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目が覚めると

 気が付くと、病院のベッドだった。

 ユーグとの戦いの後、ガロンが止血のため腕を縛っていた所までは朧げに記憶している。

 周りを見渡すと物々しい機器が所狭しと並べられている。

 集中治療室だ。

 腕の痛みが覚醒を促していく。

 身体を起こそうとしたが、失敗する。

 起き上がるためにベッドに着いた筈の手が無かったからである。

 よく見てみると、左の肘から先が無くなっており、包帯で包まれ、丸くなっている。

 点滴の管とバイタルのセンサーが右手の指先にある。

 隣のベッドは体中に包帯を巻かれ、所々血が染みているのが見えており、それに比べれば軽症だろう。

 身体を起こそうと身じろぎするのに気付いた看護師が近づいてきた。

『日本人か。』

 久し振りに東洋系の人種を見た俺は、驚いて声をあげてしまった。

「気が付きましたか。お名前言えますか?」

 日本語だ。

 本当に久し振りの日本語だ。

「鈴木賢治です。」

「先生を呼んできますね。」

 看護師達は踵を返す。


「帰ってきたのか。」

『そうだといいな。』

『ハル、居てたのか。』

『嫌なのか。』

『いや、安心した。』


 戻ってきた看護師が医師を連れてくる。

「初めまして。私は医師の佐伯と申します。」

『初めまして。』

 日本語で聞かれているのに、思わずトリヴォニアの言葉がでてしまった。

「すみません。日本語が久し振りなもので。鈴木賢治と申します。」

「海外から戻って来られたばかりですか。」

 実はいつ戻ったか分からないのであるが、本当のことを言っても信じてはもらえまい。

「だと思うのですが、記憶が曖昧になっているようです。最近何をしていたのか、覚えていないんです。」

 佐伯医師は少し困った顔をしている。

「左手の怪我の事は覚えてらっしゃいますか。」

 魔人に喰われたなんて、言わない方が良いだろうから、そのまま覚えていないと通しておこう。

「いえ。全く。」

「左手は事故か何かによって、肘から先が何かに挟まれたようです。こちらに来た時には酷い状態だったため、切断せざるを得ない状況でした。」

「はあ。」

 我ながらとぼけた声で返事をしている。

 病院についた時ということは、かなり時間が経ってから運び込まれたのだろう。

 行旅病人の受け入れは公立施設が行うこととなっていて、クライアントの公立病院で寒い朝に警察官と救急隊員が搬送していたのを見たことがある。

 病院名を聞いてみれば、いまどこにいるか分かるかも知れない。

「こちらは、何という病院ですか。」

「浅葱市民病院です。」

 期待したものの知らない地名だった。

「記憶の障害については事故なりのショックでよく起こることです。数日すれば落ち着くでしょう。後でゆっくり記憶のことは聞き出すとして、しばらくは安静にしていただく必要があるので、この病院に入院していただくことになるのですが、ご自宅などの連絡先は覚えておられますでしょうか。」

「しばらく海外にいたような気がするのですが、連絡先や自宅のことも思い出せないようです。」

「そうですか。」

「すみません。元々コンピュータに携わる仕事をしていたような気がします。触ったりしている間に何か思い出すかも知れません。インターネットなどにつながっている端末をお借りできるところはありませんでしょうか。」

「ああ、それなら、一般病棟のナースステーションの前の談話室に共用のインターネットができるパソコンがおいてあります。この様子だと、明日には一般病棟に移れますよ。」

「それは良かった。」

「あと、一つ残念な事をお伝えしなければなりません。ご自身の事なのでご存知かもしれませんが、体内を流れる気が存在しないと診断されておりまして、義手についてはかなり簡易なものしか利用できないという制限があります。」

「はぁ。」

「気の流れを用いた複雑な回路を使った義手などが使用できないということです。最近は魔力と呼ぶことも多いんですがね。全く気の流れが存在しない方は初めてみました。」

 こんなところで、まだ異世界であることが判明するとは。

 要するに体内の魔力がないので便利な道具が使用できないということか。

「今日のところはここまでにしましょうか。明日からは一般病棟に移るよう手続きしておきます。」

 そう言って、佐伯医師と看護師はナースステーションに戻っていった。


『魔力か。元の世界には戻ってはいないのか。』

『そのようだな。』

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