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白餓鬼

 ギンタが瘴気を供給しているマナ変換器は、一辺1mの立方体で、シルバーで編まれた魔法術式を何層も重ねたものを、透明な樹脂で固めている。

 攻撃用の魔法など、マナを一巡させるものについては、PDA等のディスプレイで実行可能であるが、継続して動作をさせるような魔法については、物理的な回路が必要となる。

 その上部に手を乗せて瘴気を供給し始めると、マナ変換器は微かに光を帯び始めた。

 マナ変換器から伸びたケーブルはノートパソコンに接続されている。

 パソコンの画面はチカチカと明滅しているようにしか見えないが、肉眼では捉えられない速度で魔法術式を切り替えて写している筈だ。

「ん。」

 ギンタは目を閉じて唇をきゅっと結んでいる。

 足元の宙に淡い光を発しながら餓鬼の姿が現れる。

 体格は餓鬼と言うにはかなり大型で、人間と変わらない程度のものである。

 次の瞬間、現れた淡い光は、足元一面に広がっていた。

『ギンタ!止めてくれ!』

 ハルからストップがかかり、ギンタが頷いてマナ変換器から手を離す。

 訓練場として掘った穴は既に地面は見えておらず、餓鬼の肉塊で埋め尽くされていた。

 ギンタの真下では餓鬼が7から8mほど積み上がっている。

 穴からは様々な呻きや叫びが湧き出している。

『ハル、何体生成した?』

『9,872体だ。』

 ハルが潜んだノートパソコンに送られたマナは使い切らなければ、パソコン自身の暴走が起こり、俺やハルに危険が及ぶため、供給されたマナを全て餓鬼の生成に使い切ったのだ。

 まだ、マナの量を正確に計測するための方法や表現する仕組みが確立されていないため、実際に実験して試していくしか方法がないので、仕方無い。

『ギンタの力を甘く見ていた。』

『瘴気をマナに変換する際に、60%まで減衰するんだったよな。』

『ギンタの本気の能力は計測も予測もできないな。』

「鈴木さん!大変なことになっていますよ!」

 インカムから小野くんの声が聞こえる。

「9,872体だ。」

「9,872体ですか。先ずは数体捕獲して、調査ですね。」

 発生した白餓鬼は、個体差が大きく、かなりの巨躯をしたものから、立てるようになったばかりの幼児程度のものまで様々だ。

 基本的にあまり命令は聞かない。

 拘束魔法で数体を捕獲して、小野くんに引き渡して、幾つかの検査をしてもらう。

 術者であるギンタ、俺とハルには敵対する意思は無いようであるが、それ以外の者には襲いかかるようである。

「まぁ、概ね成功だな。」

「そうですね。後は顕現時間の確認だけですね。」

 顕現した白餓鬼を構成する無色のマナは自然界では供給されないため、一定の時間が経つと消滅する。

 個々に意思を持ち、人間に敵意のある者もいるため、気を遣わないといけないため時間は押さえておく必要がある。

 ケージに捕らえ、消滅までの時間の計測を行う必要がある。

「しかし、あの規模になると使い勝手に困りますね。今度は手加減してもらいましょうか。あと、少し気になったのですが、あまりにもギンタちゃんの力が大きかったんですが、結界に閉じ込められていた時のマナはどこに行ったんでしょうか。すぐにでも溢れて大変なことになりそうなんですが。」

「そうだな。一度、結界のあった場所の調査をしてみようか。」

「あの、後始末はどうするんですか?」

 ダナが心配そうに聞いてくるのを小野くんが説明する。

「次の魔法の実験で殲滅するから。」

「白餓鬼達よ。我が呼びかけに応じたこと感謝する。次の呼びかけまで休むが良い。」

 ギンタが白餓鬼の塊にそう伝えると、四分の一程嵩が減った。

 作り出した白餓鬼達も一部は言うことを聞いてくれる。

 主に「じめ速」からになるが、ネットから拾い出して核としたのは、悪意だけではない。

 そして、善意やその他の感情から生まれた者は命令を聞き入れてくれる場合が多いのだと推測している。

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