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雌ゴブリンと結界

 警戒しながら寺院の門まで戻ると、武器を携え入口から中へ入るゴブリンが見えた。

 先ず、周囲に散らばるゴブリン達にショットガンの魔法を頭部に撃ち込み、とどめを刺していく。

 陽炎の魔法で焼いた内の一体はまだ息があった。


 恐らく、寺院が巣になっており、雌等からの抵抗もあるだろう。

 気を引き締め直し、寺院の中に入っていく。

 窓がある為、光は入っている筈だが、濃い瘴気のせいかなかり暗く感じる。

 影からの狙撃を警戒しながら、寺院の中を進んでいく。

 どの部屋も扉が無い。

 三部屋目の入口に着いた所で、中からゴブリンらしき息遣いと鉄の音が聞こえる。

 そこまで広くない部屋なので、壁越しに陽炎を二発撃つ。

 「ギャァァ!」

 短い断末魔が聞こえ、声はすぐに出なくなったが、のたうち回る音が暫くしたあと、静かになった。

 密室で急激に高熱に見舞われたため、喉が焼けたのだろうか。

 暫く経っても熱風が部屋から出ており、入る事はできなかった。

 警戒を解かず、奥に進む。


 巣になっている部屋を覗くと雌が五体おり、怯えてこちらを見ている。

 雌達は子ゴブリンを隠して護るようにしている。

 再び、ハルに意思疎通の魔法を頼み、話し掛ける。

『俺は鈴木賢治という。人間だ。ここに居る黒竜に会いに来た。君達とは敵対する意思は無かったが、話も聞かず襲ってきたから、自衛した。お前たちはどうだ。』

 最も大きな雌が恐る恐る答える。

 その表情は知的な雰囲気が感じられる。

『襲ってきたのはお前ではないのか。』

『敵対せずに話をしようと持ちかけたが、先に襲ってきたのはここに居た雄達だ。』

『何もしなければ、敵対しないか。』

『ああ。それじゃ、中に行く。』

 そう言って巣を後にした。


 奥を見やると瘴気が俺でも視認できるほど濃く、その発生源を追えば彼女の元に辿り着けるだろう。

 着いた所は寺なら本堂というのだろうが、最も広い窓の無いホール状の部屋に巨大な水晶のようなものの中に黒竜が閉じ込められている。

 黒竜自体は立って五メートルを超えるぐらいだったので、その結界とホールがかなり大きいことが分かる。

「おい、オルガ、聞こえるか?」

 何度か大声で呼び掛けてみるものの、反応は無い。

 触れてみようとすると、ハルに止められた。

『解除する者を排除するための仕掛けが有るかも知れん。』

『弾かれたり、焼かれたりか。』

『見てるだけでは分からんな。』

『結局、触らないといけないのか。』

『何のために、義手を力場で作成したんだ。』

『そうか。』

 一旦、義手の力場を開放して、中の情報端末を取り出し、空の義手を再度作成する。

『では、解析頼むぞ。』

 そう言って、義手で結界に触れる。

 その瞬間、激しい痛みが身体を襲い、気を失った。


 気が付くと、随分と結界から飛ばされていたらしい。

『ご苦労だったな。解析は完了した。』

『電気か。』

『いや、無属性のマナが方向性を持って流れた結果だ。性質としてはベクトルに近いだろう。』

『それで、オルガの状態と結界を消す方法は分かったか。』

『この結界は、中の対象の瘴気を吸い取りながら浄化する仕組みとなっている。その吸い取って浄化したエネルギーを無属性のマナに変換しているため、事実上この障壁のエネルギーは無尽蔵にある。この結界は構造上他のマナの動きを阻害しない構造となっているから、肉体を動かすことは出来ないが、生存している可能性が高い。意識の有無は不明だ。瘴気の量が多過ぎてオーバーフローを起こして周囲に漏れ出ているが、吸い出しの機能は損なわれていない。』

『なる程、それで瘴気が濃い訳だ。破壊できる方法と可能性は。』

『先ずは大きな力を与えて、エネルギーを奪い、障害障壁を弱体化する。』

『それから。』

『結界の本体となる結界石を破壊する。』

『その結界石は何処にある。』

『結界の中だ。恐らく彼女の傍らにある。』

『最後はまだ多少力の残る結界の中に無理を承知で突っ込むと言うわけだ。』

『その通りだ。』

『その前に聞きたい事と、して欲しい事がある。』

『無属性のマナか。』

『ああ。まだ、この時代でもその生成方法は解明されていない筈だったよな。』

『残念ながら、そうではなかったようだ。今は時間がないので、また、今度話をする。』

『して欲しい事とは、その技術を奪えと言う事だな。』

『瘴気を無効化する技術と、それを力に変える技術があれば、魔人に対しても大きなアドバンテージになるからな。』

『この時代でも、相手にする積もりなのか。』

『念の為だ。出来るか。』

『もう少し接触が必要だ。』

『なら、我慢する価値がある。』

『その前に、彼女らに避難してもらおうか。』

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