社名変更
会社名は先日の打ち合わせで決定した。
『株式会社メディアフロンティア』となった。
アプリの開発も始める社名としては、悪くはないのではないだろうか。
この一年間、がむしゃらに働いてきたが、ふと振り返ると、前の時代にいた時と違って、対等に話ができる友達がいない。
元々友達が少ないのもあるが。
小野くんと小森くんは部下という関係なのもあるが、小野くんは人付き合いが苦手だし、小森くんは酒が飲めない。
この時代に来てから生活するのに必死で友達を作ることも忘れていた。
そう思った時、オルガのことを思い出す。
会いに行こう。
魔境とウルクという国の国境近くに彼女が封印された寺院があるらしい。
封印した後その上に建てたのだろうが。
緑海の西側に位置するウルクという国は、元にいた世界で言うと、イラクぐらいにあたる。
魔境までは東欧にあたり、以南はムアルシ、元の世界で言うところのイスラム世界になる。
魔境は相変わらず人間が住んでいないようである。
ウルクについては、15年前にクーデターが発生し、軍政権となっているが、治安はそこまで悪くない。
直行便は無いようなので、トルコ経由での入国になる。
日本もそうだが、トルコやアメリカなど元の世界と同じ国名があったりする。
所謂、パラレルワールドなんだろうか。
ここにきて、免許が無いことに気付く。
魔境まではバスを乗り継いで向かうこともできるようだが、何があるか分からないし、魔境の中は交通手段がないので、足が欲しい。
教習所で車とバイクと両方セットで取れる短期間コースで通うことにする。
両方とも実技は問題ないので、最短で取得できるだろう。
飛び込みで試験を受けるのも考えたが、予約が当日に現地でしか取れず、仕事との調整ができなかったので諦めた。
また、新たな魔本の作成に力を注いでいる。
魔境に行くのであれば、装備は整えておく必要はあるだろう。
こうして着々と渡航準備を進めていく。
何かあれば、一月程度はかかるかも知れないので、仕事の方も必死で片付けや引き継ぎを進めていく。
出勤途中にある浅葱稲荷という神社に寄り、炊いた揚げを供える。
最近ハルと仲良くなったタケヒコと名乗る土地神のためのお供えだ。
おはぎは買ってきたもので済ませているが、揚げはちゃんと炊いたのが欲しいと我儘を言われたので、週に一度は炊いて供えているのだ。
信心や敬っているというよりは、炊いた揚げが食べたいなんて、少し可愛いと思ってしまい、ついついお供えをしてしまっている。
『そういえば、トリヴォニアに居たゴブリンって餓鬼みたいだったんだが、日本に餓鬼みたいなのが居るのかと、居るのなら同じ種類なのか聞いてくれないか。』
『ゴブリンと餓鬼は亜種というのが近いみたいだな。』
『やっぱりそんなところか。』
ゴブリンを初めて見た時に餓鬼ではないかと思ったのだ。
『今も日本に居るのか。』
『数は少ないから、なかなか見る機会は無いそうだが、たまにこの辺りにも出るらしい。』
『そっか。でも、居るんだな。』
『ああ。』
『どこに行ったら会えるかな。』
『退治に行きたいのか。』
『いや、ただの好奇心だよ。』
『魔境に行けばいくらでも相手にできるだろう。』
『ああ、ウォーミングアップも必要かと思って。』
『現地で良いだろう。日本で勝手に動くと陰陽師などと揉めることになりそうだ。』
『そんなのが居るのか。まだ知らないことが多いな。』
『タケヒコからだが、揚げは次はもう少し甘くして欲しいらしいぞ。』
『ハル、本当の名前、聞いてるよな?』
返事がない。
もう、これ以上、詮索しないでおこう。
『まあ、気に入ってくれる味付けになるように頑張るよ。』




