娘からは聞きたくない言葉
「週明けに頼もうと思ってたんだけど。ついでだから、お願いできるか。」
「うん。」
魔力結晶化装置に瘴気変換器をセットする。
ストック用の魔力結晶を作っておく。
作った魔力結晶を金庫に収めてから、ギンタに声をかける。
「付き合わないか?」
「分かった。」
ギンタと一緒に魔力暗室に入る。
「ギンタ。ごめん。とんでもない事に巻き込んで。」
そう言って、ギンタを抱き締める。
「ケンジ。私は大丈夫。そもそも、私が子供なだけでもとんでもない事。気にしない。」
「でも、世界中が敵になってしまった。」
「元からそうなのが分かっただけ。」
「まあ、そうなんだけど。我ながら情けない父親だな。泣き言ばっかりで。」
「泣き言を言いながらでも、神様と戦うんでしょ?」
「むざむざ殺される気はないけど…」
「私は大丈夫。ケンジと一緒なら。」
「お前を危険な目に合わせる気は無い。」
子供の命より優先すべきものは無い。
「嫌って言っても付いていく。」
彼女や妻になら言われて嬉しいが、娘からは聞きたくない言葉だな。
しかも、止められる自信がない。
「ハルの事も今後考えていかないとな。居ると便利だから頼ってしまうけど、ハルの排除の方法調べないといけないし。居なくなった時の戦闘方法の構築も必要だな。なにせ、左手が使えなくなる。」
「あと、魔法無効化。あれがあれば【帰依する者】を楽に倒せる。」
「あれは、アラルガルが女神と【帰依する者】を倒すために準備したものだろうな。でも、何故、先に見せてしまったのか。」
「聞いてみる?」
「いや。奴も敵のうちだ。スパウンヨロの話が本当なら、俺を餌に女神を呼び出しす必要があるだろうし、止めに俺を使わないといけない。」
「ケンジをどうやって操る?」
「色々あるだろうな。人質とか。」
すぐに思い浮かぶのは人質だな。
ギンタ、小野くんやダナなら動かざるを得ないだろう。
それとも、街か国一つでも人質にしてみるか。
世界中で神に仇なす者として、世界中で指名手配でもしてみるか。
俺のことを観察してきただろうから、俺を釣る方法なんて、幾らでも考え付かれそうだ。
バルタファングも女神かアラルガルのどちらかに通じているようなので、信用できないし、相手が相手だけに助力を頼むのも気が引ける。
「 もう、事態は大きく動き出す。 いつ両陣営が動き出してもおかしくない。こっちが準備するような時間もくれないだろう。」
「どうする?」
「考えながら走り続けるか。人気の無い場所に移動することも考えないといけないけど。ちょうど来週から夏休みだったな。」
「うん。友達にあいさつしておく。」
自分の娘にこんな覚悟を強いる時が来るなんて、なんて不甲斐ない父親だろうか。
「さて、ハルに怪しまれないように、少し練習していくか。今日は前に言ってたけど、身体強化を使った突き方を考えてみようか。」
「考える?」
「俺は身体強化なんてできないから、想像するしかない。ギンタが実際にやってみながら最良の型を作っていく。」
「難しそう。」
「とりあえず基本だけな。」




