刺し身初挑戦
和菓子屋でおはぎを買って、浅葱稲荷へ向かう。
『この街の由緒正しい土地神だ。失礼の無いようにな。』
ハルがギンタに話しかける。
『ただの精霊でしょ。』
『まあ、そうだが、お前より千三百歳は年上だぞ。』
『たかだか千六百年程度か。母に比べれば大したことない。』
『オルガと比べるなよ。』
ギンタ、ハルと三人で話をしながら歩いていると、すぐに着いた。
『うむ。タケヒコ殿が出迎えてくれている。』
三人で話ができるようになったが、やはり他の精霊や土地神とは話ができないようだ。
「うちの娘のギンタです。」
『そっちじゃない。』
本殿に向かって礼をしながら話しかけたが、二人から突っ込まれた。
「仕方無いだろ、見えも感じも出来ないんだから。」
ギンタが虚空に向かって話しかけていた。
『お前に一番驚いていたぞ。どうやってオルガと関係を持ったのかと。』
『俺にか。』
『タケヒコがギンタに瘴気の扱い方を教えてくれるらしい。もしかしたら、瘴気の浄化装置は必要無いかもな。』
『そうなのか。』
『ああ。瘴気が無尽蔵に集まるのは、コントロールを学ばずに育ったからで、瘴気の操作はコツを覚えればそんなに難しくないらしい。』
『でも、魔法道具は使い途が多そうだから、開発は続ける。』
『そうか。』
『タケヒコから伝言だ。何日も掛かるし、大変だからお供えは欠かさないようにしろとのことだ。』
『しかし、良かったよ。受け入れてくれて。』
さて、晩御飯は何にしようか。
帰りに一緒にスーパーへ向かい、献立を考えながら買い物をする。
『魚は食えるよな。』
『そう言えば、日本人は魚を生で食べると聞いたことがある。そうなのか?』
『誰に聞いたんだ。』
『ガロンおじさんだ。』
『それ、俺が教えたんだ。肉だって生で食べるぞ。』
『野蛮。』
『オルガは牛でも丸呑みか丸齧りだったけどな。』
『む。』
『今日は、刺し身にしてやるよ。丁度旬だしな。』
『刺し身と言うんだな。』
『そうだよ。今日は和食だな。』
イサキを一尾とマグロの柵をカゴに入れていく。
加熱用のマグロの筋があったので、揚げ物するついでもあるので買っておく。
今日は早くから料理ができるので、作り置きのできるおかずも作っておこう。
イサキは三枚におろす。
アラは今日は手間をかけ、塩をしてから炙って焦げ目をつける。
『魚の頭なんて焼いて何をしている。』
気になるのか、ギンタが側に来て料理するところを覗いている。
『魚の頭や骨から出汁をとって汁にするんだが、焼いておくと臭みが無くなるからな。昔の日本人には肉も魚も捨てる所は無かったんだよ。俺はまだまだだけど。』
あらは赤出汁にする予定だ。
魚の処理が終わってから、揚げ物を作る。
焼き茄子より、揚げびたしの方が食べやすいだろうしアレンジが効く。
揚げびたしを二つに分けて作り、明日の朝食用にマグロの筋をフライにしておく。
『揚げとは膨らむんだな。』
『もう少し炊いたら、萎んでくるよ。』
ほうれん草の胡麻和えを作りながら空いたコンロで揚げを炊いておく。
こっちはタケヒコの為のものだ。
自分達用は、細切りにした大根と人参と揚げを炊いておく。
一応、箸とフォークをギンタの前に置き、箸の使い方を教えている。
『この、箸とかいうものは、使いにくい。』
『慣れると便利だし、日本で住むなら覚えとかないとな。』
今度は茶碗の白米に興味を向ける。
『米に味が付いてない。』
『おかずと一緒に食べる物だからな。』
箸で刺し身を指しながら、俺に聞く。
『これが刺し身か。』
『ああ。この醤油に付けて食べる。わさびは辛いから、気を付けてな。』
もう箸は諦め、フォークで刺し身を刺して口に運んでいる。
『なかなか美味いな。』
そう言えば、ギンタは日本食は初めてだったな。
『これが、日本の食事だ。』
『見た事が無い物が多過ぎる。』
『このスープは魚の頭が入っているぞ。食べるのか?』
『食べれそうな部分だけ、食べれば良いよ。汁を飲む物だ。』
『ガロンおじさんが、褒める訳だ。何でも作れるんだな。』
『ガロンのいた時代だと、色々なものが手に入らなかったから、大変だったよ。今なら、世界中の物が手に入るから、もっと色んな国の料理もできるぞ。』
『茄子はこちらの味の方が好きだ。』
揚げびたしの片方は出汁にレモンを絞り、オリーブオイルを入れて、和風マリネにした。
また、そちらには茄子だけでなく、エリンギやパプリカも入り、彩りも良い。
意外と食べてくれている。
一緒に食べる家族がいると、作るのも食べるのも楽しい。
『これからは、茶碗に白米を出すから、箸の使い方をちゃんと覚えるようにな。』
今回のご飯
○夕食
・白米
・イサキとマグロの刺し身
・イサキのアラの赤出汁
・ナスの揚げびたし
・ナス・タマネギ・パプリカ・エリンギの和風マリネ
・ほうれん草の胡麻和え
・大根・人参と揚げの炊いたん




