カールリス
小野くんとギンタを連れてホテルにチェックインする。
バルタファングで手配してくれたので詳細は分からないが、古い屋敷を改修したもので、アンティークで豪華な所である。
返り血が着いたシャツは着替えておいた。
「あの、鈴木さん、彼らと一緒に仕事をしていくのは大丈夫なのでしょうか。」
「すまんな。大丈夫だ。血が昇るとちょっと口調が荒くなる。」
分かってはいるが、なかなか治らない。
今回は騙し討ちみたいなことをされたのもあり、余計だった。
「とりあえず、服を着替えたいな。シャワーを浴びたら下のカフェに居るよ。」
こちらのホテルでは、俺とギンタ、小野くんで部屋をとっている。
ダナは実家が近いので、実家に帰るとのことであった。
『どう。今の人狼族も強かった?』
『まぁ、弱くはなってないだろうな。それに銃とかも使えるしな。』
シャワーを浴び、着替えてギンタとカフェに向かう。
ついでにギンタにもシャワーを浴びさせ、着替えさせる。
黒いドレスに白いシフォンボレロ、免税店で買った白い毛皮のコートを羽織らせる。
『こりゃ、可愛いな。』
『あのケーキ美味しそうなのが沢山。』
『あ。』
『なに?』
『砂糖を売るために、スイーツを流行らせようとしたことがある。充実してるのもそのおかげかな?』
『自意識過剰。』
『そうかな。』
日本と違って、甜菜糖が普通に使われているのであるが、俺が居なくても同じだったのかな?
『どれにする?』
ギンタはハニーケーキにミルクティーを、俺はホットコヒーとヘーゼルナッツを頼んで席に着く。
秋の森の中に入れば、ヘーゼルナッツがなっていた。
旅といえばナッツと肉を食べながらするものだったので、懐かしくなったのだ。
小野くんが席に来ようとするが、ギンタが注文してからと教えている。
コーヒーを持って席に来た。
「本当に彼らとやっていけるんでしょうか。」
「ああ。想定内だ。持ってきたナイフも実は人狼族用に特注したものだよ。」
「はぁ。」
「自分たちより強い者に敬意を払う。人狼族はそういうものだからさ。誰かとは手合わせする必要があったのさ。跳ねっ返りか、そうでなければ最強戦力か。そう思えば、ラッキーだったかな。」
「鈴木さんが何か同じ日本人だと思えないです。」
「元々は普通の日本人だったけど、修羅場を潜ってきたからなぁ。そういや、食事は迎えに来てくれるんだったよな。」
「はい。そう聞いています。」
「良かった。今日は飲めるな。」
ヴァイラが包帯だらけの男を担いで現れた。
男を放り出し、土下座する。
男の頭を掴んで床に押し付ける。
日本では誠意を持って謝る時にはこうするのだと、男に説明しているのが聞こえる。
『スズキ様、私の弟がご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。』
『大丈夫だよ。怒ってないし。さ、二人共顔を上げて立って。』
おずおずと二人が起ち上がる。
『自己紹介だ。俺はケンジ・スズキ。』
男は俺が差し伸べた手を握り返してきた。
『カールリスです。』
『人型になれば、後遺症も残らないだろう。』
『はい。』
『すまないな。君らは人狼族だからな。対等になるなら、力を見せなければならなかったし、誰かがこうなる必要があった。』
『アンタなんて敵うわけないでしょ。魔人を二体も倒した化物なんだから。』
『姉ちゃん、化物はちょっと…』
『すみません。』
人狼族に化物扱いか。
『傷が治ったら、俺を部下にしてください!』
『え。日本語を話せないだろ。』
『いや、そうなんですけど。』
『部下にはしない。弟子にもしない。歳は離れてるが、友達だ。それでいいな。』
『歳ってそんなに変わらないんじゃないんですか?』
『今年、44歳になるな。』
『げ!とうちゃんと同い年?』
『え?お前ら幾つなんだ?』
『俺が18で、姉ちゃんが20です。』
そうだよな、良く考えれば、20歳の子供がいててもおかしくないもんな。
少しだけブルーな気持ちで2人と分かれて部屋に戻った。




