陰陽師
『餓鬼の気配がどんどん無くなっていくぞ。』
『近づいてくる。』
ギンタの向く方に視線をやるが、何も感じ取れない。
『式神か。それも巨大な。ギンタ、気を付けろ!』
見えないながらもギンタの前に身体を出す。
『馬鹿!』
次の瞬間、ギンタは俺の眼前の何かを殴りつけていた。
地面が陥没する。
見えない攻防が眼前で繰り広げられる。
『アイツを。』
ギンタに促されてみた方向に一人の男がこちらに向かって歩いてきている。
右手にカランビット、左手にダガーを呼び出し、男に向かって歩き出す。
「式神か。引っ込めろ。攻撃してこないなら、手は出さん。」
左側から殺気を感じた時には、俺の身体は殴りつけられていた。
「お兄さん。全く見えてないみたいだね。おまけに全く魔力を感じないね。」
人を小馬鹿にしたような声で話しかけてきたのは、高校生ぐらいの男の子だった。
濃いピンクのストレッチの効いたレギンスのようなショートパンツに、黒地に黄色で派手な柄の入ったパーカーを着ている。
「魔力もないのにどこからそんな『力場』の道具を作り出してるのかな。」
ギンタの周囲から影が伸び、俺に見えない何か攻防を繰り広げているが、ギンタがやや劣勢に見える。
「式神を引っ込めろ。」
「お兄さんがアレの飼い主なんだね。」
「娘だ。アレ扱いするな。」
跳びかかろうとするところを、脇腹に強烈な一撃を食らい、再び宙を舞う。
『ケンジ!』
ギンタの心配そうな声が聞こえるが、こちらに構う余裕はないようだ。
ただ、今の一瞬だけ、殺気を感じることができた。
『ギンタ!多少は本気を出して良い!』
「何語かな。何でも良いけど、お兄さんももう大人しくしないと、大怪我するよ。」
ダガーは使わず、右手のカランビットにのみ集中し、殺気を迎え撃つ。
バチッ!
カランビットに込められた雷の魔法術式が発動する。
『力場』で作られた武器なら式神に届く。
「へぇ、面白いことするね。」
見えないので、ダメージも分からない。
足元にカランビットを落とし、今度は炎の術式のカランビットをその手に握りこむ。
背後に俺でも感じ取れるレベルの瘴気が集まってきている。
ギンタだろう。
今は振り向かない。
距離は10メートル。
微かな殺気を今度は複数感じる。
それを躱して前に進む。
あと、3メートル。
右側からの殺気に合わせるが、今度は外してしまい、衝撃で左側に倒れ込むが、そのまま前に駆け出し目の前の男に向かう。
次の殺気にはガランビットを合わせることができ、炎が透明な腕を陽炎のように映し出す。
男の鳩尾めがけて蹴り出すも、障壁に阻まれる。
左手を突き出して義手をロックし、砲弾の魔法を叩きこむ。
障壁が破れ、踏み出しながら男に手を掛けようとした時、男を護る見えぬ巨躯に叩き伏せられる。
「残念だったね。」
見えぬものの、強大な力を感じる。
『ハルには見えるか。』
『ああ。我らの前には牛頭が。ギンタの口には馬頭が。』
巨大な黒竜と化したギンタが何かを咥えている。
「なっ!」
ギンタが一方の式神を片付けたようだ。
『ケンジ。大丈夫か。』
ギンタの心配そうな声が聞こえたところで、俺はボールのように蹴り飛ばされた。




