表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
29話 異形の旅路
124/277

#2 異形のパプステマ

【#2】


 それから間もなくして。

 トガネがいち早く反応を示す。


〈……感じるぞ。濃い魔力が〉

「近いってことだね」

「はい。ここまでの濃度ならば、魔力以外にも何らかの痕跡が残っていそうですが」


 カーネイルが周囲を見渡す。その時、アクセルリスは気付いた。


「なんだ、この音」

〈何か聞こえるのか?〉

「なんか……樹を切り倒してるような音……?」

「確かに聞こえますね。加えて、これは……叫び声、でしょうか」

「行ってみよう」



 音の元にはすぐ辿り着いた。

 乱暴に切り倒された無数の木々。そして、その中央で暴れまわる、一人の魔女。


「────アアアアアァァァァァァァーッ!!!」


 絶叫と共に、歪な形をした、身の丈ほどもある巨大な斧を振り回す緑髪の魔女。その様子は誰がどう見てもまともではない。

 加えて。


「──! ──!」


 その首元に生える、謎の球体。鉄の鎖でがんじがらめに縛られており、時折呻く謎の物体は。


「…………頭……!?」

〈なんだ……なんだあれ……!?〉

「……只者では無さそうですね。用心して参りましょう」


 姿を現した一行に、その魔女もすぐに気付く。


「なんだテメーらはァァァァァッ!?」

「私達は魔女機関だ!」

「魔女、機関……? アイツラの敵か!」


 落ち着く事なく敵意を見せ続ける魔女。アクセルリスも槍を生み出し、警戒レベルを上げる。


「お前は何者だ!」

「ワタシかァ!? ワタシたちは《背反の魔女 アントホッパー》だァ!」


 アントホッパー。その者はそう名乗った。


「アントホッパー……? カーネイルさん、何か知ってますか?」

「少なくとも、外道魔女のリストには名を載せていません」


 二人にとっては未知の魔女。事情を聴取したいところであったが、状況が状況であり。


「魔女機関……敵……! 敵! 敵だ!」

 有無を言わせぬまま、斧を乱暴に振り回し迫り来る。

「話し合いでどうにかなる相手じゃなさそうです!」

「一旦鎮圧しましょう。アクセルリス様、部門長として交戦許可を」

「邪悪魔女5i環境部門担当アクセルリスより命じる! 未知の魔女アントホッパーとの交戦を許可する!」

「了解でございます」

 合図を交わし、共に得物を構え、敵を迎える。


「しゃあおらぁ!」

 数本の鋼槍が威勢良く放たれる。

「効かねえ効かねえ効かねえッ!」

 だがそれは、異形な斧の暴威により、一つ残らず弾き落とされた。

〈あらら、全部当たらなかったぞ〉

「ちぇっ! なんか最近全然槍が有効打になってない気がするなぁ!」

〈有名になったってことなんじゃないか?〉

「だと嬉しいけどね!」

 飄飄と言葉を交わしながらも、アクセルリスは残酷に有効打足り得る手段を考する。

 その最中。

「砕く……ッ!」

「!」

 斧を振り上げ迫るアントホッパー。アクセルリスは盾を構える──が。

「脆いッッッ!」

 暴力的で重々しい一撃に、鋼の盾が砕かれる。

「うっわ、マジかぁ!?」

 驚きながらも続く一撃は的確に躱し、距離を取る。


〈思ってたよりもヤバいな、あれ!〉

「魔女枢軸の奴らに勝るとも劣らない脅威だね……集中、集中!」


 気を引き締めるアクセルリスの背後に、カーネイルが現れる。


「……確かに、かの魔女の膂力は規格外のようです」

 彼女の黒い眼が、アントホッパーを凝視する。強く、深く。


「僭越ながら、進言を致します。今一度、アントホッパーと刃を交わしてくださいませ。私が隙、弱点を『観』ます」

「分かりました。お願いしますッ!」

 カーネイルの観察眼。アクセルリスはその正確さを良く知っている。だからこそ、任せる。



〈どうするんだ!?〉

「真っ向勝負ッ!」

〈ですよねー!〉

「しゃあああああっ!」

「何度でも……迎え……撃つッ!」 

 アクセルリスの槍とアントホッパーの斧がぶつかり、競り合う。

 ギリギリと、刃同士が互いを喰らい合う音が響く。

「やっぱ……重いな……!」

 アクセルリスが目を細める。彼女ですら苦しみを覚えるその重さ、決して侮ってよいものではない。

 得物の差を筋力と経験で補いながら、槍持つ手に信念を込める。

「…………!」

 そして最早槍と一つとなったアクセルリスは、その身から伝わる感触で、一つの事象に思い至る。

「これって……!」

 疑念を確信へと変えるべく、動く。

「せいやっ!」

 己の槍を蹴り上げ、無理矢理に敵の斧を退ける。

「むゥ……ッ!」

 アントホッパーは再び斧を振り下ろす。だがアクセルリスはそれよりも早く、槍を蹴り捨て戦線から離脱していた。

「ちょこまかと……!」


 怒りを見せるアントホッパーだが、アクセルリスはそれを気にも留めず、カーネイルと目を合わせる。


「カーネイルさん」

「はい。その眼を見れば分かります」

〈オレにはさっぱりだ! 説明してくれ〉

「あいつ……アントホッパーからは、「二人分の力」を感じた」

「私の観察結果からもそれは裏付けられます」


 肉体のアクセルリスと理知のカーネイル、対極の視点より同じ結論に至る。


「彼女の固有魔法によるものでしょうか、何らかの方法を使って魔女二人分の膂力を一つの身に有しているのです」

「なかなか愉快な魔法を使うやつも居たもんだ!」


 笑って言い捨てるアクセルリス。そしてトガネは無い首を傾げながら言う。


〈……で、結局どうすんだ?〉

「相手が二人なら、こっちも二人で行く!」

「そして真正面からの撃ち合いは避け、搦め手を中心として攻めていく。それが最適でしょう」

〈……なんだかんだ言った割にはシンプルな答えじゃねえか! 最初からそれでよかったんじゃ……〉

「こういうのは考える過程が大事なんだよ!」

〈そ、そうなのか……!?〉


 アクセルリスはうまい事トガネを言いくるめ、三度アントホッパーを睨む。


「お喋りは、満足したかァ?」

「ああ、もう十分」

「後悔するぞ……きっとそれが最期の会話になるだろうからな……!」

「んー。啖呵にしてはちょっとセンスがないね!」

「ふ、ざけるなァーッ!」


 挑発に動いたのはアントホッパーだった。斧を大きく振り被り、迫り来る。


「アクセルリス様、私が合わせます。お気に為さらず、戦ってくださいませ」

「了解ですッ!」

 自由を確約されたアクセルリスは手に負えない。アントホッパーはそれをこれから身をもって味わうこととなるだろう。

「なら遠慮なく!」

 迫るアントホッパーに、挑むように向かってゆく。

「容赦もなく!」

「潰すッッッ!」

 大斧が振るわれる。大ぶりなその一撃を避けるのは造作も無いが。

「う……」

 その余波だけで、破壊力を痛感できる。「これはヤバい」とアクセルリスの本能が囁く。

「……ま、そんなの見りゃ分かる!」

 だが当然アクセルリスがその程度で臆することも無く。

「しゃッ!」

 槍を生み出し、そのまま足元を狙って突く。

「小賢しい!」

 アントホッパーは斧を地に付け、それを支柱に跳ねる。

「ふ──んッ!」

「うぐ……!」

 空中からの踵落とし。アクセルリスは鋼纏う腕でそれを防ぐ。

 衝撃が響き、大地が唸る。

「なかなかやるじゃん!」

「よく吠える口だ! すぐに言葉など吐けぬようにしてやるッ!」

 大斧が振るわれる。アクセルリスはそれを後退して避けながら、思考を巡らせる。


(隙の大きい一撃、牽制としての意味合いが主……なら、反撃も許さないほど早く、攻めるッ!)


 その両腕に鋼が生み出される。

「迅速に──ッ!」

 身軽なまま、その拳を叩き込むべしと駆け寄る。

「まず一発!」

 鋼の拳が走る──だが。

「甘いッ!」

 アントホッパーは斧を構える。幅広な大斧は、横に構えれば強固な盾ともなる。

「ぐあっ!?」

 それは鋼の拳をもってしてもビクともしない頑丈さ。むしろ逆に、アクセルリスの身が硬直してしまうほどだ。

「見せたな……隙を!」

 不敵に笑み、斧を刃として構え、敵を断つべしとする。

 だが。

「させません」

「!」

 背後からの声、反射的にそちらに目を向けるアントホッパー。

 彼女が見たのはカーネイルと彼女が投擲したナイフだ。

「この程度の、ちんけな刃で!」

 苛立たしそうに斧を振り、ナイフの群れを振り払う。

「そのちんけな刃が貴女の敗北を招くこととなるのです。よく覚えておくことを推奨します」

「!」

 殺意を感じ、振り返る。

 だが、それが過ちであることに、アントホッパーはすぐ気付く。

 その眼に映るのは、僅か眼前に迫る残酷。

 そして、その残酷が牙を立てる。

「見せたな! 隙をッ」

「グ────!」


 アクセルリスの肘鉄が、無防備なアントホッパーの額を撃った。

 それは言うまでも無く凄まじい衝撃だ。生半可に受ければ、即気絶するだろう。

 ──だが。


「──効か……ねえ!」

「嘘──!?」

 なんたる耐久力、あるいは暴虐の信念か。

 アントホッパーはそれを受けても尚意識を保ち、血眼でアクセルリスを強く睨み続けていた。

 そして。

「シャ……アアアッ!!」

「ッ!」

 暴力的に、強く、強く、斧を振り下ろす。

 アクセルリスはそれを紙一重で躱す。

 だが、衝撃によって引き起こされた振動と土煙が残酷の五感を阻害する。


 時間が鈍化する。

 アントホッパーはすかさず追撃を行うだろう。

 この状況下では予測回避は困難。トガネに頼るか? 否。それだけの時間もないだろう。

 ならば、手段は一つ。


「────」


 封じられた感覚の中、状況判断を下す。

 頼るのは、己の中で哭き叫ぶ生存本能。


「──はッ!」

 後方に倒れ込む。ブリッジ回避だ。

 その直後、アクセルリスの眼前を異形の斧が通り過ぎる。

「躱した、だと!?」

「勘には自信があるんだよ!」

〈流石主!〉

 その姿勢のまま、全身の筋肉を脈動させ、跳び上がる。

「ぐ……!」

 咄嗟に防御姿勢を取るアントホッパー。しかし彼女にアクセルリスの思惑を完全に読み取ることはできない。

「はっ!」

 アクセルリスはアントホッパーの肩を踏みつけ──空を目指した。

「バカなッ!?」

 跳躍。銀の流星が尾を引いて空に落ちていく。

「待て!」

 アントホッパーもそれを追い跳ぼうとする、が。

「させません。何度でも」

 カーネイルのナイフ投擲による援護がそれを邪魔する。

「ち……何度も何度も!」

 やはり所詮は小さな投げナイフ、異形の大斧に阻まれその主を傷つけることは叶わない──が、十分な妨害だ。

 既にアクセルリスは追うには遠い空の向こう。

「小癪な……ならば!」

 宙を舞う銀に向かって、斧を投げつけるアントホッパー。

 それは十分な速度でアクセルリスに追い縋る。まさに背反の魔女の持つ異常膂力が成せる業だ。

「うお、凄い迫力だ! だけどそれは……悪手!」

〈その通りだぜ!〉

 アントホッパーの手から離れ、持ち主を失った斧。それは影に巣食うものに、容易に奪われる。

「何……!」

「ナイストガネ! そのままキープ!」

〈任せとけ!〉

 トガネが維持するその斧を踏み、アクセルリスは空で宙返りする。そして。

「どっ──せい!」

 全力で踏み蹴る。強烈な衝撃を受けた斧は、稲妻の様に墜落していく。

「ぐ……!」

 当然、アントホッパーは回避に移る。己の武器の脅威を一番知るのは他でもない使い手なのだから。

 だが、しかし。

「何っ……!?」

 一歩を踏み出した途端、その体が不自然によろめいた。

「罠を。仕掛けさせて頂きました」

 アントホッパーの視界の外から、冷静極まる声が聞こえる。

「小、癪、な……!」

「褒め言葉、と解釈致します」

 姿勢を崩すアントホッパー。降り注ぐ斧は避けたものの、それよりも凶悪なものが今だ彼女の頭上に残っている。

「よっ──!」

 アントホッパーが再び身構えるよりも早く、銀の星が落ちた。

「今度こそ!」

 アクセルリスは不敵に笑みを浮かべ、ガラ空きの腹部に肘鉄を穿つ。

「ぐっ……ああッ!」

 不安定な身に叩き込まれた衝撃。アントホッパーは千鳥足で深く後退する。

 そして、アクセルリスが叫んだ。

「カーネイルさん、今!」

「承りました」

 長の指令に、秘書は冷静に従うのみ。

 アントホッパーの身が揺らいだ一瞬、その間合いをゼロに詰め。

「失礼致します」

 ナイフの柄で対象の額を鋭く、打った。

「グ…………! ア」

 研ぎ澄まされた正確かつ強力な衝撃に、暴虐を纏ったアントホッパーでも耐え切れず。

 白目を剥きながら気絶し、その場に膝を付いた。


【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ