ゴブリン
一旦、国道に戻ってからテントを張らずに野宿する事にした。
寺院には相当数の魔物の気配がした。
廃墟となったのは、恐らく魔物のせいだろう。
かなりの威圧感を持つ個体もいたように思われる。
気付かれはしたものの、追っては来なかったようだ。
警戒を解かず、身体を休める事にした。
夜明けまで異変もないため、15分だけ仮眠をとることにした。
携帯情報端末のアラームで目を覚まし、再び寺院に戻る。
バイクは離れた位置に停めて、徒歩で警戒しながら近づく。
寺院の正面を遠目から観察してみると、少し大柄なゴブリンのような者が警戒に立っている。
『ゴブリンにしては大きくないか。』
不思議に思い、ハルに尋ねる。
『この場所は非常に瘴気が濃い。恐らくその影響だろう。』
『なる程。瘴気を取り込んだ分だけそれだけ強くなってる訳か。』
距離を取りながら寺院の周囲を確認すると、北側と東側は外壁が崩れて無くなっている。
正面に立つ者以外にも何体かの魔物を見かけたが、歩哨などにも見えず、ただ歩き回っているようであった。
外から存在が確認できたのは、八体で寺院の中にどれぐらいいるのかは不明だ。
正面からの衝突だと、かなり不利になるが、今回は彼らと敵対してもこちらに利はない。
寺院の正面に戻り、歩哨の前に立つ。
「ダガー。」
ダガーが力場で生成され、逆手持ちで右手に収まる。
『ハル、意思疎通の魔法を頼む。』
『正面からか。』
『ああ。』
大声で日本語で話し掛ける。
「俺は、鈴木賢治という。そこに居る黒竜オルガとは旧知の仲で、会いに来た。」
『ニンゲンダ。』
ゴブリンの様な者が猿のような警戒の鳴き声をあげると、わらわらとゴブリン達が集まってくる。
ゴブリンには違いないようだが、全体的に体格も良く、人間に近い体格をしている者がほとんどだ。
体色は薄緑ががった茶色だ。
群れのボスらしき一際大きなゴブリンが前に出る。
『何しにきた。』
『さっきも言ったけど、オルガの友達で、彼女に会いにきた。』
『言葉、通じる。』
驚いて周りの者もざわめく。
『意思疎通の魔法だ。彼女に合わせてくれ。』
『ニンゲン、オス、タベル。』
『コロス。』
どうやら、ボス以外は動物のようで、会話は難しそうである。
何だか、友好的ではない雰囲気だ。
彼女の事だから、自分以外の者に興味が無かったのだろうが、意外だった。
『俺は彼女の味方だ。君らに敵対する気も無い。通してくれ。』
立ち位置を寺院の門にそれとなく移していく。
敵の数は13体で、寺院の入口を中心に展開している。
鉈で武装している者がほとんどだが、銃を持つ者も見える。
『構わん。喰い尽くせ。』
ボスの号令が下る。
左手の指鉄砲の照準をボスに合わせる。
「ロック。砲撃。」
魔法を使う時には意識的に名前を呼ぶことにしているが、これは以前に味方を巻き込みかけたためだ。
指差す方向に向け、手に沿うように空間に力場で創り出された砲身から砲弾が飛び出す。
砲弾の性能は本物と比ぶべくもないが、ボスとその前に立つゴブリンは派手に吹き飛ぶ。
手を下ろすが、義手は指鉄砲の形のままである。
義手の制御はかなりの負荷がかかるため、魔法術式と当時に制御するのが難しい。
そのため、ロックする機構を設けたのだ。
なお、照準は義手に仕込まれた携帯情報端末の外付けオプションのジャイロセンサーと加速度センサーで行っているため、かなり大雑把だ。
ゴブリン達の叫びと共に銃声が聞こえる。
一旦、寺院の門まで退く。




