神に届く刃
『アフリカの国々は暫くの繁栄を、満喫しておりましたが、そのうち、北の大陸からの侵略を受けるようになります。一般的な侵略戦争とともに、女神教による異教排斥を伴うものでありました。西側から女神教、東側からはムアルシにより侵略が始まります。長く続いた争いは、神の使徒、【帰依する者】達の介入により、激しさを増し、無辜の民をも巻き込んで凄惨なものとなってゆきました。』
老爺は水の入ったコップを半分ほど空け、話を続けた。
『かの方は我らを見捨てた訳ではありませんでした。見かねたかの方は、自ら【帰依する者】達を屠り、最後は女神と戦いました。それは、壮絶な戦いで、六日六晩続いたその戦いは大地の力を枯渇させ、かつてあった大陸の南半分は海に沈みました。加勢した我らは、散り散りになり、小さな部族と国に別れていきました。』
『それは、いつ頃の話だ?』
『大凡、800年前です。』
『見たのか?いや、一緒に戦ったのか?』
『はい。』
『魔人というのは、お前達の仲間なのか?』
『いいえ。魔人とおっしゃいましたが、【帰依する者】達の中に、魔人と呼ばれる者達が混じっておりましたな。女神はかの方が作り出した瘴気を扱う概念すら利用し、自らの力に変えてゆきました。』
女神は利用できる物は何でも利用するっていう質か。
『それで、俺が連れてこられたのは?』
『総ての刃も魔法も女神には届かなかったのです。かの方は、傷付き、再び身をお隠しになりましたが、その間も女神に届く刃を探し続けていたようです。』
『その結果、その力を持つと思われる俺をこの世界に呼び出したと言うわけか。』
『はい。そう考えております。』
神に届く刃、それが時空魔法だと言うわけか。
何となくカラクリが見えてきた。
『総ての力には、その概念とそれに結びつく仕組みが必要になります。魔法と言うものは、それに基づいて構築されます。四元素のマナを扱う魔法というものは、あの女神が作り出した概念なのです。精霊には精霊の、極東の無色のマナは仏教の、それぞれの概念に基づいているものなのです。そして、あなたの持つその力は総ての神々や精霊達から禁忌とされた物なのです。』
だから、十二天将にも敵意を持たれたのか。
しかし、トリヴォニアの精霊達が好意的なのは何故なんだろう。
『そして、その禁忌の力を手に入れるために、概念から外れた存在が必要になったわけだ。』
『そうです。』
そして、神に届く力を育て、神に弓を引かせるために、魔人を始めとする者達を俺にけしかけたのか。
いや、前の時代から散々、奴の掌で踊らされていたということだ。
『具体的にはどんな力なんだ?』
『かの方との繋がりが消えたため、今お話した以上の事は分かりかねます。』
『奴がギンタを狙った理由は?』
『申し訳ありませんが、それも分かりかねます。』
『俺をこの時代に移した理由は?』
『恐らく、かの方自身が神に対抗する力を蓄えるためかと。』
『さっき敵の主力の居場所を聞いたが、女神教、ムアルシ、ベオニだったな。もしかして、それぞれに使徒【帰依する者】がいるということか。』
『そうですね。対となる暗部である魔人もいるでしょう。』
なるほど、ユーグの存在も、女神の体制を形作る一翼だったわけか。
じゃあ、プチャーチンは女神教から枝別れしたグロニスク正教の暗部になるわけだ。
今まで、魔人達が戦争を起こしたがっていていて、女神教の組織の中に潜んでいるものと思い込んでいたのだが、それも全て女神そのものの意向だった訳だ。
女神の目的を邪魔して、暗部の魔人を2体も処理した俺は目の敵にされてもおかしくない。
敵対の意思を測っていたところにスパウンヨロと接触してしまえば、完全に敵対する意思があると見られるだろう。
俺は良いが、ギンタを巻き込んでしまったことが悔やまれる。
『アフリカも、今は女神の勢力圏か。』
『そうですね。北西の一部は女神教、それ以外はムアルシの勢力圏です。』
『更に中国からも狙われているから、世界のほとんどが敵って訳か。』
『何故、中国に?』
『奴が俺にけしかけてるんだよ。こうやって、お前らの主人は世界中を俺達の敵に回していってるんだよ。』




