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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
26話 過去の華を摘みに
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#1 トライ×テトラ

【#1】


 クリファトレシカ、残酷魔女本部。


「皆、良く集まってくれた」


 シャーデンフロイデは厳かに、集った残酷魔女たちを見渡す。

 順番に、グラバースニッチ、アーカシャ、アガルマト、ミクロマクロ、イヴィユ、ロゼストルム、そしてアクセルリス。即ち、全員である。


「これより、任務を開始する」


 静かな宣言。残酷魔女たちの表情が強張る。

 その中でも、特にアクセルリスの目つきは鋭い。


「今回の任務は『外道魔女メラキーの処理及び邪悪魔女4iアディスハハの奪還』だ」



【過去の華を摘みに】



「先日、慈愛の魔女メラキーの襲撃により、邪悪魔女の一人であるアディスハハが攫われた。皆はその詳細をアクセルリスから聞いているな」

「ああ。連行されそうになっていたソルトマーチを殺害し、アディスハハの心を掌握して連れ去った、と」

「私としてはそこまでして口封じする戦火の魔女の執念というかなんかが気になるけどね……っと、関係ない話だね、失敬」


 グラバースニッチとアーカシャに続き、ロゼストルムも口を開く。


「問題なのは『心を掌握した』という部分ですわね。おそらくメラキーを斃しただけでは万事解決にはならなそうですわ」

「それには一理がある。だが、問題はない」


 シャーデンフロイデが向けた目線の先は、鋼の魔女。


「そのカギはアクセルリスが握っている」

「ああ、どうやらそのようだな。今のアクセルリスの顔には、確かな進化が見て取れる」


 イヴィユはどこか嬉しそうに頷いた。


「ゆえに、今回の任務において核を担うのはアクセルリスだ。覚悟はいいな」

「無論です。私は必ずアディスハハを奪い返します」

「……」


 ミクロマクロはアクセルリスを見る。


(ほんの数日、会わなかっただけだが──幾つもの死線を潜り抜けたような、そんな風に見える)


 口角を上げ、目を伏せた。



「では、作戦概要に入る」


 シャーデンフロイデの声色が、一層重みを増す。


「最大の優先事項はアディスハハの奪還だ。メラキーの対処は次点に回してよい」

「メラキーへの処分内容は?」

「可能であれば捕縛。だが危険な存在だ、撃退、あるいは他の処置も現場の判断で下すことを許可する」

「捕縛──撃退──」


 アクセルリスはうわごとのように繰り返した。

 彼女が思うことは、一つだった。


「メラキーの所在地は何処ですの?」

「グラバースニッチの調査により、アディスハハ工房が位置する華の空洞に存在していることが確認されている。とはいえ移動しない可能性も無い。追跡のため、グラバースニッチも作戦に同行してもらう」

「任せておけ」


 グラバースニッチは黒色の鎧の感覚を確かめる。その表情から読み取るに、万全のようだ。


「これでアクセルリスとグラバースニッチが確定か。後は誰が出動するんだ?」

「忘れてはならないが、向こうにはアディスハハという人質がいる。大勢で出向くことは危険だろう。故に、こちらの人数は最小限に抑えたい」


 アーカシャが書類を手に取り、言う。


「メラキーが一人で悠々してるワケもないしね。魔女枢軸の残りメンバーからして、最低でもメラキー含めて4人はいると考えていい」

「ならば、もう一人──イヴィユ。行ってくれるか」

「了解だ」


 イヴィユが歩み出た。そのミリタリーコートの内には、何が眠るか。


「実動は以上のアクセルリス、グラバースニッチ、イヴィユの3人に任せることとする。そして」


 ソファーに腰掛ける二人の魔女に視線を移した。


「アガルマトは人形にて周囲の警戒を頼む。ミクロマクロは残酷隊とともに控え、万が一に備えろ」

「承った。まあ、私らに出番がないほうがいいんだけどね」

「リ、了解ぃィぃィ」

「良し──」



 こうして、役者は揃った。



「では」


 シャーデンフロイデは目を閉じ、一息つき、そして。


「作戦開始だッ!」





 ──数刻後、プリソンにて。


「じゃ、私らはここでお別れだ」

「こ、幸運を祈っているわぁァ」


 街外れにて、ミクロマクロとアガルマトが見送るは、実動を担う三人。


「君たちの強さはよく知ってる。上手くやってくれると信じてるよ」

「お前がそこまで言うと逆に怪しいぞ」

「なに、さっきも言っただろう。私らには出番がないほうがいい、ってね」

「怠けたいだけじゃ無かろうな」

「まさか」


 大きな任務を前にしても、グラバースニッチとミクロマクロは普段と変わらずに言葉を交わす。

 残酷魔女にとって重要なのは『平常心』。『冷静さ』とも言い換えられよう。

 どこまでも冷静に。狼狽えず。そうすれば、対象をスムーズに処理できる。残酷魔女の創設者が残した言葉だ。

 だが、その創設者は同時にこうも言った。『冷徹には堕ちるな』と。

 ──今のアクセルリスには、その言葉の真意が少し掴めるような気がしていた。



「時間だ」


 空を見上げていたイヴィユが言う。


「準備は万全だ」

「私もです」

「よし──行くぞ」


 歩み出す3人。振り返ることなく進んでいくその背らに、残る2人は手を振った。


「頑張ってね、私らはここで帰りを待ってるから!」

「いってらっしゃいぃィ」



 道中。

 街から華の空洞まではそう遠くない。敵対者の襲撃も十分に考えられる故、アクセルリスたちは厳重に注意を払ったが、杞憂に終わった。


「……」


 グラバースニッチは目を閉じ、鼻を澄ませる。その迷いのない歩みからは、メラキーの確かな存在が読み取れる。


 そして、空洞の入口が見える。


「どうだ、グラバースニッチ」

「いるな、確実に。ただ……」


 瞼を開き、空を仰いだ。


「簡単に入れそうにはないぞ」


 そう言った直後。

 一行の上空を飛竜が飛び去り──その背から、二つの影が降りた。


「ハッハッハァ、やはりスポーンしたな、残酷魔女!」

「やあ、待ってたよ」


 影の主──誕生の魔女バースデイと鉄の魔女ゲブラッヘだ。


「ゲブラッヘ……!」

「あんな腐れ外道聖職者でも仲間は仲間だからね、一応はこうして護るのさ」


 峻厳の皮肉屋は長刀を構える。戦いは避けては通れないか。



「……アクセルリス」


 血気立つアクセルリスの耳に、囁く声が届いた。


「イヴィユさん?」

「ここは私たち二人が奴らを引き受けるから、スキを見て空洞へ──」

「いや」


 イヴィユの作戦に、食い入るようにグラバースニッチが言った。


「無理だ」

「グラバースニッチ?」

「後ろだ」

「ッ!」


 間一髪、背後からの奇襲を防ぐ。

 グラバースニッチの鼻は優秀だった。眼前の二つの匂いとは別に、更なる二つの匂いを嗅ぎ分けていた。


「ハッーハァ! ハ! 防いだ? 違う! 防がせてやったのだ! 私がなァ!」

「クク。この程度デ死なれてハ、興が醒めテしまウからナ」


 新たに出現した二人の魔女。その姿に、アクセルリスは見覚えがあった。


「あれは、確か」

「ハ! ハ! ハァ! 皆まで言うな!私は《隻眼の魔女スカーアイズ》!」

「そしテワタシが《貫徹の魔女インペール》、だ」


 そう、スカーアイズとインペール。かつてパーティーメイカーズの前に現れ、そしてアクセルリスに倒された二人である。

 その外観にも、変化が見られる。

 スカーアイズは眼帯ではなく何らかの機構を持ったゴーグルを左目に装着していた。

 インペールは重々しかったマスクが軽量化され、それに併せて魔装束も高起動スーツへと鞍替えを果たしている。


「あの二人、私がやっつけた後拘留されてたんじゃ!」

「アクセルリスには言っていなかったか。あの二人はプリソンにて囚われていたが、ソルトマーチの襲撃のどさくさに紛れて脱獄していた」

「そうだったんですか!?」


 歯噛みするアクセルリス。情報の報告・連絡・相談の大事さを噛み締める。


「そうその通り! 私ら二人はそこな魔女枢軸の手引きにより、娑婆へと舞い戻った!」

「リーダーであるゼットワンとの連絡こそ断絶してしまったガ、我々は一流の傭兵ダ。鍛錬は欠かさヌ」

「そう! そうだ! ゼットワンがいつ戻ってきてもいいように、最高のコンディションで待つ! それが私たちに課された使命!」


 高らかに謳う二人。どうやらそれらの言葉に偽りはないようで、肉体的にも魔力的にも一段と別格になっているのをアクセルリスは残酷に感じ取っていた。


「それで、何故俺たちを襲う?」


 グラバースニッチが獣のように息を吐きながら訊く。


「ハァーハハハ! ハ! バカかキサマらは! 言うまでもない、私たちが私たちだからだ!」

「カネで雇われれバ、それ相応ノ働きをすル。傭兵の基本ダ」

「それに加えて『恩義』ってモンがあるからなァ! 牢獄から解き放ってくれた恩! 一宿一飯の恩!」

「我々傭兵は恩義を重んじル。受けた恩にハ、必ず報いル」


 そう宣言し、スカーアイズとインペールの二人は身を構える。臨戦態勢だ。


「さぁ、これで数的有利はボクたちにある」

「残酷魔女よ、どう攻略してみせる!」


 正面からはゲブラッヘとバースデイ。左右からはスカーアイズとインペールがにじり寄る。



「さて──どうする、グラバースニッチ」

「どうもこうもねぇ。な、アクセルリス?」

「はい。やるべきことは、ひとつ──」


 アクセルリスは瞼を閉じ、静かに深呼吸し、そして、強く見開いた。


「強行突破ッ!」


 三つの残酷が、走った。


【続く】

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