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アマテラス様の野望  作者: 光音 雷十
1/3

草薙の剣 其ノ壱

夜闇の中を、時折、生暖かい夏の風が通り抜けていく。その風にあおられて、木々が美しい葉音を奏でている。

右手に握られたどす黒い大剣を見て、米良神楽(めらかぐら)は初めて隣に立つ彼女のことを信じてみようと思った。


神楽は、その大剣ーー俗に言う、「草薙の剣」を水平に振るった。幾ばくの後、どこかで草の()ぐかのような音がして、先程まで雲の向こうに隠れていた三日月がひっそりと顔を出した。月光に照らされて、眼前の白い兎は少し眩しそうに夜空を見上げる。赤い瞳に金色の欠片が映るのが見えた。


「ねえ。」神楽は前を向いたまま、隣の少女に話しかける。「世界征服、やっけ?」その少女は黄金の首飾りを鳴らしながら彼の方を、ぱっと見つめた。「よかよ。その話、信じてあげる。」

今度は剣を垂直に振りかぶった。刹那(せつな)、剣の軌道に(まばゆ)い光が(ほとばし)って、兎へ目掛けて駆け抜けて行く。光が兎に当たったかと思うと、兎はその巨体を蒼白く光らせて天へと吸い込まれていった。


「……信じるも何も、最初からそうだって言ってるじゃないの。神楽のばか。分からずや。人間風情。」そう話す少女の顔は、まるで花が咲いたかのように(きら)びやかであった。


「私を誰だと心得ているの?私は、天照大御神よ。分かったら今すぐ(ひざまず)きなさい!」



**********




その日も神楽は日向神(ひゅうがみ)神社の賽銭箱(さいせんばこ)の隣で本を読んでいた。そうするのが、夏休みの日課となっていた。こころ。夏目漱石。もう何度読み返したか分からないその文庫本は、ところどころページが折れて、全体的に黄ばんでいた。


かぁー、かぁー、と烏の泣く声が聞こえたので、ふと文庫本から顔を上げた。雄大な山々の奥へと沈んでいく太陽が目に入った。

同時に神社の色々なものが見えてくる。鳥居の上に腰掛ける、罰当たりな少年の霊。境内で花いちもんめをしている子供たちの霊。

そして、隣で訳の分からないことを口走っている少女の霊。


「ーーーちょっと、あんた、私の話聞いてるの?私を誰だと思ってるわけー?天照大御神、アマテラスよアマテラス。知らないの?葦原中国(あしはらのなかつくに)民のくせして私を知らないだなんて、万死に値するわ。ーーーだから、私の話を聞いてよ!何度言わせる気?」


それにしても、言葉を話す霊というのも珍しい。生まれつき霊感が強く、殆どの霊を視覚認識できる神楽でも、幽霊の声を聞くのは初めてだった。


「ーーーお願いだから、私の話を聞いてよ!ここで頼れるの、あんたしかいないの。」


しかし、神楽は聞く姿勢を見せない。彼の中では当然のことだ。霊に関わるとろくなことが無い。それも、これだけ頭のネジの外れた霊だ。もう嫌な予感しかしない。


「ーーーほんっといい加減にしないと怒るわよ?末代まで祟ってやるわ!」


呪いをかけられると聞いた神楽は、恐怖と敵対心の入り交じった目でその少女を見た。


動くとじゃらじゃら音のなる、黄金の首飾り。ところどころ朱色だったり、金だったりがあしらわれている、巫女装束に似た服。ふわふわと海月(くらげ)みたいに首のあたりを浮遊するマフラーかなにか。おでこに付けられた、金色に輝く、円盤みたいなの。

その少女の霊は、見た感じ、慎んで存在すべき霊にそぐわない出立ちをしていた。


「ーーーそんなに怯えなくても大丈夫よ。さっきのは冗談。私は仮にも最高神よ?あんたみたいな普通の人間に、そんなことするわけないじゃない。」


かぁー、かぁー、とまた烏の泣き声が聞こえた。烏に呼応するかのように、風が吹く。大きな杉の木が、音を立てて葉を揺らす。


「ーーーで、アマテラスがなんやって?」

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