認知手続き
『我らの会話がギンタに筒抜けだぞ。』
『それで。』
敵対するのであれば、次の行動が筒抜けになり、致命的な弱点となるだろうが、少なくとも俺自身は敵対する気も無ければ、隠し事をする気も無い。
自分の娘に何か隠しだてする必要も無いだろう。
教育的な観点からそう思う場合があったとしても、俺より長く生きてるし。
『まあ良い。お主の影に隠れてゲートを突破するか、幻惑の魔法を使うか考えてたみたいだが。』
『それは何らかの対策はされてるんじゃないか。』
『恐らくそうだろう。』
『体力の回復を待って、日本まで飛ぶなんていう方法もあるんだろうけど。今回は真っ当に大使館に行こうかと思ってる。記憶を失ってる事になってるのも、周知の事実で都合も良い。黒竜だとバレなければ何とかなりそうな気がする。それに、日本で生活するんだったら、正式な手続きをと取る方が後々楽だろう。』
『混血する種族なら可能性はあるだろうが、彼女は半精霊だぞ。』
『試してみる価値はあるだろ。前に混血児が認められた判例を見たことがある。あと、ついでにDNA検査もしてみる。強制認知する際の証拠になるぐらいだから、有るに越したことはないだろ。』
『確かに通常混血できる種族であれば有用だろうが、彼女は特別な存在だから、思ったとおりの結果は出ん可能性が高いぞ。』
『まあ、保険みたいなもんだ。』
早速、ホテルのフロントに向かい、外付けの事情を説明して、検査ができる機関を探してもらう。
皆、かなり協力的ですぐに目的の検査会社が見つかった。
警察の下請けも一部しているので、信頼はできるところらしい。
やっぱり英語はヒアリングは多少はできるが、なかなか言葉が出て来ず、手こずってしまった。
それから、電話を借りて会社に電話して小野君を呼び出す。
「お急ぎのようですけど、何かトラブルでもありましたか?」
「ああ。娘が見つかった。」
「見つかったって何ですか。」
「娘だ。言葉どおりなんだ。日本に身内がいないんで、少し頼みたい事があって。」
「もしかして、外国で結婚してたんですか。」
「そこは分からんが、明らかに娘みたいなんで、日本に連れて帰って一緒に暮らそうかと思ってるんだ。」
一通り事情を説明し、戸籍謄本の取り寄せ、ホテルのFAXに送ってもらうようお願いする。
電話を切ってから、口止めしてなかった事に気が付いた。
戻った時の質問攻めは覚悟しておこう。
ギンタには、部屋から出ないように言いつけてから、外に出る。
置き去りにしたレンタルバイクの精算を済ませた後、新しいバイクを借り、検査会社へ向かう。
まだあまり民間向けには検査をしていないとのことで、交渉に二時間ぐらいかけたが、何とか検査キットを貰って、一旦ホテルに戻る。
食事前に頬の粘膜を採っておく。
今日はギンタを連れて近くのレストランで食事を摂る。
ギンタを後に乗せて、検査会社に戻る前に写真館に寄り、証明用の写真のついでに、記念写真も撮っておいた。
早く結果を出すよう、対応した職員に札を握らせ、三日で用意出来れば追加を渡すように言って出る。
そのまま、ギンタを乗せて大使館へ向かう。
意外と大使館の職員は愛想良く迎え入れてくれる。
「すみません。複雑でかなり時間の掛かりそうな案件なんです。」
最初からすんなりいくとは思っていないので、先に伝えておく。
「そうですか。嶋田と申します。一旦、私の方でお話をお伺いして宜しいですか。」
「はい。」
海外でこんな丁寧な対応をしてくれるなんて、ちょっと嬉しいな。
状況を掻い摘んで説明していくと、きちんとメモを取ってくれている。
嶋田氏が一旦執務室に戻る間は、待ち合いで待つ。
30分ぐらい待っただろうか。
五十がらみの仕事のできそうな男が現れ、面談ブースに案内される。
「鮫島と申します。」
「私は鈴木です。宜しくお願いします。」
「お連れのお子さんを認知したいとお伺いしていますが。」
「そうです。お話した通り、目的はこの子を正式な手続きでこの子を日本に連れて帰って養育することですね。認知してから、渡航書を発行してもらって日本へ向かうような手続きが取れればと思っています。国外のうえ人間でもないため、難しいケースだとは認識しています。」
「よくお調べで。確かに、仰るとおりなんですが。」
法や判例はハルに調べてもらえるので、非常に助かる。
沢山の書類を記載して、今日のところは帰ることになった。
明日、戸籍謄本を届けるので、その際に進捗などの状況を報告してくれるとのことだ。
因みに、ギンタの年齢は、事実通り記載すると色々と問題がありすぎるので、年齢は見た目の通り10歳ぐらいということにした。




