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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
29話 異形の旅路
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#3 旅路を嘆く者

【#3】


「……さて」

 座り込むアントホッパーを見下ろす二人。

 間違いなく気絶している。だが。


「──! ──!」


 その首から生える謎の球体からは、呻き声が絶えず。


「アクセルリス様」

「そうですね。とりあえず……中を見てみましょうか」

 

 言うも早く、カーネイルはナイフで素早く鎖を切り裂いた。


「────」


 そして、中より現れたのは。


「──ああ、ああ、助かった。とても助かりました。感謝しきれないほどです」


 アクセルリスの予想通り、それは「頭」だった。


「恩人よ、どうかお名前をお聞かせ下さい」

「私は邪悪魔女アクセルリス。調査のためにここに来ています」

〈使い魔のトガネだ!〉

「秘書のカーネイルでございます」

「なんと、邪悪魔女……! 魔女機関の方々に救われるとは、まさに幸運……!」


 声を震わせながら感極まる。


「あなたは……?」

「失礼、申し遅れました。私はアントホッパー。称号は《背反の魔女》。御覧の通り、少しばかり事情持ちなのですが、私の話をどうか聞いて下さりますでしょうか、心優しき魔女がた」

「是非お願いします。私達も情報が欲しいもので」

「では話させていただきます」


 黒髪のアントホッパーはかしこまった様子を見せ。


「しかし如何せん何処から話し出せばいいものか分からないですが、ひとまず私の身の上話、魔女アントホッパーの生誕からお話いたします」


 そうして話を始めたのは、魔女としての生い立ちからだった。


「私アントホッパーが魔女になったのは、半年ほど前でした。師の元で数年ほど修行を積み、そうして天啓の神殿へ赴き、正式に称号を授かり魔女になったのです」

「普通だ」

「普通ではなかったのは、その称号でありました」


 アントホッパーの表情が曇る。そしてカーネイルが言った。


「貴女の称号は、確か《背反》」

「ええ。その《背反》という称号が一際の曲者でありました。私に与えられた魔法、それは『分離』の力だったのです」

「分離……」

「お判りでしょう。その称号が齎す作用により、私アントホッパーの精神が二つに分離、それぞれを宿す頭として二つに分かれてしまったのです」

〈そんなことも、あるのか……〉


 怖気づくトガネ。


「大雑把に、とても大雑把に分けてしまえば、私は『善』と『悪』に分かれたのです。私が『善』側のアントホッパーであります」

「確かに、話し方からそう感じる。さっきの方も考えるとなおさらだ」

「そして悲運な事に、私の体の所有権を有するのは基本的に『悪』側だったのです。私には体を支配するほどの独善性は失われてしまった!」


 アントホッパーの声は悲しみに暮れる。


「そして享楽、暴力、憤怒を司るもう一人の私は、このように精神が二つに分離し頭も二つになるという状況を、黙って受け入れるはずもなく」

「故に、当ても無く暴れていたのですね」

「その通りでございます。なので、私が自由を得られるのは、もう一人の私が疲れて休眠している間だけだったのです」


 ある程度話が見えて来た。アクセルリスは腰に手を当てる。


「……それで、その後は? 巻かれてた鎖とか、あっちの言ってた『アイツラ』とか」

「それもつつがなくお話致しましょう。ある日、ワタシが暴れていた時でした。ワタシの前に不可思議な魔女が姿を現しました」

「魔女……」


 アクセルリスはどこかキナ臭いものを感じ取り始める。


「彼女はワタシを見るや否や、何らかの魔法をもって私の意識を失わさせました。そして気付いたころには見知らぬ部屋、薄暗く不気味な広間に居りました」

〈拉致、だな〉

「彼女はこのような事を言いました。『我々の組織に入れば、お前の憤りを好きなだけ発散させてやる』と。その言葉は不可解なリズムを刻み、私には理解が追い付きませんでしたが、ワタシは本能的に理解したようでありました」

「不可解なリズム……?」


 アクセルリスの眉が一層ひそめられる。


「もう一人の私は直ぐにその提案に快諾しました。そして、それからはその魔女に指示された地で暴れるようになったのです」

「暴れるところを指示、ですか」

「……で。その魔女の名前は」

「確か、ゲデヒトニスと」

「──」


 目を伏せた。やっぱりか。


「アクセルリス様、これは」

「はい。組織というのは、間違いなく魔女枢軸」

「何か存じ上げているのでしょうか? それならば僥倖なのですが」

「魔女枢軸、それは──」



 アクセルリスは簡潔に、魔女枢軸のこと、その目的の事、そして起きた事件を話した。



「……なんと……!」


 憤りを見せるアントホッパー。


「知らぬ間に、そのような悪事の片棒を担がされていたなんて……! 許せない!」

「……でも、見ようによってはこれは大チャンスでもある」

〈どういうことだ?〉

「魔女枢軸に在籍し、その内情を知りながら、正しき心を持つ魔女がここにいる。これは魔女枢軸、ひいては戦火の魔女へ続く大きな手掛かりになる!」


 強く言い、アントホッパーへ手を伸ばすアクセルリス。


「さあ、行きましょう」


 だがアントホッパーは俯いたままその身を動かさずに。


「……それが、できないのです」

「というと?」

「この首輪が見えますか」


 頭を上げるアントホッパー。その首元には、頑丈そうな首輪が巻かれていた。その中央には赤い魔石が光る。


「この首輪が、私の行動を制限しつつ、その上私の位置も監視しているのです」

「なら壊せば」

「魔石を解除せぬまま破壊すれば、私の命も絶えるでしょう」

「え」


 アントホッパーの言葉に、偽りの気配はなく。


「……なんてこった……こざかしい真似を……」

「なので、私から一つ、提案があります」

「提案? というと?」

「今日のところは、お帰り頂いて下さい。ワタシは明日もここで暴れているでしょう」


 彼女は、理知整然と、策を編む。


「なので、明日。この魔石を解除できる知識を備えた魔女を連れ、再びここへと赴いてほしいのです」

「出直す、ってことですか」

「その通りでございます。加えて──これは私の私情なのですが──『異形の身』に対して、理解を持つ魔女も連れてきていただきたい」


 そう言ってアントホッパーはもう一つの頭を見る。


「ワタシも、背反する存在ではありますが、私であることに変わりはないのです。彼女を、心の闇から解放したい。それが私の望みです」

「……わかりました。善処します!」

「お手数をお掛けし、恥ずかしいばかりです」

「いえ、お気になさらず。それに対処するのが、我々魔女機関であります故」

「ああ、ああ……! 重ね重ね、感謝してもし切れない……!」

「そ、そんなにかな……」


 どうにもアクセルリスはあまりこういうことに慣れていないのだ。



「では、明日。ちょうどこの時間に、『知識』と『異形』の魔女を連れてここに戻ってきます」

「お待ちしております──といっても、私も再び拘束されるでしょうから、その時はまたよろしくお願いいたします」

「はい、必ず!」

「どうか、お気をつけて」


 希望を明日に託し、アクセルリスたちは帰路に付こうとした。

 その時、ふとアントホッパーが言った。


「──そして、最後に一つ注意をしていただきたいのが────」

「ん?」


【続く】

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