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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
30話 残酷スクランブル!
131/277

#2 Numer.on

【#2】


 ヴェルペルギース、東部ケイトブルパツ地区。


「……見つけたぜ、テロリスト」

「ん……?」


 開けた空間の多いケイトブルパツ地区。グラバースニッチが敵と邂逅したのも、また例に漏れず広場であった。


「俺は残酷魔女グラバースニッチ。魔女機関のお膝元で大暴れとは、良い度胸しちゃがるな?」

「それほどでもない」

「名乗れ」

「《幻惑の魔女ツープラトン》だ。以後、よろしく頼む」


 ツープラトンは洒落た風に礼をする。その声は、僅かに、重なる様に、震える。


「聞いたことのない名だな。まあいい、お前たちの目的はなんだ?」

「己に問うが良い。知らないことを知ること、行き詰まりに行き着くこと、それこそが学びだ」

「悪いが俺は学はさっぱりでな! 言わないというのなら、力づくで聞きだすだけだ」

「全く、暴力的な魔女だな。いいだろう、私も腕っぷしには少し自信がある──!」

「行くぞッ!」


 獣と幻惑。一つ目の戦いが始まる。





 ヴェルペルギース、西部パーガスッス地区。

 イヴィユはすぐに目星を付ける。


「良き良き、良う燃えよるわ!」

「そこまでにしておけ、そこな魔女よ」

「うむ? 儂のことか?」


 炎のように滾る橙色の髪を持つ魔女。その手から放たれる炎の球は、触れたものをすべて燃やす。


「お主は」

「残酷魔女だ。暴動を止めに来た」

「ほう、やはり現れたか! 良いだろう、お主もまた燃やすのみ!」


 その魔女は大げさに見得を切り、名乗る。


「我が名は《炎天の魔女サンバーン》! いざ、尋常に!」

「断る。私の得意分野は騙し討ちだからな」

「なんとぉーっ!?」


 進化と炎天。二つ目の戦いが始まる。





 ヴェルペルギース、南部カーバロソ地区。

 降り立ってすぐ、ロゼストルムは異様なものを見つける。


「グラァァァ……グララアガアァァァ……」

「なんですの、あれは……!?」


 それは半透明な巨人。騎士の鎧を纏う。

 そしてロゼストルムは、心臓の部分に、一人の幼い魔女がいることに気付く。


「まだ子供じゃない……!」

〈誰カ、私ノコトヲ、子供ト言ッタカ!〉

「しかもちゃんと外の様子を確認できている……厄介ですわね」


 巨人はゆっくりと身を動かし、ロゼストルムをしっかりと視認する。


〈何者ダ! 貴様!〉

「残酷魔女ロゼストルム! 貴女を止めに参上しましたわ! 貴女こそ、何者です!」

〈私ハ! 《剛体の魔女ゴリアス》ダ! 断ジテ子供デハ、無イィィィィィ!〉


 咆哮。家々の屋根が剥がれる程の衝撃になる。


「これは相当骨が折れそうですわ……!」


 ロゼストルムを風が包み、彼女を空に巻き上げる。


〈来イイイイイイイ!〉


 薫風と剛体。三つ目の戦いが始まる。





 ヴェルペルギース、北部テテュノーク地区。


「やあ、きみが暴動の主だろう?」


 ミクロマクロが気さくに話しかけるのは、妖しげなヴェールを纏った魔女。目元には布が巻かれ、目隠しとなる。その怪しい様は占い師のようでもあり。


「貴女が来ることは分かっていました。規格の魔女、ミクロマクロよ」

「へぇ? 私のファンなのか?」

「いえ。水晶の囁きです。未来を映し出すクリスタル、それが私の力であります」

「面白いね。きみ、名前は?」

「《天眼の魔女シックスセンス》。どうぞお見知りおきを」

「なんて丁寧な挨拶だ。これは一筋縄ではいかなそうだ」

「試してみますか? 私には貴女の全てが見えますが」

「それでもやるんだよ。仕事だからね」


 ミクロマクロは肩を竦め、鉄輪を備える。


「では、どうぞ」


 規格と天眼。四つ目の戦いが始まる。





 そしてヴェルペルギース、北部テテュノーク駅からクリファトレシカに繋がる、一本の大路にて。


「いた!」

「あそこか」


 アクセルリスとシャーデンフロイデは、その進行を妨げるように降り立つ。


「そこまでだ」

「ここから先は行かせない!」


 銀の眼が見据える、二人の魔女の片割れが、口を開く。


「ははははは! ははははははははは! 随分と早いお見えだな魔女機関諸君!」


 開ききった眼で高笑いをするその姿、気が触れているというより他ならない。

 そして、その顔に、アクセルリスは見覚えがあった。


「あれは、確か……ゼットワン……!?」


 それは領域の魔女ゼットワン・レギオン。かつてアクセルリスと相対した魔女の一人だ。


「おやおやおやおや、私の名を知っている? ふむ、そういえばその銀の髪、確かに私にも覚えがある!」


 かのゼットワンもまた、アクセルリスのことを覚えている……と、口では言うが、この様子では信憑性は怪しい。


「あれがゼットワン。パーティーメイカーズを襲撃したという、傭兵魔女か」

「はい。以前とは風貌も様子も違いますが、間違いないです。でも確か……」


 想起する。ゼットワンは最後、魔女枢軸所属と思われる魔女に、攫われていったことを。

 そして、その首。以前のアントホッパーに装着されていた首輪と酷似するものが、その首には嵌められていた。


「……もしかしたら、今回も魔女枢軸が関わってるかも」

「貴重な手がかりだな。僥倖だ」


 シャーデンフロイデは一歩にじり寄る。アクセルリスもまた続く。

 だが、ゼットワンはそれを大袈裟に手で制し。


「逸る、逸る! だが私には優先すべきことがあるのでな、悪いが相手はできん!」


 そう言った直後、ゼットワンともう一人の魔女の姿が、一瞬にして消える。


「後ろです!」


 アクセルリスは知っている。この魔法の原理を。

 9かける9マスの領域を生み出し、その間を瞬間移動する魔法。自分を隅として領域を広げ、逆隅へ転移することで、連続的な移動を行うことができる。


 振り返ると、既にこちらに背を向けて移動するゼットワンが見える。


 二人もそれを追うべし、と身を乗り出したが、その前にもう一人の魔女が立ちはだかる。これは、アクセルリスも未だ知らぬ魔女。


「お前は?」

「《覚醒の魔女フルフォース》」


 フルフォースと名乗るその魔女。目線はシャーデンフロイデと水平に並ぶほどの、大柄。


「悪いが通さん」

「成程。よく訓練された壁だ」


 手を広げ、二人を圧する。そこから感じられる威圧感は、アクセルリスも少し気圧されるほどだ。



「……アクセルリス」

「何ですか?」

「ゼットワンを追え。交戦経験のある方が良い」

「了解です!」


 伝達を手短に済ますと、シャーデンフロイデはアクセルリスを持ち上げ──放り投げた。


「頼んだぞ、アクセルリス」


 それがアクセルリスの耳に届いた最後の一言だった。




「さて。次は」


 そしてシャーデンフロイデはフルフォースを見据える。


「腰の据わった、良い魔女だ。流石は残酷魔女隊長、か」


 フルフォースは手を広げたままに、拳を握る。


「だが私も、一筋縄ではいかないぞ?」

「試してみようか」


 そう言って、シャーデンフロイデは構えを取る。

 足を肩幅に開き、右の手は自然に開いた状態で前に出し、左の手は握り拳を作り腰に当てる。

 まるで壁画のように、がっちりとした隙の無い厳かな構え。シャーデンフロイデの、基本姿勢。


「来い」

「悪いが、加減はできんぞ。我が覚醒されし肉体の前に、精々足掻いてみせろ──!」


 全身に迸るマグマのように熱い魔力を滾らせ、フルフォースは駆ける。

 一歩一歩踏み込むごとに、石畳を砕いてゆく。

「はぁ──!」

 そして両腕を開き、シャーデンフロイデを挟み潰さん、と迫る──


「──」



 シャーデンフロイデの瞳が、輪郭が、青白く光った。



「え」


 次の瞬間だった。

 フルフォースの天地が逆転し、脳天から地面に落下する。


「ぐ──ッ!?」


 文字通り、頭が割れるような激痛。のたうち回り、その余波ですら周囲が破壊されるが、シャーデンフロイデは。


「……」


 ただ無言のまま、構えるのみ。風に煽られ、透明なペンダントが揺れる。


「ぐ……何を……!」


 呻きながら立ち上がるフルフォース。その額からは血が流れ落ちる。

 だがシャーデンフロイデは答えない。殺伐な眼をもって、フルフォースを見下ろす。


「来い。何度でも、相手をしてやる」

「ふざけるな……その面、必ずや叩き潰してくれる!」


 フルフォースは激昂を纏い、感情のままに駆けていく。

 シャーデンフロイデの透明なペンダントが、揺れる──


【続く】


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