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人違い

 結界の拘束を解かれたオルガは黒竜の姿から人の姿に変わりつつあった。

 黒竜は直立すると五メートル近くあり、その姿を維持するには、魔力や瘴気等のサポートが必要であると考えていた。

 その為、結界を破るために極限まで消費させれば、人型に戻るだろうと予測していた。


『おい、黒竜って他には居ないと言ってなかったか。』

『それはオルガからの情報だ。我にも知らぬ事があるのは理解していたのではないか。』

『お前の集めた情報を信用してここまで来たのに。』

『確かに黒竜の許まで来た。我の情報は誤ってはおらん。自分の判断ミスを我のせいにするな。』


 黒竜がいた場所に、少女が倒れていたのだ。

 長い黒髪の10歳前後の少女である。

 気を失っているのか、動く気配はないが、呼吸に合わせて胸が動いているため、生きてはいる。

『あの子が暴れても大丈夫なように、瘴気を吸い出す機能だけでも解析して、ものにしといてもらえるか。』

『了解した。』

 黒いワンピースを着た少女を抱き起こすが、意識は戻らない。

 ここに放置する訳にもいかず、抱き上げてバイクまで戻ることにする。

 小さなバッグを肩から掛けていたため、外して俺のバックパックに詰めておく。

 バイクの停めてある場所に戻る頃には、汗だくになっていた。

 子供は体温が高い。

 前の世界で子供を抱っこするときは、湯たんぽを運んでいるのと変わらないと言っていたことを思い出す。

 テントを張って、少女を寝かせている間に、ノートパソコンを開き、ハルが解析して構築しつつある瘴気除去の魔法術式を組んでいく。

『何だこの量は。しかも未解析で印のままの部分も多いな。本当に動くのか。』

『未知の術理が多過ぎる。保証はできないな。』

『ただ、この子がどうなるか分からないからな。取り敢えず、できるところまで進めよう。』


 日が暮れるとディスプレイも見やすくなり、コーディングが捗ったが、コード化できる部分だけでも相当な量があり、数日掛かりそうである。

 術式の単純な置き換えまではハルの協力が得られるが、動作検証や術式間の調整をなど、最終的な仕上げは俺がするしかない。

 更に精霊印などの図柄によって高密度に術式が記載されている部分については、イメージ化したうえで動作検証と調整が必要になる。

 少なく見積もっても、恐らく15人月は下るまい。

 単一機能のプログラムでこの規模は相当なものであるが、あの結界石の一部の機能でしかない。

 結界石を破壊したのは勿体無いが、あれを持って黒竜に近づくと、また結界が発生してしまうので仕方が無かったのだ。

 一体どうやってこれ程の物を作り上げたのだろうか。


 夜通し作業を続けていたが、翌朝になっても少女は目を覚まさなかった。

 車にしておかなかった事を後悔する。

『瘴気の回復量はどんなもんだ。』

『極僅かだ。』

 俺は瘴気やマナを感じ取ることができないため、ハルに確認する。

 国道近くに移動し、大きなトラックを狙ってヒッチハイクする。

 バイクは諦める事にして、乗せてもらうことにしたのだ。

 便宜上、娘が病気の発作で倒れ、薬が切れたため、イスタンブルの病院まで行かないといけないということにしている。

 何故か、トラックの運転手は疑いもせず、乗せてくれたたうえ、謝礼も受け取らなかった。


 翌朝にイスタンブルに着き、目に付いたホテルに入る。

 眠る少女を抱きながらのチェックインだったが、病気の発作が起こったので、休ませたいと言うとすんなり泊めてくれた。

 結局、その日に少女が目覚めることはなかったた。

 食事は彼ルームサービスで済ませたが、着替えは必要だと思い、フロントで子供服を売っている店を聞いて、揃えに向かった。

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