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613話 キリヤ夫妻の実力

 引き続き、西の森の中を進んでいく。

 マリアの索敵に加え、俺やリーゼロッテの魔法があれば、何の危険もない。

 だが、そればかりだと護衛兵たちの仕事を奪うことになる。

 また、今回護衛兵たちに同行してもらっているのは、実戦経験を積んでもらうためでもある。

 あまり俺たちが出しゃばり過ぎるのもよくない。


「ん~! このクッキー、おいしいね!」


「リンさんがお作りになったものでしたわね。最高ですわ~!」


 マリアとリーゼロッテがそう言った。


「ああ、これはいい味だな」


 俺も同意する。

 メイドのリンは、料理や掃除に精を出している。

 今回の視察に同行はしていないが、旅の合間のつまみとしてクッキーなどのお菓子を提供してくれたのだ。


 彼女の作るお菓子は美味しい。

 マリアやリーゼロッテからも大好評で、お菓子を食べながら和気あいあいとしている。

 リラックスムードだ。

 その代わりに警戒をしているのは、キリヤやヴィルナ、それに他の護衛兵たちである。

 それぞれが役割をしっかり果たしている。


「……むむっ! キリヤくん。進行方向右手に魔物の群れがいますよ。たぶん、ゴブリンだと思いますが……」


 そんな中、御者を務めているヴィルナがそう報告した。


「了解した。数は?」


 キリヤが訊ねる。


「10匹ぐらいですね。私たちで対処しますか?」


「そうだな。騎士爵サマばかりに手柄を取られるわけにはいかないからな」


 キリヤはニヤッと笑った。

 そして、腰から2本の剣を抜いた。


「先に行くぜっ!」


 キリヤは馬車を飛び出して行った。

 ヴィルナの言う通り、前方にゴブリンの集団がいるようだ。


 彼は、まずは先頭にいた1匹の首を斬って倒した。

 続いて、もう1匹の喉元を斬り裂く。

 さらに、別の1匹が振り下ろしてきた棍棒を、横薙ぎに振るわれた剣で弾き返した。

 そのまま、返す刀でそいつの胸を貫く。


 残りは7匹だ。

 そのうちの3匹ほどは、キリヤに向かってきた。

 しかし、残りの4匹は背中を見せて逃げようとする。


「おらぁっ!!」


 キリヤが3匹のゴブリンをあっという間に切り伏せる。

 やはり強いな。

 10匹のうちの6匹を1人で撃破か。


 だが、逃げている4匹については既にそこそこ距離を空けられている。

 今回の目的は採掘場の視察であり、魔物の間引きではない。

 逃げるのであれば深追いをする必要はないのだが、できれば討伐しておくに越したことはない。

 遠距離攻撃の手段があれば、簡単に追い打ちできるのだが……。


「逃しませんよっ! 【ソーラーレイ】!」


 ヴィルナが光魔法を放つ。

 光線によって敵にダメージを与える魔法だ。

 さらに、直撃を回避したとしても、眩しさにより敵の視力を奪ってしまう効果もある。


「「ギイイィッ!!」」


 逃げていた4匹のうちの2匹に光線が直撃し、倒れる。


「ふっ。やるじゃねえか」


「でも、後2匹が……」


 魔法の連発には制約がある。

 魔力のステータスや本人の力量、あるいは発動しようとしている魔法の難度次第で連発数や技後硬直の時間が上下する。

 先ほどの魔法をヴィルナが連発することは無理なようだ。


「最後は俺に任せな。【ライトニングブラスト】」


「「ギャアァーッ!」」


 生き残りのゴブリンは、電撃を受けて倒れた。

 キリヤは剣術だけじゃなくて、雷魔法も使えるんだよな。

 彼のメインスキルは、剣術レベル5と雷魔法レベル3だ。

 まだ加護(小)しか付与していないのに、とんでもない逸材である。


「ありがとうございます、キリヤくん。さて、先に進みましょうか」


 ヴィルナがそう言って、馬車を走らせる。

 もちろん彼女も素晴らしい人材である。

 純粋な戦闘能力こそ、キリヤやクリスティには及ばない。

 しかし、光魔法というやや珍しい魔法を操る上、銀兎族として獣化の技も持っている。


 さらには優れた聴覚を持ち、それを活かした抜群の索敵能力を誇る。

 彼女が危険をいち早く察知し、キリヤが敵を迎撃するというコンビネーションは、非常に強力だ。

 今後も末永くハイブリッジ騎士爵家に貢献してほしいものである。

 彼らは夫婦だし、給金や労働シフトにも適切に配慮してやれば、今後もきちんと働いてくれるだろう。


「…………す、すげえ奴らだな……」


 Dランクパーティ『紅蓮の刃』のリーダーであるアランがそう言った。

 彼の視線の先にいるのは、キリヤとヴィルナだ。


「こんな奴らが一配下で満足しているとは……。さすがは我が神タカシ様といったところか」


 確かに、今のキリヤやヴィルナは、貴族の配下で小さく収まるような器ではないだろう。

 独立した冒険者として活躍を続ければ、Cランク冒険者として特別表彰されたり、Bランク以上になってガンガン稼いだりすることも可能なはず。

 めぐり合わせが良ければ、俺のように爵位を授かることも不可能ではないかもしれない。

 にもかかわらず俺の配下として日々働いてくれているのはありがたいことだ。


 彼らが独立を画策しない理由は、おそらく3つある。

 1つは、キリヤの物臭な性格のため。

 元ヒモのキリヤは、あまりガツガツと働くタイプではない。


 次に、夫婦として安定した幸せな生活を送るため。

 ヴィルナに長い間苦労を掛けていたキリヤは、その分幸せにしてあげたいという気持ちが強いようだ。


 そして最後に、キリヤとヴィルナの能力を見出した俺に対する恩義に報いるため。

 登用試験におけるキリヤの態度はかなり大きく、忠義度を測れる俺でなければまず採用されなかっただろう。

 キリヤとヴィルナが幸せな結婚生活を送れているのは、俺のおかげと言っても過言ではない。

 実際、彼ら自身もそう認識している節がある。


 当面は、彼らが離反する心配は無用だろう。

 ま、だからと言って蔑ろにしたりすれば、いずれ愛想を尽かされる可能性もあるんだけどな。

 今後も当主として頑張らないと。


「キリヤもヴィルナも、俺の自慢の配下だよ。アランも、ハイブリッジ騎士爵領のためにこれから頑張ってくれるのだろう? 期待しているからな」


「はい! お任せを! 我が神よ!!」


 アランが元気よく返事をする。

 そんな感じで、俺たちは西の森の奥地へと進んでいったのだった。

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