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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
30話 残酷スクランブル!
132/277

#3 縦横無尽.Akz

【#3】


 ──その頃。魔都の中心、クリファトレシカの正門に、アクセルリスは辿り着いた。

 息を切らしながらも、門番に問う。


「ここに、魔女が来てませんか」

「……はい。ですが不甲斐ない事に、我々は侵入を許してしまいました……誠に、申し訳なく……!」


 悔やむ門番に影からの声。


〈今はそういうのはいい、そいつは今どこに?〉

「この門を抜けた以上、中庭を通過しクリファトレシカに侵入するはずなのですが……クリファトレシカ入口の担当から魔女が現れたという報告は、一切成されておりません」

「中庭に隠れてる……ってのもありえなさそうだし、だとすると……」


 考えを巡らせながら、アクセルリスはふと空を見上げ。


「──上?」


 すぐに解へ至った。


「すいません、この辺りで失礼します!」


 手短に別れを済まし、走り出すアクセルリス。


〈え、主、何を!?〉

「多分ゼットワンは、あの転移魔法を使って、クリファトレシカの外壁を登っていったんだと思う!」

〈そんなことできるのか!?〉

「私にはそれしか考えられない! 違ったらそのときはそのとき!」

〈相変わらず清々しいくらいの一直線だな!〉

「それ褒めてる!?」

〈褒めてる褒めてる! 流石主だぜ!〉

「ならよし! じゃ、飛ぶよ! ほら、早く人になって!」

〈えっ、なになになに!?〉


 トガネは訳も分らないままに影を編み、人型へと変わる。アクセルリスはその手をがっしり掴む。


「なに!? なにすんの!?」


 助走は十分。クリファトレシカの壁はすぐそこに。

 アクセルリスはそこへ至り、壁目掛けて跳ぶ。そして。


「しゃああっ!」

「うわーっ!?」


 壁を蹴り、トガネごと三角跳びを敢行。直後、真下の地上から飛来する鋼の槍を掴み、そのまま浮上してゆく。


「な……なんてめちゃくちゃだ」

「こうでもしないとこんな高い塔登っていけないからね!」


 怯えきったトガネと不敵に笑うアクセルリスを連れ、槍は飛翔を続けていく。




 その道中。

 落下すれば確実に身が砕けるであろう程の高さ、具体的にはクリファトレシカの80階に差し当たったあたり。


「アクセルリス」


 高速飛翔体と化したアクセルリスを、クリファトレシカから呼ぶ者がいた。


「お師匠サマ!? どうしたんですかこんなところで」

「ウワーッ!」


 アイヤツバスだ。アクセルリスは急ブレーキをかけそちらを見る。その衝撃でトガネが悶える。


「どうしたの、はこっちの台詞だけど……まあ、そんなことを言ってる場合じゃないわ」


 只ならぬ様子。砕かれた窓ガラスからも、それが伺える。


「ゼットワンを追っているのでしょう?」

「はい、外側から侵入を試みている、と推測しまして」

「彼女は今99階、邪悪魔女会議室にいるわ。そして、気を付けなさい」


 その声色から、アクセルリスもトガネも、事の重さを悟る。


「研究部門に保管しておいた研究品がゼットワンに奪われたわ。それは彼女に強大な力を与えている」

「そんな!?」

「だから用心して、そして急ぎなさい。99階には今パーティーメイカーズの三人がいる」

「!」


 アクセルリスの目の色が変わる。パーティーメイカーズは、以前ゼットワンたちに辛酸を舐めさせた。ゼットワンがその事を恨んでいる可能性も、ゼロではない。


「──わかりました」

「気を付けてね。私も後から向かうわ」

「お師匠サマもどうか気を付けて! では!」


 上昇を再開する。トガネの悲鳴を魔都に響かせながら。


「誰かオレも気遣ってくれーッ!」




「……っと」

「も……もうダメ……」


 そして至るは99階、見慣れた会議室。

 トガネは目を回し、アクセルリスの影へと戻る。


「ここも、窓が……」


 警戒しながら、割れた窓から入り込む。

 そして、状況が一刻を争うものであることに、すぐ気付いた。


「──ッ」


 銀の眼が捉えたもの。

 触腕の過半数を失い、力なく壁に倒れ込むカイトラ。

 血まみれになり、主を失い地に臥すケムダフの帽子。

 肩で息をしながら、敵を睨むシャーカッハ。

 そして、笑みを浮かべるゼットワン。


「シャーカッハさん!」

「アクセルリス……!」

「おやおやおやおや、意外と早かったな? 流石は残酷魔女の精鋭、といったところか。しかし」


 ゼットワンの左手には、赤と青の結晶が握られている。そして、そのうちの一つ、赤い結晶が光を放つ。


「アクセルリス、避けて!」

「っ!?」


 わけもわからず、しかし危険を察知し、アクセルリスはシャーカッハと共に飛びのいた。

 その直後。


「フッ!」


 ゼットワンの右手から、不可視の波動が放たれた。

 空間を歪ませるような『圧』を感じ、アクセルリスはその存在に気付く。

 そしてその波動は、床に触れると──抉る様に、その一部分を消滅させた。


「え──」


 描写に偽りはない。『消滅した』のだ。


〈な……なんだ!?〉

「ははははは! ははははははは! 驚いたか? 無理もない!」


 アクセルリスは思考を巡らせる。ゼットワンに、これほどの魔法を使役する力はない。では、この力は一体?


「──お師匠サマが言ってた、研究品が……!?」

「どうやらそうみたいね……全く、アイヤツバスもおっかないものを作る!」


 軽くそう言ってのけるシャーカッハだが、その様子は明らかに追い詰められている。


「……カイトラさんと、ケムダフさんは」

「今は戦闘不能。でも心配しないで、無事だから」

「だがすぐに! 貴様ら纏めて消し去ってくれる!」


 再び、赤い結晶が光り始めた。


 アクセルリスとシャーカッハが、構える。


【続く】

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