義手
診察の度に、五指が動くモデルを今度は一日でいいから貸して欲しいと佐伯医師と理学療法士に懇願する方針でやってみることにした。
三回目の調整の時に、自作してみたいと頼み込んで一晩だけ借りれることになった。
当然、病院には内緒の話であるが。
まぁ、借りるだけでちゃんと返す。
それと、俺が考えているように力場で義肢を作り出すという方法なのだが、フックやナイフの刃のような単純な形のものを替刃のように発生させるようなアイデアはあったが、実用性も少なく、見向きもされていなかった。
複雑なものはやはりハードで担うのが一般的なようだ。
借りて帰った日にハルに依頼してデータを保管してもらった。
こちらの世界にしかないだろう、魔力で伸縮する素材が使われている。
ほぼ人間と同じ骨格に魔力で伸縮する筋肉繊維を貼り付けており、魔力が人並みにあれば、無意識に手を動かす感覚で魔力を込めることができるため、機器やモーターなどの制御が不要なためかなり単純な構造で五指の動きが再現できるようになっている。
魔力って偉大だな。
ついでに『力場』についての学習も進んだ。
今から100年ほど前に、物理結界が開発されたとのことで、ルーツは強化魔法からきているらしい。
戦争で銃に対抗する手段として、考えだされ、盾を撃ち抜かれないよう強化するため、強化魔法が開発された。
強化魔法は創造魔法からの応用で、物理的に存在する盾に対し、被せるように創造魔法をその性質のみ重ねがけするという概念である。
それにより、元の物質に対し、マナで密度を高めるイメージになるそうだ。
元になる物質と異なるイメージを重ねがけすることにより、異なる性質を持たせるようなことも可能だという。
例えば、紙で作った剣に鉄で剣を作るイメージで強化魔法をかけると、鉄の硬さを持った紙の剣ができるということだ。
更に、ここから、強化魔法の応用で実体を伴わずに強化に使うイメージのみを発現させたものが、『力場』となる。
そのため、術者の熟練度により、材質も含め様々な応用が可能であるようだ。
魔力のない俺にとっては、全くイメージが湧かないが、試行錯誤を重ねていくしか無いだろう。
ただし、魔術師にとってはそこまで難しくないことから、白兵戦で物理結界を使える者が重宝されているとのことだ。
攻撃魔法はあまり一般的ではなく、火器の発達が魔法を追い抜いているため、銃を装備し、物理結界で身を守るというのが、この世界の現代の特殊部隊のスタンダードとなっている。
そこで魔法はどこで覚えるのか調べてみたところ、この世界では大学に魔法学の講座があり、そういったところで学習するらしい。
また、専門の学校は存在せず、一分野として取り扱われている。
そのため、魔法学校のような神秘的なものは存在していなかったのは少し残念だった。
そのうち、行き詰まったら、魔法学の研究室とかとも接触してみようかな。