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アマテラス様の野望  作者: 光音 雷十
3/3

草薙の剣 其ノ参

窓の外の景色は、ごうごうという音を伴って、高速で移り変わっていく。と、トンネルに入ったのか、急に景色が暗転し、神楽の耳の中を重低音が響いた。


「ねえ!神楽!凄いわ!速いわ!どうなってるのかしら、この……しんかんせん?ていう箱!須佐之男すさのおにも見せてあげたいわ!」


さっきからわーわーと騒いでいる自称神様が五月蝿くて読書に集中できない。耐えきれなくなった神楽は、舌打ちがわりに大きな音を立てて文庫本を閉じた。


「ーーーどうしたと、神楽ちゃん?なんか、あったん?」


心配そうに咲夜は神楽を見つめる。なんでもない、と首をぶるぶる振って神楽はまた文庫本を開いた。


神楽は御側一家+αと新幹線に乗って名古屋を目指していた。そのαと言えば、夜遅くまで騒いで睡眠時間を奪うわ、博多駅で「伊勢神宮よりも立派な建物の存在なんて認めないわ!」とか言ってよく分からん光線をバスターミナル目掛けてぶっぱなすわ、新幹線に乗ったら乗ったで神楽の気を害し続けるわで、神楽にとって、お荷物以外の何者でもなかった。


広島、と車内アナウンスが聞こえるや否や、また自称神様が騒ぎ出した。


「ねえ神楽!あの水の抜けた湖みたいなのは何かしら!いっぱい棒が立ててあって壮観だわ!」


どうやら広島ドームのことを指しているらしかった。そんなことはいい。頼むから静かにしてくれ。


新幹線の車体は、スーっと、静かな音を立てて、また動き出した。





********************





時折、木々の揺らめく音を夏の夜の風が運んでくる。窓から入ってくるそれは、湯上りの火照った身体を快く撫でる。


手元に文庫本を携えたまま、神楽はホテルを後にした。少ししたところで、八千代さんに少し外の風を浴びてくる、とケータイで連絡を入れた。


神楽は歩きながら、昼前訪れた熱田神宮のことを思いだしていた。多くの人でごった返し、神社の神秘さ、静けさ、淋しさ……そういったものが、あの場には無かった。それを見るために、彼は再び夜の熱田神宮へと足を進めていた。


「ねえあんた、どこに行くつもりなの?」


「熱田神宮。理由は、多分言っても分からんと思うよ。」


「そんなのあんたの思い上がりよ。話さないことには、何も分からないじゃない。いいから話しなさい。これは命令よ。勅命よ。」


神楽は自称神様を適当にあしらって、ゆっくり歩き続けた。





********************





夜闇の中にたたずむ、無人の社を見た時、神楽は言いようのない感情に囚われた。それを言葉で表現するならば、畏怖や畏敬が正しいのかもしれない。夜の神社は、なにか神秘的なものをはらんでいる。


「ねえ神楽ー。お腹減ったー。なんか食べるもの無いのー?」

「お前は少し黙っとけやん。神社の神聖な雰囲気台無しじゃねえか。」


彼女のことは置いておいて、実際、夜の熱田神宮は、昼のそれとは全く違う顔を見せていた。やっぱり神社は人がいない方が落ち着く。本殿に背中を預けて、文庫本を開いた。


「ねえ、神楽。」

社の天井に腰掛けて、上から見下ろす体で、彼女は口を開く。

「ここの神社の御神体、何だか知ってる?」

彼女の頭の上では、妖しげな三日月が煌々と光り輝いていた。

彼女は、神楽が何も言わないうちに、また口を開いた。

「ーーー草薙の剣よ。三種の神器くらい、低脳なあんたでも知ってるでしょ。」

「ーーーああ。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫だろ。」

「少なくともその中に草薙の剣は入ってないわね。やっぱりあんた、馬鹿なの?」


夜の虫たちは、誰に言われるまでもなく、夜を奏で続けている。涼やかな夏を彩るその音は、きっとここに誰もいなくても流れ続けるのだろう。


「私はね、それを手に入れたい。大国主(おおくにぬし)を倒すには、三種の神器が必要なのよ。」そこで、一つ息を呑む。「でも、肉体を失った私では、悔しいけど、叶わないことだわ。」そう言って、淋しそうに笑って見せた。


「なあ、おまえ。」

神楽は文庫本から目をあげまま、静止した状態で声をかけた。

「あれが何か、分かるか。」

神楽の目線の先には、境内に佇む、真っ暗い影あった。それがぴくっと動く。神楽の全身の毛が、恐怖という感情によって総毛立つ。

「ーーー因幡(いなば)の兎、ね。」彼女は忌々しくそういった。

因幡の兎。神楽も、その伝承を聞いたことくらいならある。鰐を騙したり大国主に助けられたりと、なんか色々ある兎だ。

「にしても、でかすぎだろ、あれ。」

3mはゆうにこすように見えるそれは、少女を見つけると、獲物を見つけたかのように足を踏み鳴らす。


「ーーー来て!」

彼女はそう言って屋根から飛び降り、神楽の手を引いて本殿の中へと足を踏み入れた。刹那、彼女の元いた場所を赤い光線が通り去り、破裂音とが夜の境内に鳴り響いた。

神楽は彼女の質量の無い手に引かれ、本殿の扉を立て続けに開きながら進んでいく。恐怖でかくかく笑う膝を無理矢理動かして走り続ける。


「ーーー着いた!」

そういうや彼女は神楽を置いて、目の前の壁の中にめり込んでいった。とどん、とどんと。後ろから嫌な破裂音が聞こえる。件の兎は、社を粉砕しながら、猪のようにこちらへ突き進んでくる。

「ーーーおい!やばいって!まじやばい!ほんと!まじで!」

兎は神楽の目前で、全身を止めた。神社の社は中央だけ、くり抜かれたように穴が空いている。さぞ外から見たら、不格好な光景だろう。

じりじりと、神楽は後ろへ後ずさる。しかし、壁と背中がぶつかった所で、彼はその後退をやめた。

ーーーここで、終わる。

そんな予感が、神楽の胸中を渦巻いていた。


「勝手に1人で諦めてんじゃないわよ!ばか神楽!」

彼女は、壁からにょきっと半身だけ乗り出して、神楽の頭を叩いていた。

「くよくよしない!いいこと?あと、はい、これ!」

そう言って、彼女は右手に握られた、どす黒い色をした大剣を神楽に差し出す。

「最高神からの贈り物よ!大切に扱いなさい!」

ーーー草薙の剣。見ただけで、何となくそうだと思わせるような、そんな雰囲気を漂わせる剣だった。

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