入院生活
午前中に一般病棟に移るが、特に荷物も無く、身一つなので、すぐに済んだ。
朝食はクロワッサンにミニグラタンだったが、昼食には、白米に玉ねぎとじゃがいもが入った味噌汁、西京焼きとひじき煮が出た。
メニューと器を見る限り、外からの搬入かも知れない。
栄養部を直営していたクライアントのところではもっと凝ったものが出ていた気がする。
とは言ってみたものの、二年ぶりの鰹出汁が効いた食事に、少し涙目になってしまっていた。
「美味い。久し振りの和食だ。」
体調も時間とともに良くなり、食欲がでて来たのも相まって、あっという間に完食してしまった。
食事を終え、すぐに共用のインターネット端末の元に向かう。
とりあえず、現在地を確認し、どれぐらい元の世界と異なるか見てみよう。
OSも微妙にWindowsとは異なる感じだが、windows3.1に近い。
画像は上から描画されていくのが見える。
『元の世界で言うと、まだ2000年を超えてないのかも知れないが、ネットの普及が意外に進んでいるな。ここはライマがいた世界だな。今回は時間のみの移動だったようだ。』
ハルの声に伴い、『慈悲の家』の日本語版ホームページを強制的に開かれる。
『慈悲の家はライマ・スズキ(トリヴォニア人)が「人命を尊重し、目の前で苦しむ者全てを救う。」事を目的とし、世界120の国と地域で活動する組織です。また、「組織としての自由意志を何人にも冒されることのないよう、自らの収益により活動する。」との理念のもと医療に関わる多分野での企業活動も行っています。』
『概ね、思惑通りだな。』
『ライマは良くやってくれたな。』
『子孫でも探そうか。』
『そもそも、子供なんて作ってないからな。』
『それもそうだな。』
『もしかして、今、ネットに直接繋がってなかったか?』
『当然だ。我は情報を司る者だからな。』
『それって、ネット社会で無敵にならるんじゃないか?』
『我は現実世界への干渉を禁じられている。』
『簡単に言うと?』
『この世界に対してあらゆる書き込みが出来ない。』
『そうだったのか。逆に言うと、読み込みと実行は可能?』
『そうだ。』
『なる程、プログラマがいなけりゃ、お前が使える武器が、プログラムが手に入らないという訳だ。これが、俺とセットだった理由って訳か。』
『我がそれを願った訳ではない。』
『神か、運命か?どちらにしろ、俺は言いなりなる気はないけど、使えるものは使い倒す。』
保護から丸一日、麻酔が覚めてから二日経つ。
いい加減、ボロが出そうだが、出れば出たで信じてはもらえない。
逃げ出すとしても、どうやって生活基盤を整えていくか。
片腕でプログラマなんてぞっとする。
『我がいるなら、義手なんぞ、どうにでもなる。』
『何故だ。』
『我がお前の意思を機器に伝えれば良いのだろう。』
『そんな細かいことできるのか?』
『我はお前に憑いているのだからな。』
『しかし、どうやって稼ごうかな。前は上手いこと商売にありつけたけど。』
『もう、真っ当に何処かに勤めるなんて、できなくなったか。』
『そこはなかなか否定し辛いけど。義手は医師の診断が必要だろうから、正式には手に入れられんな。』
『それより、生活の術を考える方を優先しないとな。』
『生活基盤に住所と銀行口座とパソコンが必要だが、このまま保護を受けるか、他の方法を考えるか。』
『パソコンは生活基盤か。』
『プログラマだからな。』