学校へ
市役所に向かい、住民登録の窓口に向かう。
住民登録の窓口で待っていると、小川さんが出てきた。
「あ、小川さん、お久しぶりです。福祉職の人かと思っていたんですが、そうじゃなかったんですね。小川さんがいてくれて良かった。」
「そうですか。」
「僕の事を知っていてくれてますし、話しやすいですしね。」
「今日はどんな用件でいらっしゃったんですか。」
「海外で娘が見つかりまして。」
「…。」
「あの、海外に知り合いがいる記憶が戻りまして、会いに行ったのですが、もう、亡くなっていまして。代わりに彼女と出会ったのですが、娘だと分かりましたので、連れて帰ってきたんです。」
「その知り合いって、その子の母親だったんですよね。」
「そうなんですが、残念ながら彼女が産まれた事も知りませんでしたので。」
「その方はいつ頃、亡くなったんですか。」
「かなり前としか聞いてません。この子の面倒を見てくれた友人も既に亡くなってますから。」
「あの、お一人ですよね。」
「まあ、今はパートナーは居ませんよ。」
「連れて帰ってきたって仰ってたんですけど、子育てされるんですよね。」
「そうですね。」
さも普通に答えるのが、不思議そうだが、よく考えれば、記憶喪失の男が急に娘がいるのが分かった状態の認識なのだから、当然か。
「何せ女の子だから、分からない事だらけで、心配は尽きませんが。小川さんなら、相談に乗ってくれそうで、少し安心しちゃいました。」
「任せてください。仕事の範疇ですけど。」
「お願いします。頼れる人も少ないので、心強いです。」
『ケンジ。真面目に話をしてるのか。』
『ああ。どうした。』
『なら良い。』
『心配しなくても良いよ。そんなあちこちで女を口説いてまわる奴に見えるか。』
『見える。』
楽しそうに話しているのをギンタが警戒している。
怒らすとまずいな。
「まだ、日本語が話せないんです。公立の小学校でも、日本語を教えてくれるところがあるみたいなんですが、浅葱市にもありますか?」
「聞いたことはありますね。後で調べてみます。」
「インターナショナルスクールだと、小学校課程の修了にはならないみたいなんで、校区が違うなら転居も考えてるんです。」
本当のところは、インターナショナルでも、近隣ではギンタの話せる言語を取り扱っているところが無かっただけである。
話しながらも、住民登録に係る書類の記載は終わっている。
「すみません。それじゃ、次は就学手続きの担当者を呼んで来ますね。」
そう言って、小川さんは書類を持って面談ブースを出ていった。
就学手続きは一旦、保留し、日本語教室の事を詳しく聞いておいた。




