表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
29話 異形の旅路
123/277

#1 黒き過去、遠い星

「おはようござ──」

「アクセルリス様、任務でございます」


 鋼の魔女にして邪悪魔女5iを務めるアクセルリス。そんな彼女が執務室に入るや否や、秘書である冷静の魔女カーネイルが詰め寄った。


「わわっ、わ。どうしたんですかカーネイルさん、そんな迫らなくても」

「失礼致しました。つい先ほど新しい調査依頼が舞い込みまして」

「内容は?」

「『《コ・コート森丘地帯》にて謎の破壊活動が確認された。近隣では魔力の検知や魔女の目撃情報も多数。至急、調査されたし』とのことです」

「うわぁ、胡散臭い」

「ですがこの時世、外道魔女の関与、あるいは魔女枢軸の存在も有り得ます。急ぎ向かいましょう」


 カーネイルはいつになく詰め寄る。


「わかりました、わかりましたけど、なんでそんなにテンション高いんですか!?」

「今回、私も同行させていただきます故」

「……え、そうなんですか? なんで?」

「現在環境部門に在籍し任務に出ることのできる魔女のうち、最も魔力感知を得意とするのが私でありますゆえ」

〈……オレもいるんだけどなー〉

「私自身、元々フィールドワークを生業としていたものでありまして、久方ぶりの出向調査にこのカーネイル誠に勝手ながら気分が高揚してございます」

「は、はぁ……」


 よく分からないけど、人には人のシュミがあるんだなあ。アクセルリスは学んでいたからだいじょうぶだ。


「では、早速向かいましょう!」


 早足で執務室を出てゆくカーネイル。

 アクセルリスは一間の休息も与えられぬまま、任務に出向くことになったのだった。


「あああ不思議と展開が早い~……」




【異形の旅路】


【#1】


 ……そんな経緯を経て、現在アクセルリスとカーネイルはコ・コート森丘地帯に出向いていた。


「見たところ、なんの変哲もない森と丘ですね」

「はい。しかし、微弱ながら魔力を感じます」

「トガネも?」

〈ああ、ちょっと感じるぜ。これは……今まで見たことないやつだな〉

「未知の魔女、か。注意が必要だね」

「では、行きましょう」


 カーネイルとトガネが検知する魔力を辿り、一行は歩き始めた。


 道中は目立った障害も無く、平々凡々としたハイキングのような様子を示す。

 アクセルリスはやや警戒を緩めたところで、カーネイルに話しかけた。


「……そういえば、カーネイルさんってバシカルさんと姉妹なんでしたっけ」

「はい。双子でありまして、私が姉、バシカル様が妹でございます」

「よかったら、色々話を聞かせてくれませんか? 興味があります」

〈オレも気になるぜ!〉

「では僭越ながら、この道中、私達の昔話をさせて頂くこととします」


 そう前置きし、カーネイルは語り始めた。


「私達姉妹は北方の小さな寒村の生まれでした。それはそれは寒い地で、辺りは万年雪で覆われていました」

〈雪……雪か……オレは見たことないんだが、どうなんだ主?〉

「私が住んでた村──メダリオ村にも、年に数回雪が降ったよ。雪っていうのはとても冷たいんだ」

〈そうなのか。一度見てみたいな!〉


 トガネが未知の存在に胸躍らせつつ、話は進む。


「物心ついたときには両親は居ませんでした故、私達は村の長に育てられました。村長は温かい人でした」

「そうだったんですね……」

「その村長が魔女だったのです。称号は《焚火の魔女》。その人の元で育てられながら、魔女としての修行も行っていたのです」

〈親でもあり、師匠でもあるのか〉

「私と……似てる」

「その通りでございます。故に、私達はアクセルリスさまに不思議な共感を覚えているのです。勝手で失礼な話ではありますが」

「いえいえ、嬉しいです。こんな境遇、めったにいませんし……」


 アクセルリスはどこか納得した。バシカルやカーネイルがどこか自分に対し理解を示してくれていたのは、そういう事だったのか、と。


「やがて私達は魔女になり、師からも皆伝を頂きました。そして、魔女機関へ就職するため、魔都ヴェルペルギースへ上ってきたのです」


 話が一段落したところで、カーネイルは周囲を見渡す。その様子をみるに、未だ脅威は遠そうだ。


「魔女機関では環境部門に所属しました。丁度その頃にシャーカッハ様とケムダフ様が邪悪魔女に就任したことをよく覚えています」

「へー……ん? それってどのくらい前なんだろ……?」

「不用意に歴史の闇を詮索するのは得策ではない、と申し上げておきます」

「ヒェッ……」


 アクセルリスは超ビビった。


「……それで、暫くの間は環境部門で働いておりました。ですが、それを時期を同じくして、とあるモノが名を広めていたのです」

「それって……?」

「《戦火の魔女》でございます」

「……ッ」


 その名を聞き、アクセルリスは身を強張らせる。彼女にとっては忌むべきその名前。


「その名が世界に広まるにつれ、外道魔女も増えている頃でありました」

〈影響されて……ってことなのか〉

「私の妹、バシカル様は冷徹ながら正義感の強い魔女であります故、このような状況を見過ごすことを良しとしませんでした」

「それで残酷魔女を作り上げたんですね」

「その通りでございます」


 残酷魔女の創始者がバシカルであり、現在は特別顧問として人材の発掘に励んでいるという話は知っていた。

 だが、誕生の経緯をこうして耳に入れるのは初めての事である。


「設立当初はバシカル様と私の二人だけでございましたが、それでも懸命に外道魔女の処分を続けているうちに、様々な事情を持つ魔女が集まり、そう経たないうちに組織としての体を成せる程度には成長しました」

「今でこそしっかりとした制度と支援が受けられてますけど、最初はやっぱり大変だったんですね……」

「過酷な業務故、正直今に至るまで残っていること自体に少しの驚きを覚えております」

〈驚くのかよ……〉


 意外な本音を冗談めいて吐露しながらも、その表情は柔らかく満ち足りていた。


「そして、残酷魔女でのはたらきが評価され、我が妹バシカル様は邪悪魔女への昇進を成されたのです」

〈はえ~。鎧の姉さんたちにそんな経歴があったんだな〉

「何目線の感心なのよ、それ」

 

 と、他愛ない昔話と共に、一行は歩き続けていた。


 が。


「これが私達双子の凡その話であります……が、アクセルリス様にはもう一つ、少し大事な話をしましょう」

「大事な話……?」


 と、カーネイルは急に立ち止まり、真剣な眼差しを向ける。その様子にアクセルリスも少し面食らう。


「私達は、一度戦火の魔女を追い詰めたことがあります」

「──」


 その一言で、アクセルリスの眼光に残酷が宿った。


「……それは、どういう」

「度重なる戦火、それらの残滓から戦火の魔女の痕跡を掻き集め、遂にその喉元まで喰らい付きかけたことが、あるのです」

「詳しく、お願いします」


 静かながらも鬼気迫るその様子に、トガネも思わず口を噤む。


「それは戦火の魔女が起こしたとされる、最後の戦争のあと」

「《頽廃の岡の大戦火》、ですね」


 アクセルリスは苦虫を噛み潰したような表情で、その名を口にする。無理もない、彼女と彼女の村、家族が巻き込まれた戦争そのものなのだから。


「それのすぐ後、私達は戦火の魔女を追跡し、小さな洞窟へ追い込みました」

「それで、どうなったんですか」

「私達が突入しようとしたその矢先──洞窟が崩落しました」

「……自爆」

「はい。私達はすぐに周囲と瓦礫の中を探索しましたが、何も見つからず。最早残ったものは魔力の残滓だけでした」

「でも、死んだわけではない……んですよね」

「……その通りでございます。戦火の魔女は、今も生きている。あのバシカル様が目撃したというのです、間違いはないでしょう」


 どんよりとした空気の中、アクセルリスだけが熱い感情を迸らせていた。


「……申し訳ございません、アクセルリス様。秘書でありながら、度の過ぎた物言いでアクセルリス様の気分を乱してしまい──」

「いえ、気にしないでください。むしろ助かりました」


 小さく笑顔を浮かべ、アクセルリスはそう言った。


「必ず、必ず殺す。その決意を、再確認できました」

「……お役に立てたのならば、何よりです」


 カーネイルは深く礼をし、そしてまた歩き出した。

 アクセルリスも僅かな間、その場に立ち止まり、己の掌を見つめていたが──すぐに後を追った。


【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ