お買い物
翌日、小野くんから戸籍謄本のFAXが届いていた。
まだ深夜なので、部屋のISDNに接続し、一旦、お礼のメールを入れておく。
今日は、一人で大使館に向かう。
嶋田氏が対応してくれ、感触は良いようで、上手く行けば、一週間かからずに手続きできそうとのことであった。
ホテルに戻り、また二人で食事に向かう。
「そういや、瘴気が無くても大丈夫なんだよな。」
「生きてはいけるけど、力不足になる。それに自然に瘴気が集まる。戦えなくなる。」
「今は平和な時だから、戦闘なんてしなくても良い。どうしても必要なときだけ使うとかはできるか。」
「うん。でも、自然に集まるものはどうしようもない。どこかで発散が必要。」
「瘴気を浄化する道具とか持って生活とかは大丈夫かな。」
「戦いがないなら、良いけど、本当に大丈夫?」
「ここ一年ぐらい、争いにも巻き込まれていないし、昔と違って魔人達とも戦ってないし、戦う気もないから、大丈夫だ。瘴気を浄化する道具を何とか作ってみる。瘴気を無くせば余計な争いに巻き込まれることも無くなるだろうし。」
「任せる。」
「あと、日本だと、必ず子供は学校に通わないといけなくて、一応10歳ということにしているから、通わないといけないんだよ。」
「私には必要ない。」
「仕方ないけど、諦めて暫く通ってくれ。ついでに日本語も覚えてくれれば良いし。」
「分かった。」
食後は、近くのショッピングモールに行き、彼女の服を見繕いにきた。
長年の夢が一つ叶う。
女の子の服を選んでみたかったのだ。
ギンタは不安そうに辺りを見回している。
人がこんなに集まっているところは慣れていないだろうし、商品が溢れるほど並べられた光景も初めて見るだろうから、今日のところは不安にならないよう手早く済ませるようにしよう。
今着ているのは、黒のドレスワンピースで、レースもそこまで多くなく、少しフォーマルに見えなくもないものだ。
ただ、かなり良い物なのであろうが、よく見るとかなりの年数が経っているため、傷みが激しい。
「黒じゃないと駄目か。」
「別に大丈夫だけど、黒が好き。」
「分かった。」
あまり抵抗のないよう、まずはワンピースから選んでいく。
同じ黒だが、ノースリーブで胸元が開いており、ブラウスを着るタイプのもので、裾の刺繍が可愛い。
フリルの付いた白いブラウスも合わせて持たせて、試着室に向かわせる。
「ギンタ、めちゃくちゃ可愛いぞ。」
ギンタの少し大人びた雰囲気に、良く似合う。
「そう?」
照れるというより、困惑しているようだ。
彼女が生きてきた時代に子供がお洒落をするような習慣は無かっただろうし、困惑するのも当然だろう。
急に、今まで着たことの無い物を着せても慣れないだろうし。
「そのまま着て帰るか。今まで着てた服はどうする?随分と傷んでるけど。」
「持って帰る。」
靴はその店にあった黒いローファーを選び、シンプルなブルーグレイのブラウスと、黒いベロアのプリーツスカートを合わせて買う。
下着はサイズを見てもらって、シンプルな物を何着か揃え、切り上げてホテルに戻る。
ギンタの手を引いてホテルまで戻る。
「沢山の品物が市場に溢れてる。」
「そうだな。物は豊かになって、随分と時代は変わってるよな。どちらかというと、こっちが俺が産まれた時代だな。」
「そうか。ケンジは今の方が良いか。」
「良い所も悪い所もある。人間達の努力の結果だが、便利さや豊かさと引き換えに何かを失うこともあるし。」
「そう。」




