#4 デマゴーグの死
【#4】
その、時だった。
「──ッ」
ソルトマーチの体が揺れる。
何故か? その理由はアクセルリスには明白だった。
「──は?」
彼女の眼前に現れたのは、手。
そう。紛れなく手なのだ。
「ひっ……!」
背に隠れるアディスハハが震えるのを感じる。
〈おい、あれ〉
トガネが指し示したもの。二人も『それ』をありありと見せつけられる。
「な……え」
ソルトマーチは、己の体から力が、熱が、生気が抜けていくのを感じていた。
「──」
やがてその首は正面を向くのに耐えきれず、垂れる。
そして、その目に映るもの。
己の胸を貫く手。そして、その手が掴む『それ』は。
「……心臓」
アクセルリスがそう零す。
「正解です」
ソルトマーチの背後から、落ち着いた口調でそう言う声が聞こえた。
「貴女の心臓。最期に見るものとしては、相応しいのではないでしょうか?」
「お前、メ──」
ソルトマーチは、最期の言葉を言い切ることはできなかった。
手が引き抜かれる。同時に、ソルトマーチの体は物言わぬヒトガタとなり、崩れ落ちた。
「──」
アクセルリスは、アディスハハは、トガネは、一様にして声を失った。
そんな彼女らの様子とは対極に。
「さようなら、ソルトマーチ。貴女は存外、つまらない魔女でした」
優し気な口調で、しかし心底残念そうに、そう言ったのは──新たな魔女だった。
倒れたソルトマーチの後ろに立っていた、その魔女は。
「始めまして、アクセルリスさま。私は《慈愛の魔女 メラキー》と申します」
純白の修道服に身を纏った、慈悲深き外道魔女。メラキー・ソロウである。
【英雄になりそこなった者 おわり】