新たな門出
二週間かけ、バルタファングと交渉した結果、トリヴォニア国内に工場を設立し、製品として収めることにした。
武器の輸出にあたる可能性が高いため、余計な労力を使いたく無かったからだ。
なので、定期的にトリヴォニアに行く必要ができたが、まだトリヴォニアには行っていない。
傭兵崩れ達の後始末については、所持していた装備とともに、警察に突き出すことにした。
興全寺との通信記録も合わせて渡したので、興全寺は家宅捜索を受け、余罪もしこたま追求され、新聞を賑わせていた。
とりあえず、国内の問題については一段落だ。
バルタファングとの交渉が成立してからすぐに緊急に会議を開き、小野くんの業務の引き継ぎを皆に指示する。
「小野くんには別の事業に専念してもらう予定なんだ。」
「まだプロジェクトも軌道に乗っているとは言い難い状況では無謀ではないですか。」
「その辺りは将来も見据えて増員計画を立てていく。」
「人員増と設備強化も必要な今にその資金調達はどうするんですか?」
「ユニークユーザー増も確認できているからそれを材料に、銀行からの借り入れも調整中だ。」
会議は紛糾していたものの、最後の台詞どおり、業績は上がりつつある。
スマートフォンの普及とともに爆発的にユーザー数の増が見込まれる筈だ。
順調にユーザー数を伸ばし、画像の投稿件数も企業ユーザーや芸能人も増え、テレビ等でも話題にのぼることも多くなってきた。
スマートフォンについては、開発元とパートナーシップを締結し、日本語化機能の提供にも協力している。
ここまではほぼ思惑通りに進んでいる。
俺自身はもう開発には殆ど関わっておらず、企画とスポンサーとの交渉で精いっぱいになってきている。
まだ日本でのスマートフォンのキャリアが決定していないが、それももうしばらくだろう。
確かに今の仕事は面白いけど、これ以上忙しくなると、ギンタといる時間が減ってしまいそうだ。
本当にしたいことは何なんだろう。
働くことは嫌いではないが、仕事より家族をとることを考えても良いんじゃないだろうか?
小野くんの方は、浅葱市内の山の手にある廃工場を借りて、そこで開発をすることになった。
実験要員の俺は定期的に顔を出さないといけない。
実は、小野くんが最近、家に入り浸っている。
「ケンジ、おかえりなさい。今日の晩ごはん何?」
「冷蔵庫にあるもので考えるよ。」
「賢治さん、すみません。今日もお邪魔してます。」
「やはり、ギンタ様は素晴らしいです。もう日本語は問題無く話せるようになっていますね。」
そう言いながら、ダナが台所を覗いてくる。
バルタファングとの交渉が終わってから、ヴァイラも含めてトリヴォニアに引き揚げることにしたのであるが、一応連絡係としての名目ではあったが、ダナはギンタの様子を見たいから日本に残ると言い出したのだ。
費用もかかるのによく許しが出たものだ。
学校が終わってから、ダナはギンタに日本語を教えており、そのおかげでギンタの日本語が恐ろしい速度で上達しているので、俺としては非常に有り難い。
そして、何か意外な組み合わせだが、ダナと小野くんが急接近し、小野くんまで家に入り浸るようになったのだ。
一応、ダナは家を借りているので、ウチで食事をしたら二人で帰っていくのが最近のパターンである。
そのため、以前より冷蔵庫の中身が充実しているので、今日は買い物にいかなくても大丈夫だろう。




