力場
魔法術式の研究の方だが、力場の術式化と魔法術式の記述言語の作成を並行して行っていたが、先に力場の術式化に成功する。
あと、一つこの『力場』の大きな特性があった。
空間に固定ができるということだ。
空間に固定ができれば、色々な応用ができそうだ。
『力場』のテストととして、ガロンの鉄の爪を再現してみた。
自己再生機能の構築のために、マナで再現可能なデータがハルの中に残っていたからだ。
データを修正して『力場』で発生させると、グレーの半透明な爪が出現した。
持ってみると、以外に軽く、鉄の半分もないのではないだろうか。
強度は鉄に近く、ハンマーで叩くなどして大きな力を加えると曲がる。
しかし、曲がった瞬間からその存在は薄くなり、すぐに爪は消えてしまった。
マナの枯渇により消える予想はしていたのであるが、元の形状から変形してしまうと、発現した『力場』としての条件を違えてしまうためか消えてしまうようだ。
これで、『力場』で出来た義手を手に入れるまであともう少しだ。
小森くんに丸投げしたSNSだが、企画書のドラフトを見せてもらったところ、当初思っていた方向性から外れてきていた。
短文投稿サイトの模倣の積りだったのだが、 外部発信とともに、 グループチャット機能なども盛り込んだ計画になってきている。
何だかオリジナルと異なっていると思いながらも、悪くもないと思うので、そのまま計画を進めることにした。
基本的にWebでの発信やグループ設定による会話をベースとする。
有料サービスとして、SMS連携をすることにより、特定ユーザからの発信やグループチャットを携帯電話へ転送する機能を持つ。
現在のところ、携帯電話のプラットフォームではアプリから常時接続することができないため、有効な手段であるとは思われる。
しかし、SMS送信にかかるコストが高いうえに、e-mailの常時受信ができないプラットフォームは限られている。
また、スマートフォンの時代がくれば廃れるのは目に見えているので、e-mailで充分だと思っている。
俺が担当すると言った、ニュースキュレーションアプリの開発だが、プロジェクト立ち上げにかかるマンパワーが足りなさすぎた。
事業の規模に合わせての会社の拡大を行うべきと判断して、求人と組織体制の整備から着手しなければならなかった。
サービス開始にかかるスケジュールも見直しが必要だな。
オフィスはグレードアップさせたが、自分自身の家は生活扶助を受けていた時に入居した、六畳一間、風呂無し、トイレ共同のままだった。
まだ家族もいないし、それなりのキッチンも含め、少しこましな所にそろそろ移りたい。
歩いて帰れる距離のため、そのまま仕事場に居着く時間が長かったので、楽だったのもある。
しかし、近すぎて日常が単調になりすぎているような気もする。
このところ、起業と魔法術式の研究に明け暮れ、どこにも遊びに行っていない。
必死過ぎて、余裕も無かったのだ。
そろそろ、一息ついても良いだろうか。
そう思い、いつもよりゆっくり歩いて帰ってみる。
途中でハルの声がした。
『何かあったか。』
『ああ、土地神がいた。』
右手を見ると、大きな神社が見える。
『そうか、精霊と土地神って同じようなものなのかな。』
『自然信仰を含まないところもあるから、全く同じとは言えんが、違うとも言い切れないな。土地神の中でも水神などの自然信仰となると、特に区別をすることもないか。』
『俺自身、姿どころか気配も捉えられないから、良く分からないな。ところで、お供えとかは喜ぶのか。』
『ああ。揚げとおはぎが好きらしい。タケヒコと呼んで欲しいらしい。』
『何で呼んで欲しいなの?』
『よく読み間違えられるらしいんだが、今風だし気に入っているとのことだ。』
『名前って大事なもんじゃないのか?ちゃんとお供えはするけど。』
この一年、仕事に必死過ぎて、殺伐とし過ぎてたかも知れないな。




