#5 華を摘みに
【#5】
そして、アクセルリス。
「はぁーッ、はぁーッ」
幾度かの斬り合いを超え、未だその身には傷が無いが、息は荒い。
単純な疲労の他にも、すぐそこにまで来ていながらアディスハハへ辿り着けない焦りが彼女をそうさせている。
そんなアクセルリスに使い魔が声をかける。
〈主〉
「なに?」
〈後ろの戦い、終わったみたいだぜ〉
「……そっか。これ以上、もたもたしてられないね」
今なお、華の空洞の入り口を阻むように立つ二人の魔女を見据え、アクセルリスは腹を決めた。
「トガネ、少し頼みがある」
〈なんだ? 何でも言ってくれ!〉
「それは──」
アクセルリスの言葉に、トガネは一瞬静止する。
〈……マジで?〉
「マジだ。私は、この手段がいいと思う」
〈……主には従う。それがオレたち、使い魔だ〉
「ありがとね!」
にっこりと笑顔をトガネに向けたのち、真剣な表情で顔を上げる。
その表情を見たゲブラッヘは。
「……何か仕掛けてきそうだ」
「分かるのか?」
「分かるとも。アクセルリスのことは、よく学んでいるから」
「お前がそういうのなら信用しよう!」
二つの外道も身構える。
そして、アクセルリスが動いた。
「行けッ!」
彼女の背後に、大量の槍が出現し、二人目掛けて飛ぶ。
「なんだぁ!? さっきと同じじゃねえか!」
「油断はいけない、バースデイ。確実に、まだ何かある……!」
「さぁて、なにを見せてくれるのか!」
数百を超えるだろう槍の全てを弾き落とした二人。
──その後に、見えたもの。
「な」
「うおおッー!? なんだありゃ!?」
迫り来る、大きな鋼の球だ。それはゲブラッヘの身の丈ほどもある。
そして、アクセルリスの姿が見えない。と、なれば。
「あの中にアクセルリスが……!?」
「オイオイオイオイ、マジなのかよ! あれじゃあ外も見れてないんじゃ」
〈だから! オレが! いるんだぜ!〉
トガネの叫び。それは球の影からだ。
「なるほど、あいつを目の代わりに……!」
〈主からの伝言だぁ! 悪いが、ここは通させてもらう! うおおおおおっ!〉
迫る大質量。ゲブラッヘとバースデイは息を呑みながらも、それぞれの武器を構える。
「──!」
集中し、球が至るタイミングを合わせ──そして、得物を振るう。
だがその瞬間。
〈今だ主ーッ!〉
「────しゃあああああああーっ!!」
彼女たちの刃が球を阻むよりも先に、それが割れ、中からアクセルリスが飛び出した。
「何っ!?」
「うおっ!?」
不意の加速に、ゲブラッヘの長刀も、バースデイの太刀も、間に合わず。
「私の──勝ちだ!」
「ア──アクセルリス……!」
一つの弾丸と化したアクセルリスは、全ての障壁を超えて、華の空洞へと滑り込んだ。
「ぐーっ!」
強引な突破だ。着地などままならず、岩場を転がる。プロテクターとして纏った鋼もだんだんと剥がれ落ちていき。
「っと!」
花畑に降り立った時には、丁度全ての鋼が剥がれていた。
「よし。一か八かの見切り発車だったけど、上手く行った」
〈流石は主だぜ!〉
「あんたの助けが無きゃ無理だったよ。ありがとね」
〈主……!〉
最早、二人の絆は解けることのない結び目だ。
「……と、ここからはもっと真面目モードだ」
その眼差しから曇りが消え、眼前に映る光景を余すことなく捕らえる。
アクセルリスが見据えるのは、二人の魔女。
その二人が誰かなどは──言うに及ばないだろう。
「やっと会えたね。アディスハハ」
銀色の残酷が、笑った。
【過去の華を摘みに おわり】