ハルの恩恵
庶務・経理は俺がこなし、小森くんにはニュースネタのアップをメインとして、たまにスクリプトのデバッグやデータの管理を主に行ってもらっている。
小野くんには、スクリプトのデバッグを主に依頼しているが、今日は出勤していない。
「鈴木さん、昼に向けてのニュースネタのアップが終わったっす。」
「おう、お疲れさん。」
記事に対するコメントなども、小森くんに変わってから、堅くなくて分かりやすいなど好評である。
しかし、将来的にはキュレーションはサイトとアプリの両立が必要であるが、現在のところ、男性ユーザばかりが目に付く。
今後の展開として、女性向けキュレーションサイトの展開も考えていかなければ、アクセス不振による共倒れの危険もある。
ライター兼編集志望の女性社員も募集する事にした。
人肌恋しさのためか、再び、オルガのことを思い出してしまった。
彼女なら、当時から俺を知っている唯一の知り合いになる。
おっかないところはあるが、会ってみなくなってきた。
意外なことにあれだけ巨大な力を持つ彼女であったが、なかなか情報が集まらかった。
100年ほど前に、暴れる彼女を誰かが緑海の畔で封印されたという伝承があり、それを裏付ける話も幾つかあった。
技術や兵器が彼女の強さに追いつくのと、石油の供給の逼迫があったのであろう。
ただ、日本からは遠いことと、まだインターネットが普及していない地域であるため、日本ではこれ以上の情報は手に入らなかった。
収入が増えれば、一度彼女の元を訪れてみよう。
サイトからの収益は順調に上がっており、住む場所も少し良いところに変えていた。
生活にゆとりができてきたため、再び魔法の研究を始めることにする。
歴史を調べてみると、ブラウン管で魔法術式を実行することは昔から実験されていたようである。
テレビに隷属の魔法術式を映して洗脳するなど、先の大戦で悪用されたことから、かなり厳しい制限が加えられており、この世界では生放送はご法度なのである。
インターネットの場合、ブラウザ側で魔法術式が出現しないように制限する機能を搭載しているらしい。
実験の結果、白黒のみの液晶では何故か魔法術式を実行できなかったが、カラー液晶なら魔法術式を実行することが可能であることが判明した。
カラー液晶を持つグラフィティで入力するPDAを購入して、魔本の再現をしてみることにする。
ここで、解像度の低さから画面に描画できる魔法術式の上限に悩まされた。
一画面だと、炎を出すような単純な魔法しか発現出来なかった。
しかし、画面単位に仮想的キャンパスを拡張し、スクロール展開していくことで、無限の術式記載量を手に入れる事ができた。
これまで記述してきた魔法術式については、ハルが記録してくれていたため、再現は容易にできた。
魔法術式の言語化については、軍用で一部似たようなものが作られているようであるが、基本的に兵器の装甲の強化等に用いるためのもので、機密のうえ、機器や道具への術式刻印にしか使用していないようである。
この世界ではほぼすべての人間が魔力を持っており、魔法を行使できる人間が相当数いるために、魔法術式によって魔法を発動させるという考え方が無いうえ、科学技術が魔法技術を凌駕しているのもある。
結局、自分で一から言語開発をするしかないのだ。
言語開発のため、これまで作成した魔法術式を解析してみると、意外なことが分かった。
『貴様は今まで気が付いていなかったのか。』
自動追尾にかかる制御については、大半をハルが担っていたのだ。
動作の大半はライブラリ化したのと、不明な部分についてハルの指導を受けて作っていたからだ。
『よく術式を見てみろ。そこから、ここまでは我が判断するなりして担っている部分だ。単発で当投射や放射を行うもの以外は、全て我が制御している。』
『その記述を使うときに、そこまで説明してくれなかっただろ。』
『そのまま使った方が早かったからだ。』
『言語化を進めて、ちゃんと術式だけで制御できるようにしよう。』
義手の制御を現在はハルが行っているので、他の処理の制御までは困難だということが判明したのだ。
つまり、これまで作ってきた魔法術式のうち、自動制御機能を持つものはすべて使えなくなるのだ。
本格的に魔法術式の言語化に取り組むことにした。
ただ、この平和な日本では使う機会も無いだろうが。




