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ギンタ

 彼女の名はギンタ。

 オルガが俺が住んでいたトリヴォニア風の名前を付けたのだ。

 二人でこれまでの事をお互い話し合った。


 人からしか生まれない、闇への畏れ。

 それから産まれたと言われる闇の精霊たる黒竜オルガは人に近い性質も持っていたのかも知れない。

 そのためか、オルガは俺と交わってギンタを身籠った。

 黒竜の力はギンタに移譲され、オルガは力を失い、産むと同時に亡くなったらしい。

 驚いたことに、ガロンが産まれたギンタの世話をしており、魔法術式が刻まれたナイフは彼から渡されたのだ。

 俺の居なくなった後でも、俺の娘の為に尽くしてくれたガロンには、どれだけ感謝してもし足りない。


 ギンタは普段は食事は必要ではないらしいが、身体が弱っていることもあり、何か食べたいとのことで、二人分のルームサービスを頼む。

 ルームサービスを持ってきたスタッフが、目を覚ましたギンタを見て、喜んでくれていた。


 ガロンはギンタが小さいうちに、病に倒れたとのことであったが、その後も人狼族と共に暮らしていた。

 ある日、その集落が人間に襲われた。

 護ろうとしたが、護りきれず、沢山の人狼達が犠牲になった。

 逆上してしまい、瘴気に囚われその後の記憶はほとんど無いらしい。

 一体、何が目的だったのか。

 人狼族はまだ存在しているのか。

 人狼族の様子も確かめたいし、何があったのかそのうち調べる必要があるだろう。


 一人のときはサンドイッチだけだったが、肉が好きだろうと勝手に想像し、ローストビーフを追加で付けてみたところ、予想通り肉から食べている。

 食べながらギンタが話かけてくる。

「ケンジ。ハルは私とも話せそうな気がする。」

『やはり、我の事を感じるか。』

「やはりってどういう事なんだ。」

『前も言ったように、彼女は精霊に近い存在だったということだ。』

「何か偉そうね。」

『会話も問題ないようだ。』

「二人とも、穏便に頼む。」

「ハルとは暇な時に話してみる。」

「そうしてくれ。ちゃんとサンドイッチも食べてくれ。肉しか食べて無いだろ。オルガもガロンも放っておいたら肉しか食わなかったからな。」

「ガロンおじさんがいつも言ってたけど、ケンジの飯は特別に美味いって。」

「今の世の中のちゃんとしたレストランの方が絶対に美味い。けど、日本に帰ったら俺が毎日ちゃんと飯を作ってやるから。ちゃんと野菜も食えるようにしてやる。だから、暫く日本で一緒に暮らさないか。」

「構わない。」

「本当か。」

「ケンジ、何故、そんなに嬉しそうなのだ。」

「そりゃ、娘がいたなんて、嬉しいよ。今は独り身だから、手放しで喜べる。」

 ギンタの容姿は、オルガ譲りのうえ、何処かハーフらしさもある。

 確かに、人間として適齢期まで成長すれば、人目を引くだろう。

 いや、今でも充分注目を浴びる容姿か。

「元に居た世界に息子はいたが、娘は初めてだしな。それに、この世界で、この時代で独りぼっちじゃなくなったのもある。」

「そう。」

 素っ気なく返すギンタだが、戸惑いはあったものの、その表情に冷たさは感じなかった。

「産まれてくれて、生きていてくれて、本当にありがとう。」

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