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家路へ

 いつの間にか気を失っていたようだ。

 背中にギンタの温もりを感じる。

 身体を起こして見渡すと、草原ではなく、山中にいるようだ。

 山深い場所ではなく、手が入った里山といった雰囲気だ。

 ギンタも目を覚まし、体を起こす。

 俺の方を見て、何故かギンタがびっくりした顔をしている。

「どうした?」

「ケンジ、腕っ!」

「うわっ?!」

 今頃気が付くのも何だが、左腕が生えていた。

 自分の戻った左腕を見ながら、手のひらを返し握ったり、開いたりしてみる。

 問題なく動くようだ。

「ケンジ、魔力もマナも感じない。魔力暗室みたい。」

「魔法が使えないのか?」

「うん。」

「ここは何処なんだ?」

 生えた左腕を手を開閉したり、回したりして、動かしながら独りごちてみる。

 山から見下ろすと、街が見え、近くに民家が見える。

 改めて周りを見回すと、植生に覚えがある。

 日本ではないのか?

 そう思って改めて街や近くの民家をみると、日本に思えてくる。

「そこの民家まで行って、話を聞いてみるか。」

「うん。」

 近づいていくと、その玄関先には、軽トラックとありふれた白い乗用車が停まっている。

「やっぱり日本みたいだな。」

 表札には、『澤田』とある。

 玄関先に近づきながら、声をかけてみる。

「すみませーん。」

 家の中で人の動く気配がする。

 硝子の嵌められた扉が、横に滑って開からると、七十に少し足らないぐらいの女性が姿を現すと、心配そうな顔をされる。

「すみません。電話を貸していただけますか?」

「どうしたの?!そんな格好で。」

 俺は半裸に裾を切ったズボン、ギンタはボロ布と化したワンピースをくくって身体に巻きつけているのだ。

「ここにあるよ。ちょっと、その子の着るもの探してくるから。」

 そう言っておばさんは家の奥に戻っていく。

 年季の入った黒電話が玄関の靴箱の横の電話台に乗っている。

 小野くん達に連絡するため、黒電話の受話器を上げたときに、目の前に掛かっていたカレンダーに眼を奪われる。

 そこには、懐かしい元号が書かれている。

 ただ、自分が知っている数字より4つほど進んではいたが。

 俺は辛うじて記憶の底に眠っていた番号をダイヤルする。

 ダイヤルが戻るのを待つのがもどかしい。

 果たして、電話はコールされる。

『はい、もしもし、鈴木です。』

 懐かしい声が俺の耳に飛び込んでくる。

「俺だ。」

『ケンちゃん?!』

「ああ。」

『ケンちゃん、ケンちゃん!何処にいるの!』

 確かに帰ってきたのだ。

「やっと、やっと帰ってきた。帰ってこれた。」

 涙声になっていた俺を心配そうにギンタが覗き込んできた。

 ギンタの頭をくしゃくしゃ撫でながら、電話を続ける。

「由紀恵。長い間、済まなかった。今、帰ってきた。」

習作として取り留めもなく書き始めたお話ではありますが、気が付けばたくさんの方に読んでもらっていました。

読んでいただいた皆様、評価していただいた皆様、本当にありがとうございました。

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