一挙して押し寄せるツープラトンたち。その渦中にて、グラバースニッチは黒き暴風へと変わる。

「────」

 もはやそこに言葉はない。ただ聞こえるのは、獣の鼓動。

 獣性を剥き出し、鋭き一撃で眼前に映った獲物を屠る。それは本能のままに走る獣──否、それをも超えた、『野生』そのもの。

「────」

 大挙するツープラトンたちも、数の有利によって生み出される隙を見、グラバースニッチに攻撃を与えてゆく、が。

「何故だ──まるで効いていない──!?」

 絶え間なく続けられる魔合神獣により、多少のダメージは帳消しになる。ツープラトンの攻めなど歯牙にかけることも無く。

 無論、少しでもバランスを見誤れば己の首を絞める呼吸法。しかしグラバースニッチは理性ではなく、本能でその均衡を測っている。

「────」

 黒い残像を残しながら、グラバースニッチの獣牙がツープラトンを一人ずつ喰らってゆく。斃されたツープラトンは倒れ伏したのち、消える。

「馬鹿な──馬鹿な馬鹿な馬鹿なーっ!」

「────」


 一騎当千の狩りはやがて。


「────残り、1」

「く……!」


 立ち竦むツープラトンの胸に、グラバースニッチは拳を置いた。


「まだやるか? 俺は構わないが」

「…………降参、だ……!」


 ツープラトンは、深く歯を食いしばり、両手を上げた。


「賢い選択だ」


 と、グラバースニッチは笑った。





「さあ、辞世の句を詠むがよい」


 ゆっくりとイヴィユへ歩み寄るサンバーン。向けられた掌が赤熱化していき、まさに今、火球が放たれようとしている。


「……」


 当のイヴィユはうずくまったまま動かない。サンバーンは既にそのすぐ傍に。


「沈黙と心中するか。それもまた雅。静寂ごと焼き滅ぼしてやろう」


 掌を構える。その瞳に、イヴィユの後頭部と、赤い輝きを増す魔石が見えた。


「ぬッ!?」


 危険を察知し、反射的に飛び退く。

 直後、魔石から熱風が放たれ、大気を焦がした。


「……危ないところであった、この期に及んで姑息な事を!」


 サンバーンは間一髪の回避で焼却を免れた。そして睨む。辛うじて立ち上がったイヴィユの姿を。


「まだ立つか。根性だけは認めよう」

「仕事……だからな」


 魔吸刀を杖代わりに、焼け焦げながらも立つ。その目からは闘志は潰えず。


「ならば何度でも。灰の味を喰らうがよい!」

 イヴィユ目掛けて火球が飛ぶ。

「く……!」

 震えながらも魔吸刀を振り、全ての火球を己に降りかかる前に吸収する。

「悪足掻き! どこまで持つか、見届けてやろう!」

 炎天の火球は衰えることなく、降り注ぎ続ける。

「舞え! 暑苦しく舞ってみせい!」

 怒涛の熱量。しかしイヴィユも、苦痛に悶えながらも、その全てを凌ぐ。

「ははははは! はははははは!」 

 矢継ぎ早に放たれる火球。その量は次第に増えてすらいる。

 もはやイヴィユは一意専心。細い生の綱を必死で握り続ける。


 そして、遂に火球が止まった。


「……まさか、凌ぎ切るとはな。いやはや、天晴という他ない」


 感嘆するサンバーン。その言葉に一切の裏はない、本心からの賛辞だ。


「ならば……致し方ない」


 サンバーンは、充分に赤熱する両掌を構える。


「儂に『これ』を二度も使わせたのはお主が初めてだ。光栄に思うとよい」

「──」


 超新星の予兆だ。あの凄まじい爆発が、太陽が地上に落ちたかのような熱が、再び猛威を振るおうとしていた。

 そして、それを見たイヴィユの行動は、限りなく迅速であった。


「はあッ!」

 魔吸刀の魔石側を大地に突き立て、そして吸収した熱の魔力を解き放つ。

 噴射された熱風は、イヴィユを軽々と舞い上げる。

「なにっ!?」

 予想だにしていなった行動に、サンバーンの動きが一瞬固まった。

 そして、その一瞬こそが、戦いにおいての命取りとなる。

「はああ──っ!」

 空より強襲するイヴィユ。超新星が放たれるよりも早くサンバーンに飛び掛かり、マウントポジションを取った。

「ぬおおっ!?」

 呻くサンバーン。そしてその眉間に、堅く冷たい感触が伝わる。

 それは銃口。イヴィユが構える銃が、ゼロ距離でサンバーンを狙っていた。

「動くなよ。誤射するかも分からない」

 引き金に指をかけ、イヴィユはそう言った。

「……全く。年寄りには、もう少し優しくするものだぞ」

「冗談を。因果応報だ」


 サンバーンの体から熱が抜け、力も抜けた。





「グララ……グララアガア……! 鎧ガナクナッタオカゲデ、身軽ニナッタワ!」


 ロゼストルムを踏み潰し、勝利を確信したゴリアス。巨人の高笑いが常夜に響く。



 ──だが、風は止まない。ロゼストルムの鼓動は、鳴り続ける。



「…………ム」


 ゴリアスが違和感を覚える。それは己の足の裏。


「何ダ……? コソバユイ……」


 その違和感は、彼女が確信に至るよりも早く、咲く。


「グラア……!?」


 ゴリアスは気付いた。踏み潰しているロゼストルムが、再びつむじ風を纏い始めていることに。


「何ヲ……!」


 急ぎ逆転の芽を摘むべく、ゴリアスは力を籠めて踏み込む──が、既に一手、遅れていた。


「グララ……アガア……!?」

「咲き乱れよ……我が麗しき刃の華よ……!」

 舞う花吹雪が刃へと変わる。旋風纏うロゼストルムは、ゴリアスを足裏から切り刻みながら、上昇していく。

「我ガ……剛体ガ……!」

 呻き抗うゴリアスだが、時すでに遅く。

「成敗いたしますわ!」

 巨人の腹部にまで達した。ゴリアスは己の体が内から切り刻まれる、嫌な感覚に顔を歪める。


「止、メ、ロ……!」

「当然、やめませんわ!」


 ロゼストルムは旋風と共に回転を始め、花弁の刃を貯め──


「グララ……グララアガア……アガア!」


 そして、解き放つ。

「咲き誇れ! 刃の薔薇よ!」


 刃が四方八方に舞い、巨人の体を止め処なく切り刻む。


「グラアアアアアアァァァァァァァーーーー……!」


 美しき華と風。風前の灯となった巨人の体が、瞬きの間に無数の欠片に変貌し、消滅した。

 まさに、一網打尽。



「──おのれおのれおのれーーーーーっ!」

「よいしょ、ですわ!」


 そして落下したゴリアスの真体、幼き少女をロゼストルムは抱き止める。


「捕まえましたわ、愛おしきお嬢さん?」

「だーかーらー! 子ども扱いするんじゃなーーーーーい!」


 ゴリアスの叫びが常夜に響いた。





「繰り返します。貴女に勝算はない。降伏してください」


 まっすぐに歩むシックスセンス。彼女の言葉に偽りはなく、ミクロマクロは全てを掌握されている。


「……やだね」

「理解不能です」

「まだ諦めるには早いだろう。いま、きみに勝つ方法を考えているんだ」

「無駄な事です。貴女が私に勝つ方法は、ありません」


 シックスセンスの打撃が大地を穿つ。ミクロマクロは間一髪で躱したが、その額には嫌な汗。


「警告です。降伏しなければ、次は貴女の鳩尾にこれを叩き込みます」

「……おっかないね、まったく」


 追い詰められようと、飄々とした態度は崩さない。彼女の意地か、あるいはプライドか。

「まだ、がんばるさ!」

 鉄輪を次々と投擲する。だがその抵抗は、シックスセンスには及ばず。

 彼女は歩みを止めることなく、全てを受け流し、ミクロマクロの眼前に迫る。

「最終勧告です。降伏してください」

「……確かに、いくら考えても私じゃきみに勝てそうにない。まったく、ハズレくじを引かされたようだ」

「それは、降伏ということでよろしいですか?」

「まさか」

 不意討ち。だが。

「それも見えていました」

「ぐっ……」

 その拳は真っ向から受け止められ、届かない。

「これ以上の抵抗も面倒です」

 そう言い、ミクロマクロのもう片手──そこに握られていた最後の鉄輪を蹴り飛ばす。

「ぐあっ!」


 鉄輪が空しく宙を舞う。希望が潰えたような、虚しさを。


「猶予は終わりました。実力行使に移ります」

 それが最後の合図だった。シックスセンスの動作から容赦が失われ、極めて的確かつ合理的にミクロマクロを排除にかかる。

「く……!」

 ミクロマクロも防御を試みるが、シックスセンスはその全てを『把握』している。一切の防御も、抵抗も、無意味。

「時間の無駄です。大人しく斃れることを推奨します」

「まだ、だね……!」

「まだ、とは。理解不能です。貴女には逆転の一手などない」

「その通りさ……私には、ね……!」

 掌底を受け続けながらも、ミクロマクロの瞳からは不敵な光が潰えぬまま。

 その様子に、いつまでも希望を捨てないミクロマクロに、シックスセンスも遂に感情を露わにし出す。

「理解不能……!」

 湧き上がる感情のまま、決着の一撃を放とうとした。



 そのときだった。



「く!?」


 シックスセンスの意識の外から、彼女に攻撃が加わる。

 それはまるで、小動物がぶつかってきたような打撃。


「なんです……!?」


 それは一度に収まらず。彼女を囲むように、次々と襲い掛かる。


「増援……いや、複数……? 使い魔か……!?」

 狼狽しながらも、その正体を推理するシックスセンス。だが視覚を失っている今、明確な答えは掴めず。


「ならば……そちらを把握するのみです」

 冷静に、魔法を構え直す。


 彼女の魔法は、『対象とした生物一体の全ての行動を把握するもの』だ。一対一の戦闘では強力無比だが、相応の『代償』は有する。

 想定外に対処するため、その対象をミクロマクロから自らの周囲の存在へと移し替える──



 ──だが、できない。



「……なぜ!?」


 惑うシックスセンス。そんな彼女にも、攻め手は休まらず。


「そんな……ありえない話し……! 私の魔法は、如何なる生物だろうと掌握するもの……!」

「気になるかい。そんなに気になるのなら、『自分の目』で確かめてみたらどうだ?」

「ミクロマクロ、貴女は……!」


 シックスセンスは屈辱に歯噛みする。

 安い挑発に乗るものか、と見えぬ相手に懸命な反撃を試みるが、その全ては虚しく空を切る。


 そして、いよいよ辛抱堪らなくなり──


「…………仕方ありません……!」


 遂にシックスセンスは自らの目隠しを外した。青く艶めく瞳が、外界を映す。


「な──」


 何故彼女の魔法が通じなかったのか。それは一目瞭然だった。


「人形……!?」


 そう。彼女を包囲し攻撃を続けていたのは、人形だったのだ。

 生物に影響を及ぼすシックスセンスの魔法が通用しないのも、当然のことなのだ。

 そして、その主は言うまでもなく。


〈〈は、はじめましてぇェぇ。残酷魔女、アガルマトよぉォぉ〉〉


 人形の魔女アガルマト。ミクロマクロの隠れた救難信号に気づいた彼女が、無数の人形を増援として引き連れてきたのだ。


「こんな……くだらない……!」


 シックスセンスは打ち震えながらも、再び視界を遮ろうとする。

 だがミクロマクロがそれを許さない。素早き蹴りが魔法を失ったシックスセンスを狙う。

「そうはさせないよ!」

「く!」

「私の勘通りだったよ。きみのその魔法は強力だ。だがしかし、代償として視覚を失わなければならないようだね!」

 そう。それこそがシックスセンスの代償。天眼の魔法の光と影、その影の部分だ。

「……それがどうされました。いずれにせよ、このまま武力で貴女を叩きのめせば万事解決。それに変わりはない」

 魔法を奪われたとて、その武に衰えはない。しなやかで強い掌底が止むことなく襲い掛かる。

「ガチンコ勝負のつもりかい?」

「正面衝突ならば、私の方が強い。それに変わりはありません──!」

「そうかもしれないな、だから──」

 ミクロマクロは、今度こそ、その全てを正確に防ぎ、受け流してゆく。

 そして、その最中。アガルマトの人形を掴んだ。

「今度は私が小細工する番だ」

「なにを」

 シックスセンスが身構えるよりも先に、二倍の大きさになった人形が彼女に突進する。

「ぐーっ!?」

「ほら、まだまだ行くよ!」

 次々と人形が巨大化し、シックスセンス目掛けて猛進する。

「こんな……こんな人形に……私が……!?」

 絶え間ない人形の濁流に、抵抗することもできず飲まれてゆく。

「く……や、やめ──」

〈〈人形を笑うものは人形に泣く。お、覚えておくことねぇェぇ〉〉

「や──め──」


 やがて、全ての人形が巨大化し、シックスセンスを包み込んだ。


「──────!!!」


 そして完成した人形団子。その核から、声にならない悲鳴が聞こえていたが──やがて止んだ。



「そろそろいいだろう。放してあげてやってくれ」


 人形たちが離散する。その内から出現したシックスセンス、既に失神していた。


「よっと」


 そしてミクロマクロは彼女を拘束し、抱え上げた。


「これで良し、と」


 一息つき、そして人形を見やる。 


「よく来てくれたよ、アガルマト」

〈〈見覚えのある輪っかが飛んでたから、様子を見に来たんだけど……まさか、ピンチだったとはねェぇェ〉〉

「恥ずかしいところを見せてしまった。アイスを奢るから、みんなにはナイショにしててくれるかな?」

〈〈要相談、ね〉〉

「おっと、手厳しいな。ははは」


 ミクロマクロは笑った。


【続く】

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