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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
30話 残酷スクランブル!
134/277

#5 転生ing→belle増えゴール

【#5】


「ははは! ははははは!」


 転移を繰り返すゼットワン。会議室にはあちこちに抉り痕が残る。


「あいつ……!」

「私には、捉えられないわね……」


 アクセルリスとシャーカッハは、身を固めながら、ゼットワンの放つ潰滅の力に備えるしかできない。


「ははははは! ははははははは! ──ハァッ!」

「ッ!」

 放たれた。二人はそれを何とか躱す。不幸にも着弾地点に選ばれてしまった窓が抉れ、割れる。

〈やべえ……!〉

 その様子をみて、トガネは慄くしかできない。


「ははは! 恐ろしいだろう、恐ろしいだろう! たまらないな、かつての宿敵の怯える顔を見られるなど!」

 挑発するかのようにゼットワンが転移を止めた。


「ッ!」

 無論、その一瞬のスキを逃すアクセルリスでもなく。

 トガネの捕捉を乗せた槍が瞬間的に放たれる。


 だが。

「無力、無力!」

 その槍はゼットワンを刺し穿つ前に消滅してしまう。


「……あの力、守りにも使えるのが厄介すぎる……!」


 焦燥のアクセルリス。激しく思考を巡らせる。


「なにか……なにか手は……!」

「……」


 血走る銀の眼を見て、シャーカッハがおもむろに口を開いた。


「ひとつ、手段がないわけじゃないけど」

「本当ですか……?」

「ただ、確実性に欠けるわね。それに……」

「それに?」

「……いえ、これは些細な問題だから、貴女が知る必要はないわね。とにかく、ひとつだけ、打破できる可能性がある」


 少し言い淀むような様子のシャーカッハに、アクセルリスは一瞬不安を抱いた──が、すぐにそれを振り払う。


「なら、試すしかない。少しでもチャンスがあるのなら、それを逃すわけにはいかない……!」

「そう言うと思ってたわ。流石アクセルリス」


 シャーカッハは微笑み、そしてアクセルリスにこう語りかける。


「約束して、アクセルリス。『何があっても動じないこと』。『時には敗北を演じること』。そして『チャンスは絶対に逃さないこと』」

「……?」


 アクセルリスは首を傾げた。


「具体的には、どういう」

「すぐにわかるわ。きっと」

「──」


 問い返そうとした、そのとき。

「お喋りとは、よっぽど余裕なようだな! ならば消えろ!」

 ゼットワンの声。同時に力が放たれる。

「ッ!」

 アクセルリスが飛び退こうとした、そのとき。


「え」


 銀の眼は捕えてしまった。抉られたシャーカッハの足元が崩れ、彼女が体勢を崩したのを。


「──」

「シャーカッハさ──」


 全てを潰し滅ぼす力が、獲物を喰らう。


「あ──」


 アクセルリスは見た。シャーカッハが、笑っていたのを。



 そして、シャーカッハが消滅した。

 その右腕だけが残り、ゼットワンの足元に転がる。



「ははははは! 逃げ遅れたようだな、無様にも!」

 嗤うゼットワン。だがアクセルリスは冷たく言い放つ。

「……残念だったな。シャーカッハさんは《再生の魔女》だ。すぐに蘇って、お前を……」

「はははは。怖いな、無知というものは」

「……何?」


 アクセルリスは眉をひそめる。シャーカッハの再生能力は、彼女も良く知っている。ではなぜ、ゼットワンは笑う?


「知らないのか? 私は知っている! 再生の魔女シャーカッハ、その能力の源は心臓に埋め込まれている《超再生の魔石》によるものだと!」


 高らかに知識を語る。


「故に! その魔石を心臓もろともに吹き飛ばしてしまえば、再生は行われることはない!」

「…………!」


 アクセルリスに衝撃が走る。再生が行われないというのならば、それは。


「そう! シャーカッハは! いま! 死んだのだ!」

「…………嘘……だ」

「ははは! 己の知らぬ真実を疑うことは、身を滅ぼすぞ!」


 知識とはすなわち力。より多くの知識を得る者が、強き者となる。こと魔女においてはそれがより顕著なものとなる。


「嘘だッ!」

 感情のままに放たれる槍は、鋭く速く。だがゼットワンは笑いながらにそれを躱す。


「無様、無様! もはや貴様を手に掛けるのも容易いな! ははははは!」

「……、……!」


 アクセルリスは目を見開く。銀の瞳に映るのは、シャーカッハ。

 だが、その膝は地に付いたまま、離れようとしない。


「ならば冥途の土産に、もう一つ知識を享受してやろう! 私が得た力について、だ!」


 最早勝利は確実なもの。ゼットワンの雄弁はここに極まる。


「この二つの結晶。これはとある魔女たちの力を結晶化したものだ。これを用いることで、その魔女たちが宿していた魔法を行使することができる!」

「魔女の力だけを……!? そんな冒涜的なことが許されるわけ……」

「残念ながら、研究をしていたのはお前の師でもあるアイヤツバスだ。恨むのならその魔女を恨むことだな!」

「お師匠サマが何の目的もなしに、そんなことをするはずがない! なんの目的が……」


 だがアクセルリスは首を振り、その疑問を振り払う。どうせ考えても答えは出ない。それよりも先に、考えなければいけないことがあるのだ。


「……そんな危険な魔法、一体誰の」

「教えてやろう。今の私はすこぶる機嫌が良いからな! この結晶の主は、《潰滅の魔女オブリテレイト》と《妖星の魔女ディザスター》!」

「それって……」


 アクセルリスの記憶が呼び起こされる。オブリテレイトとディザスター。それは。



「然りィ! 俺様が潰滅の魔女オブリテレイトだ! 特技はブッ壊すこと! よろしくな!」

「そして私がディザスター。オブリテレイトの保護者と見て貰って構わない」



「メラキーと出会った、次の日の……!」

〈あのとき主がボコボコにしたやつらか!?〉

「でも、私が戦ったとき、あの二人はそんな魔法を使う素振りは見せなかった……」

「当人すら自覚していなかった、眠る本当の力を引き出したのだ! いやはや、アイヤツバスの手腕には全く脱帽する!」

「……お前がお師匠サマを語るな……!」


 その目は憤怒に塗れながらも、けして己の使命を失わない。ただ『一点』を見つめたままで。


「そもそもお前の目的は何なんだ! 単なる復讐か? それとも誰かの差し金か!」

「両方の折衷、といったところだな! 私は恨みを晴らし、クライアントは私に仕事を課す! 一応傭兵なのでな、私は!」

「傭兵の癖に個人的な感情で動くのか。お前の仲間たち……スカーアイズやインペールが今のお前を見たらどう思う事か」

「──黙れェッ! その名を出すんじゃあない……!」


 かつての友。ゼットワンはその名に過敏な反応を見せる。


「スカーアイズ……インペール……! あいつらがいれば、私は……私はきっと……!」


 顔を覆い、項垂れるゼットワン。


「ああ……あああ…………!」


 叫喚の咽びが聞こえたが、すぐに顔を上げて。


「…………少し取り乱したが、もうあいつらのことなどどうでもいいさ。いずれにせよ、私は魔都と共に消える身だからな」

「……どういうこと?」

「《妖星の魔女》の力。それは星を操る力だ。私はその力をもって、この都に星を落とす」


 途方もない計画に、アクセルリスは面食らう。


「それ、正気で言ってるのか……!?」

「最早私に正気などない! この身が滅びようと……全ては些事なのだ」


 そう謳うゼットワンの目に、光はない。


〈……主、あれって〉

「間違いなく、魔女枢軸の奴らに細工されてる。首輪を壊したいところだけど……」


 だがまだ、機は熟さない。もう少し、あと少し、この場を凌がなければならない。


「……誰なんだ、そんなバカげたことを考えるクライアントって」

「言う訳がないだろう! クライアントの個人情報を秘匿するのは、傭兵の鉄則だ!」

「まあいいさ、だいたいの目星はついてる」

「…………なんなんだ、お前は」


 ここで、ゼットワンが不機嫌そうな声を上げた。


「お前のその態度は……まるで、私と対等な状況に置かれているような、その態度は!」

「何が」

「分からないのか! お前の生殺与奪は私が握っているのだぞ! 私がその気になれば、お前もまたシャーカッハの様にこの世から消え去る! だのになぜ、お前は焦らない……!」

「……そう見える?」

「ふざけるな……! 後悔する時間が欲しいのならば、あまり私を怒らせない方が良い……!」


 ゼットワンはアクセルリスへと手をかざす。赤い結晶が仄く光始める。


「……じゃあ」


 アクセルリスが、立ち上がった。


「そろそろいいかな」


 その声色には、絶望も恐怖も悲観もない。ただ宿る、残酷な希望。


「どうした! この期に及んで全て諦めたか! 利口といえば聞こえはいいが、所詮それは無様の極みなり! はははは! ははははははははは!」


 結晶の光が満ち、力が放たれようとした。




 その瞬間だった。




 がしり、とゼットワンの首が掴まれ、強く締め上げられる。


「がっ!?」


 意識外からの拘束に、魔力の流れを途切れさせるゼットワン。結晶の光が失われる。


「ぐ、が、な……なんだ……! 誰が……!?」

「誰かって。一人しかいないでしょ」


 アクセルリスの言葉。


「────ッ!!」


 一瞬の後、ゼットワンの背筋に電流が走った。それは恐怖の稲妻。


「バカな……そんなはずが……!」

「あるのよ。そういうことも、ね」


 少し首を捻っただけで見えた。

 揺れる長い桃色の髪。


 それは、シャーカッハ・ヒュドランゲア。


【続く】

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