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眷属と退職の話

 人間のような容姿を持ったゴブリンは、俺の後ろに立つギンタを見遣ると平伏した。

 人との違いは、青味がかった肌の色と額の角ぐらいか。

 ゴブリンというよりは、鬼人と呼んだほうがしっくりきそうだ。

 小野くんとダナの顔には多少の恐怖と戸惑いが見える。

『我らが主なる黒竜様、ようこそお越しくださいました。』

『主って何だ?』

 不思議に思って聞いてみる。

『この子達は眷属。』

 確かに、結界から漏れ出したギンタの力から生まれた彼らは眷属というに相応しいのだろう。

『意識しないで生まれてきてもか。』

『うん。』

『黒竜様、ケンジ様。改めて自己紹介をさせていただきます。』

『私どもは黒竜様の力の雫より生まれ出たモノ。私はそれらを束ねる役目をしております。』

『私が黒竜のギンタだ。私が居ない間も息災であり、何よりだ。』

『ケンジ様には、黒竜様とはご友人とお伺いしておりましたが、疑いを持ってあのような態度に出たことをご容赦いただけますでしょうか。また、黒竜様をご解放いただき、我ら改めて感謝いたします。』

『ケンジは友人ではない。父だ。』

 そう言えば、彼らと話していたときは、まだ封印されていたのがオルガだと思っていたな。

『なんと!左様でございましたか。我らにかけていただきました慈悲、得心いたしました。』

 わざわざただすのも面倒だから、このままにしておこう。

『ところで、前に会った時より、随分と変わったように見えるんだが。』

『瘴気が失せたためでしょう。瘴気は力にはなるものの我らの思考を奪ってしまいますから。』

『では、今の君達は純粋にギンタの力の残滓で存在しているということなのか?』

『残滓というよりは、眷属としてギンタ様の力の下ににあるというのが正しいのではないでしょうか。』

『ギンタ、彼らの存在は分からなかったのか?』

『居る気配はあったけど、会ったことが無いから繋がりが非常に薄かった。』

『なるほど。』

『では、正式に主従となろう。我から「セパル」という名を与えよう。』

『有り難き幸せ。』

『セパルよ、汝はこれより正式な我の眷族となった。平伏は止めよ。ケンジが嫌がる。』

『はっ。』

『正式な眷族になると、何か変わるのか?』

『繋がる。』

『不利益とかは無いのか?』

『困ったことがあれば助けにいく。』

 まあ、良く分からないが、良いか。


 年明け早々、会社の会議室には小野くん、小森くん、そして萩原さんがいた。

「マジですか?何で鈴木さんが辞めることになるんすか?」

 三人を呼んだのは、株式会社コネクトを売却することを決めたからだ。

 検索ポータルサイトを運営している企業から事業売却の打診があり、それに応じるとともに俺も退任を決意した。

 それに伴って、小森くんと萩原さんに役員就任の打診をすることにしたのだ。

 一般的に年度替わりでバタバタする時期だろうが、税理士の手が空く7月を決算期としているので、今の時期からなら、充分な時間があるだろう。

「辞めるのは、俺の意思だ。テレビCMにメインじゃないが出て知名度も上がっている。この会社も親会社もまだまだ伸びる。一番有望だろう。」

「なら、余計に辞める意味が分かりませんよ。」

「まとまった金も入るし、新しい事業に専念したいんだ。」

 予想外の退職金の提示があったのも実は大きい。

「意味わかんねーっす。」

 小森くんは憤慨していた。

 最終的な回答は週明けに聞くことにして、今日のところは話し合いを終えた。

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