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金鎧の天使

 金鎧の天使との距離が詰まるごとに斬撃が避け辛くなってくる。

 一つでも食らえば、真っ二つ。

 対して向こうは剣を振るだけだ。

 普通に考えれば、勝ち目が無いような気がする。

 魔法無効化で役に立たなくなった義手を外し、少しづつ距離を詰めていく。

 魔法無効化が無ければ、強大な魔法でもぶつけられたんだろうか。

 もしかして、身体強化ができれば、コイツと打ち合いができるんだろうか。

 そんな思考を回避行動をとりながら、無駄な動きを削ぎ落としていく。

 あと、20メートルのところで、完全に足が止まってしまう。

 このままだとスタミナ切れで終わるだけだな。

 カランビットも革袋に収納してから、足下に落とす。

 金鎧の天使と一瞬睨み合う。

 少し不思議そうな顔をしたのが印象に残った。

 そりゃそうだ、常人の筋力しか持たないうえ、片腕で素手の俺ができることなど、普通は無いだろう。

 意を決して、正面から突っ込む。

 袈裟、胴、無限の間合いは足元もきっちり狙ってくる。

 そもそも、そこまで辿り着くとも思われていない。

 さて、何回斬撃を躱しただろうか。

 遅々として間合いは詰まらない。

 慢心が生み出したのか、気の抜けた一撃があった。

 フェイントを織り交ぜながら、一気に距離を詰める。

 残り5メートル。

 ここで最短で斬撃を放つ事のできる間隔を測り、力を振り絞る。

 意識を集中し、心を澄ませ、願う。

 魔法を使うというのは、こういう感覚なのだろうか。

 加速が発動し、音が間延びして聞こえる。

 風と服が体に纏わりつく。

 振り下ろす剣を躱し、左から横薙に変わる際に右腕にこちらの腕を絡ませ、滑らせるように手を伸ばす。

 熊手から指を鈎に曲げ、眼窩に突っ込む。

 逡巡がギンタを危機に晒すと思えば、躊躇も無い。

 眼球にダメージが入る感触を感じた瞬間、剣を取り落とした手で俺を払い除ける。

 身体が伸びており、踏ん張りが効かない俺は放り投げられた。

 面白いように飛ばされる。

 その間の手を振るような金鎧の天使の何か意味の無さそうな動きは恐らく魔法を発動するためのものだったのだろうが、まだ魔法無効化が効いているため発動できなかったのだろう。

 魔法無効化が無ければ、消し炭か塵になっていたのではないだろうか。

 身体を丸めて転がったあと、視線をすぐに戻しながら体勢を整えようとした時、背後に気配を感じる。


 俺の目の前に一振りのダガーが突き刺さる。

 金属には見えない不思議な素材でできている。

「前に良い素材が手に入ったんでな。」

 仮面は俺の左腕に視線を遣る。

 日本語だ。

 その声色も聞き覚えがある。

「ここまで来てくれると信じてたよ。」

「この腕もお前の目論見通りだったのか?」

「ギンタが産まれたのとその腕は想定外だったな。オルガがそんな行動に出るとは思わなかった。」

「お前は俺じゃ無いからな。」

「こりゃ、手厳しい。アレはどっちが片付ける?」

「俺だろ。」

 そう言いながら、立ち上がり、ボタンを千切り、シャツを剥ぎ、下着もズボンの裾もダガーで裂いて捨てる。

 このダガーは俺の左腕からできているらしいが、並の強度はあるようだ。

 そもそも、人間の腕をどうしたら、こんなダガーになるのか皆目見当もつかないが、今は気にしている場合ではない。

『賢治がケヒーラを片付け次第、魔法無効化を解除する。』

 ハルと同じ声でアラルガルが念話を飛ばす。

 ギンタを見遣ると、法力で気の塊を飛ばしながら魔人と戦っており、何のリアクションも返さないが、聞こえているだろう。

 改めて、ケヒーラに向かって歩みを進めていく。

 物理的に目を潰したぐらいでは、そこまで意味は無かったのだろう、斬撃は俺を目指して正確に飛んでくる。

 斬撃を飛ばす動作をするため、やや単調にならざるを得ない太刀筋はもう読めてきてしまっている。

 時々、飛び跳ねたりしながら、今度はかなりスムーズに間合いを詰めていく。

 既に加速が発動している。

 衣服ですら加速している俺の妨げになるが、渡されたダガーは何の抵抗も感じられない。

 俺は難なく剣の間合いに入る。

 逆手に持つダガーで手甲に刃を当て、相手の力を利用して、自分の身体を移動させる。

 ケヒーラの左斜めに移動し、下から上へ振り上げた。

 ダガーを振ったのは、正確には斬る為ではない。

 空間か次元らしきものをずらすための座標を与えるためだ。

 金鎧の天使は逆袈裟に両断され、上半身が地に落ちる。

 不思議と出血はない。

 何か呪詛の言葉を吐いていたが、それは聞き取れなかった。

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