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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
26話 過去の華を摘みに
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#4 走れ魔獣

【#4】


「ハァーハ! ハ! ハァー!」

 光線が振り下ろされる。それは刃となり、深く地を裂き、魔力を吸い上げる。

「豊潤、豊潤ン! この地の魔力はなんとまあ質がいい!」

 色彩の欠けた地を嗤い、スカーアイズは吠える。対するグラバースニッチはそれに嫌悪を示す。

「自然を喰うのが、そこまで愉しいか?」

「ハァーハハハ! ハ! ハァ! 当然、愉しいねェ! 我が身に魔力が満ちるこの快感に勝るもの、無ァーしッ!」

 光線を横一線に薙ぐ。ブリッジ姿勢で回避するグラバースニッチだったが、その鼻先を光が掠った。

 ──たったそれだけで、グラバースニッチの2割の魔力が奪われた。

「ッ」

 獣の姿勢が崩れる。

「ハァーハハハハハハッハッハ! ハァ! 避け切れないかァ!?」

 スカーアイズは間髪入れず、そこに閃光を振り下ろした。

 グラバースニッチはそれを転がって回避する。

「ブザマ、ブザマァ!」

 追い討ちをかけるように、幾度と閃光を振る。グラバースニッチはそれを避け続けるが、巻き込まれた大地や木々は往々にして魔力を奪われ続けてゆく。

「……」

「ハァーハハハ……うおッ! 見えな……」

 グラバースニッチは眉をひそめたまま、土煙でスカーアイズの眼を晦ます。

「姑息! 姑息! 所詮は一時しのぎだなァ! ハァーハハハハ!」

 煙幕は造作もなく払われる。だが、グラバースニッチが姿を晦ますのには十分な時間は補った。


「スゥーッ……フゥーッ……」

 呼吸と体勢を整え、スカーアイズの背後からこう言い放った。

「ッたく、どこまでもイカれてやがる魔法だな」

「最ッ高の褒め言葉だな! ハァ! 我が光、我が暴力! 万物万象の魔力を奪い去る! 我が暴力に貴賤無く、また分け隔ても無く! まさに世界の理よ! ハァーハハハハッハッハッハッハァーッ!」

 振り向き、狂ったように高らかに笑うスカーアイズ。己の『暴力』に絶対的な自信があるからこそだ。

「はァ。なるほど」

 グラバースニッチは、そこまで聞き、言った。

「…………だそうだ、イヴィユ」

「十分だ。ではそろそろ、動こうか」

 徒手空拳でインペールを凌いでいたイヴィユがそう返す。

「貴様、ワタシと戦ウ最中に無駄口を叩クだト? 随分ト余裕そうだナ!」

「こう見えても、結構ギリギリなんだがね!」

 伸ばされる舌を躱し、懐から新たな銃を取り出す。通常よりも小型で、銃口の広い特異な銃を。

「ならバ引導を与えテやろウ! 楽ニなるが良イ!」

「そうだな、そろそろ楽になりたくなってきた」

 軽く息を吐き。

「だから、次で決める」

 冷たく鋭い言葉と眼差しがインペールを貫いた。

「──ッ」

 それに『終わり』を感じ、反射的に身構えてしまったインペール。それこそ、狡猾なるイヴィユの策だ。

「ふッ!」

 敵の動きが固まった一瞬。その一瞬で懐に潜り込み。

「ッ、速い……!」

 敵が反撃を行うよりも早く。自身の目を覆い、銃口を敵の顔に向け、言った。

「星を見せてやろう」

「何? 貴様何を企んデ」

「直ぐに分かる」


 返答を待たずに、引き金が引かれた。


 パンッ、と弾ける音が鳴り──ほんの一瞬、光が二人を包んだ。


「ぐ────!?」


 それが泡沫の間に消える、イヴィユの『星』だった。


「グ……!? こ、れは……!?」

「綺麗だろう? まあ、お前には少し眩しかったかもだな」


 閃光弾によって視覚を犯され、惑うインペール。千鳥足で不格好なダンスを踊る。


 そして、イヴィユが叫んだ。

「今だグラバースニッチ!」

「ハァッ!」

 グラバースニッチは一息の間に、スカーアイズの足元へと滑り込んだ。

 不意の速攻、閃光の暴威を振りまく間も与えず。

「な、何!?」

「シャ……アアッ!」

 唸りと共に放たれる、上段蹴り。それは魔獣の力を宿す。

「うぐッ……!? ア……!」

 鋭く、強烈な蹴りだ。しかしそれを顎に受けてなお、スカーアイズは強い狂気をもって意識を保ち続けた。

 だが──肉体は違った。その衝撃にスカーアイズの肉体は揺らぎ──

 閃光の柱を放ったまま、それごと倒れ込んでいった。


 そして、倒れた閃光柱は、あるものに触れた。


「グワーーーーッ!」

「イッ、インペール!?」

 スカーアイズの閃光。それは触れたものの魔力を奪うもの。例えそれが、魔女だろうと、樹だろうと、大地だろうと例外はない。

 そう。それが味方であっても、だ。


 倒れた閃光の柱は、インペールを貫いたのだ。これこそが残酷たちの思惑だった。


「う……ア」

 魔力を失ったインペール。立つことすらままならず、そして意識をも失い、その場に倒れ込んだ。戦闘不能。

「インペール! すまねぇインペール!? 返事を!」

 スカーアイズの悲鳴の中。すかさずイヴィユがその体を担ぎ上げ、戦線から離れる。

「私は一先ず離脱する。グラバースニッチ、そいつは任せた」

 と、言い残し。


「イ、インペール! インペール! インペール、待て!」

「……お前の言葉に偽りはなかったようだな。触れたものは、魔力を根こそぎ奪われると」

「き、きさま……!」

 激しく狼狽するスカーアイズに、グラバースニッチはそう語りかけた。


「きさまッ! 許さねぇ……ッ!」

 スカーアイズは激昂する。巧妙な手口で同士討ちを招いた、この姑息なる魔女を許すわけにはいかない、と。

「魔力、全開放……!」

 スカーアイズが力を貯める。その周囲で赤い魔力が目に見えるほど激しく渦巻き、閃光を瞬かせる。

「これはインペールから奪った分……! あいつの無念も混ぜ合わせた、怒りの魔力! 覚悟しろッ!」

「ッ!」

 余りに膨大な魔力に、グラバースニッチが身を退いた、その瞬間。

「消え去れェーーーーーッ!!」

 隻眼の魔女の、全ての魔力を注いだ超巨大赤色閃光が、打ち上げられた。

「ハァーハッハッハッハハハハハ! ハ! ハ! ハァ、ハ……ア。文字通り、私の全力だ……! もはや世界の裏だろうと逃げ場はない……!」

 それはもはや星。かの赤色の星は、数秒空に留まった後、グラバースニッチ目掛けて飛来する。もちろん、速度は閃光のそれである。

「……もうひと頑張り、だな」

 グラバースニッチは息を吸い、そして再び。

「スゥーッ! フゥーッ!」

 魔獣の力を得た脚で、駆け出した。


「無駄だ無駄だ、無駄無駄無駄ァ! 言ったはずだ、きさまに逃げ場はないと……!」

 スカーアイズは膝を付き、息を切らす。全力というのはあながち間違いでもないようだ。


「ハァァァァ……!」

 グラバースニッチは駆ける。その中で、思考回路も廻っていく。

(逃げ場はない──違う。ひとつだけ、俺には安全地帯がある──!)

 一直線に、走り、走り、走り続け、どれだけのところまで来たか。

 華の空洞はもはや遠く、敵味方含め他の魔女は皆見えない。

 そこでグラバースニッチは立ち止まり、振り返った。

 すぐそこに星はあった。

「スゥーッ! フゥーッ!」

 そしてグラバースニッチは──来た道を、戻っていった。全力で。往路よりも速く。


「ハァーハハ。どこまで行くか分からんが、我が閃光からは逃げられん。奴の脱落は既に確定した未来だろう!」

 座り込んだスカーアイズは勝利を確信し、笑った。


 次の瞬間、目を疑った。


「……ア?」


 何かが見えた。

 それが何かは、すぐに分かった。

 赤い星を背にした、黒い獣。


「え?」


 スカーアイズは、ほんの一瞬、恐怖の未来が見えた。


「──ハアアアアアアアアアアッ!」


 全速力の獣の雄叫びが聞こえた時には、手遅れだった。


「え?」


 気づいたときには、グラバースニッチはスカーアイズの真横を通過していた。

 ──そして、それを追うものが、至る。



「グワーーーーーーーーーーーーッ!」

 繰り返すが。スカーアイズの閃光は、触れたものの魔力を奪う。それは災害のごとく、無差別に。

 そう。それがスカーアイズ本人であっても、だ。


「…………ふう。流石にヒヤッとしたぜ」

 土煙を上げながらブレーキをかけたグラバースニッチは、額の汗を拭いながら振り向いた。

 そこには倒れ伏すスカーアイズ。最早言葉を発することも無く。

「やっぱり、お前の言葉に偽りはねえ。その点だけで言えば、尊敬に値しなくもない……かもな」

 と言い、笑った。


【続く】

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