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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
29話 異形の旅路
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#4 弱肉強食のロゴス

【#4】


 翌日。


「という経緯がありまして」

「それで私が呼ばれたのね」

〈創造主なら間違いないもんな!〉


 コ・コート森丘地帯を進むのはアクセルリス、トガネ、そして『知識』の魔女。それはもちろんアイヤツバスだ。


「カーネイルはどうしたの?」

「『異形』の方を連れてきています。どうにもスケジュールが合わなかったようで、若干遅れてしまうそうな」

「忙しいからね、彼女」

〈出歩くのも大変そうだしな……〉


 会話と共に丘を進み、森が見えて来る。

 それと同時に。


「……何か聞こえるわね」

「聞こえてきましたね。近いです」


 うっすらと、雄叫びと破砕音が響いてくる。それはアクセルリスが昨日聞いたものと同じ。

 そのまま歩き続け、音は次第に大きくなり。


「……居た」


 一行は、それを見た。

 乱暴に切り倒された無数の木々。そして、その中央で暴れまわる、一人の魔女。


「────アアアアアァァァァァァァーッ!!!」


 絶叫と共に、歪な形をした斧を振り回す魔女。その様子は昨日の再生かと見紛うほどだ。

 ただ一つ違うのは、もう一つの頭が、縛られていない事。


「あれが?」

「はい。彼女が背反の魔女アントホッパーです」

「──誰か! ワタシを! 呼んだかァーーーーーーーーー!?」

「──その声は!」


 己の名に過敏に反応し、視線を向けるアントホッパー。


「あぁ!? テメエは昨日の……!」

「来て下さったのですね……!」


 二人のアントホッパーは、それぞれ正反対の反応を見せる。


「よく分からねえが! 『私』に何か吹き込んだらしいな! 生きて帰れると思うなよ!」

「お気を付けください……いえ、『ワタシ』ではなく」


 同時に放たれる言葉。それらは重なり不協和音となるが、アクセルリスは的確に『善』側の言葉を拾い上げる。


「気を付ける……? 何が……」


 だが疑問には至らなかった。答えは、既に見えていたからだ。


「──ッ!」


 『それ』を視認するや否や、三本の槍を生み出し、発射する。

 アントホッパー目掛けて放たれた一槍は、やはり昨日の様に弾かれる。

 そして。残りの二本も、それぞれの得物──逆手持ちの長刀と太刀によって、防がれた。


「……またお前たちか。何度も何度も、飽きない連中」

「悪いね。ボクも生半可な気持ちじゃないんだよ」


 最早言うまでも無く、それはゲブラッヘとバースデイだった。


「一応アントホッパーも魔女枢軸の仲間なんでな! 仲間は大事だ! だから守る!」

「ふざけた事を……私の意見など、聞きもしなかった癖に」

「でもなぁ。あんたはちゃんと同意したからな!」

「然り……然り然り然り! ワタシが望んだのだ……! 破壊を! 破壊を! 理不尽な世界への、反旗を!」


 そう叫び、アントホッパーは駆ける。歪んだ斧を振り上げ、アクセルリスを狙う。


「!」


 アクセルリスはそれを見たが、動くことはしなかった。

 何故か。


「反旗……を……!?」


 それは、アントホッパーが多重の魔法陣によって捕縛されたのを見たからだ。


「お師匠サマ」

「たまには師匠っぽい事しないと、ね」


 当然、それはアイヤツバスの魔法陣に他ならない。

 アクセルリスの師が彼女の陰から現れたのを見て、ゲブラッヘは目を細めた。


「何……?」


 その表情に、いつもの様な不敵さは無く。


「おっと! アイヤツバス様の出現か! これは驚いた!」


 豪胆にそう言ってのけるバースデイへ、おもむろに背を向けた。


「お? どうしたゲブラッヘ」

「急用ができた。帰る」


 返答を待つ間もなく、ゲブラッヘは姿を消した。


「は……? どうしたあいつ」

「あら、あらあら」


 疑問に瞳を歪めるアクセルリス。その背後で、アイヤツバスは変わらずに微笑み続けていた。


「……ま、あんな奴どうでもいいか。となれば、お前ひとりだ」


 槍を構え、その切先をバースデイへ向けた。


「まあ、そんな時もあろうよ!」


 バースデイもまた、太刀を構える。


「お師匠サマ、アントホッパーを連れて下がってください」

「分かったわ。頑張ってね、アクセルリス、トガネ」

「了解です!」

〈任せろ!〉


 アイヤツバスが身を退く。それを見届けたのち──アクセルリスは敵を屠るべく、駆けた。


「ハハハ! 相も変わらず生きが良い!」

「当然だ! 私は、死にたくないから!」

 撃ち合いながら叫ぶ。ぶつけるのは刃にあらず、エゴなり。

「いいねいいねぇその感じ! ギタついた奴は嫌いじゃない!」

「お前に好かれようとも思ってない!」

 信念を宿した強い一撃、バースデイを押し除ける。

「まあまあ、甘んじろ! 人に好かれるってえのはイージーじゃないんだから、さぁ!」

 太刀を垂直に振り下ろす。当然アクセルリスも黙って両断されるつもりもなく、交差させた槍でそれを受け止める。

「ならば諸共に!」

「させないよ! トガネ!」

〈了解だぜーッ!〉

 アクセルリスは己を護る槍の支配をトガネに託す。それをやればこそ、彼女の両手は自由になる。

「何!」

「せいッ!」

 鋭い掌底がバースデイに叩き込まれる。

「ぐっ……!」

 顔を苦痛に歪め、一歩二歩と後ずさる。その過程で太刀を手放してしまう。

「やっちゃえ、トガネ!」

〈任せろ!〉

 手放された得物がどうなるか。それは先日のアントホッパーが実証している。

〈喰らえーっ!〉

 影の魔物による、太刀の投擲。威力も、速度も、精度も、申し分ない。

「く……なかなかやる……!」

 バースデイがとった行動は、ブリッジ回避だ。

「そう! お前はそれをやるしかない!」

「──!」

 それは既にアクセルリスの手中にあった。

 空を見ているバースデイの視界に、銀色の残酷が映り込む。

「全て……想定済みか……!」

「せいやーッ!」

 大地をも抉るような、肘の一撃。


「ぐ────」


 重力と回転を過剰なほど破壊力へと還元したそれが、バースデイに喰らい付いた。


「──ああぁぁーーーーッ!」


 地に叩き付けられ、吹き飛び、転がるバースデイ。

 だが。


「……ぐ……う。なかなか……強烈な一撃だった……!」

 あれだけの衝撃を受けながらも、彼女は立ち上がったのだ。


「なんてタフな奴!」

「ハハハ……! バイタルには自信があってね……!」


 そう言って笑う手には太刀が戻っている。


「……とはいえ、手痛いのは事実だ」


 よろめき片膝を付く。苦しげな表情は偽りではないようだ。 


「仕方ない……アレを使うかな」


 そう言ってバースデイは、大地に手を付け──魔力を注ぐ。



「何だ……?」

 アクセルリスが警戒を強め、槍を構える中、変わらず魔力を注ぎ続ける。

 そして。


「よいしょーっ!」


 地面より眼の無い竜を引きずり出した。彼女の魔法により生み出される使い魔である。

 バースデイは、その使い魔を容赦なく使い捨てる。アクセルリスは不安を感じ、さらに深く身構える。


「まあ、そんな怖い眼で見るなよな。大したことじゃないからさ」


 そう言って、バースデイは笑う。

 そして、竜を掴むその腕に力を籠める。。


「A……AAGHHHH……!」


 竜が呻き始める。それが苦痛によるものであることは、誰の目にも明らかだ。


〈なんだ……なんだアレ……!?〉


 トガネが怯える中、バースデイと竜に変化が顕れる。


「AGGGGGGGG…………!」


 竜の体が、甲殻や鱗や爪といったものが、溶けてバースデイに吸収されゆく。

 そしてバースデイの体に、鎧が生成されてゆく。その形はまるで竜を有機的に取り込んでいるような──否、実際に取り込んでいる。


「……」


 アクセルリスは息を呑む。目を疑うべき光景が、おぞましく生を受け継いでいく光景が、彼女の目の前で繰り広げられている。


 やがて。


「……フゥゥゥーッ! これで万全だ」


 竜の姿は完全に消え、バースデイの右胸から肩、腕にかけて立派な鎧が完成していた。


「……お前、何を」

「見ての通り、私の使い魔を取り込んだ」

「自分で生んだ命を、自分のためだけに消費したと……?」

「その通りだが、何か問題でもあるか?」


 バースデイは首を傾げる。


「私が生んだものだ、どう扱おうと私の勝手だと、以前言ったと思うが」

「違う……! どんな形であれ、命は他者が好きなように使っていいものじゃない……!」

「……わからんね、お互いに」


 溜息つき、目を伏せる。


「お前なら分かるだろう、アクセルリス。弱きものは、強きものが生きるための糧となる。私はただそれだけのことをした」

「違う!」


 強く声を荒げるアクセルリス。


「命っていうのは……生きるっていうのは! もっと尊くて、輝いて、汚いものなんだ!」

〈主……〉

「互いが生きるために殺し合い、そして生き、死ぬ! それが命なんだ! お前のやってることは違う! お前が……お前が命を語るなッ!」


 それは叫び。命の叫び。


「……私には、違いが分からんけどなぁ」


 バースデイは興味なさげに、つまらなそうにそう言う。


「なら、どちらが正しいか、試してみるか」


 太刀を構える。


「お前のやり方は……私が否定する! しなきゃいけない!」


 槍を構える。


「…………はぁッ!」


 僅かな静寂の後、両者は同時に駆けた。


【続く】

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