53話 ゾルフ砦に到着
「あ、ゾルフ砦が見えてきたんじゃないか? ミティ」
「そうですね。あれが目的地かもしれません」
ラーグの街を出発して、一週間ぐらいが経過した。
とうとうゾルフ砦が見えてきた。
ゾルフ砦は、大きな砦だ。
その砦の北側に、街が発展している。
街の南側にある砦を除けば、ごく普通の街といったところだ。
なんか、想像していたのとずいぶん雰囲気が違うな。
南の“魔の大陸”からの侵攻に備えて、もっと殺伐とした空気になっているかと思ったんだが。
ハルトマンが言っていた通り、現在は平和のようだ。
馬車に乗ったまま門を通り、街に入る。
街中を、馬車に乗って進む。
見れば見るほど普通の街だ。
強いて言えば、マッチョな人の割合が高いような気もするが。
ミッションの“ゾルフ砦の防衛に加勢しよう”とは何だったのか。
確認してみるが、もちろん達成済みにはなっていない。
そもそも”防衛”とは、具体的に何をするのだろうか。
ただこの砦の周辺をうろついている魔物を倒せば防衛に加勢したことになるのだろうか。
それとも、近いうちに”魔の領域”から大規模な攻勢があって、その攻勢からの砦防衛に加勢すればよいのだろうか。
その場合、情報収集が大事になってくる。
いつごろ侵攻がありそうなのか。
どれくらいの規模での侵攻になりそうか。
今までにあった侵攻の具体的な内容。
知っておくべきことはたくさんある。
下見も大事だ。
周辺の地理や砦の構造を見てまわっておくべきだろう。
まあものは試しだ。
とりあえず、周辺の魔物を狩ってみるか。
また、当然のことながら、この地での生活基盤を整えていくことも必須だ。
まずは冒険者ギルドに行って、出ている依頼を確認し、日々の稼ぎの見当を立てる。
宿屋や飲食店を探し、良さそうなところに目星をつける。
武器屋・防具屋も見ておくべきだ。
さらに、ハルトマンが言っていた、武闘大会も気になる。
大規模な大会は夏にあるらしいので今は時期外れだが、中小規模の大会ならば今の時期にもあると言っていた。
大会のレベル次第では、俺やミティが出場してみてもいいかもしれない。
先日、ラーグの街近くの“北の練習場”での模擬試合をした。
そして、その直後の犬狩りでレベルアップした。
体感ではあるが、想定していたよりも早いレベルアップだった。
魔物狩りだけではなく、対人戦闘でも経験値が入っている可能性がある。
もしそうであれば、武闘大会に出場して経験を積むことで、俺やミティのレベルアップが早まるだろう。
とは言え、無理をしてケガをしては元も子もない。
俺は魔法系のスキルを優先して取得した結果、現状での肉弾戦闘はそれほど得意ではない。
ミティも、パワーを重視したスキル編成のため、1対1の対人戦闘は苦手な部類だろう。
大会のレベルを見て、俺やミティでも最低限は通用しそうな感じであれば、出場を検討してみよう。
これからやるべきことを整理しておこう。
1つ。
“魔の領域”からの侵攻の情報を集める。
また、それに向けて周辺の地理や砦の構造などを把握しておく。
1つ。
生活基盤を整える。
特に、冒険者ギルドへの顔出しと宿屋の確保。
1つ。
武闘大会についての情報収集。
侵攻の時期とかぶらなそうであれば、大会のレベルによっては出場を検討。
こんなところか。
考えを整理し終えたところで、ちょうど馬車が止まった。
馬車から降りるように誘導され、冒険者たちが1か所に集められる。
そこへ、 隊商の代表者であるベルモンドがやってきた。
彼が口を開く。
「今回の旅路でも、大きな問題なく無事にゾルフ砦に到着することができ、嬉しく思う。冒険者諸君の護衛に礼を言う。今、使いの者を冒険者ギルドに報告に行かせてある。報酬は冒険者ギルドで受け取ってくれ」
冒険者一同に嬉しそうな空気が生まれる。
「今後の隊商の予定としては、2週間ほどこの地に滞在し、そしてオルフェスへ向けて出発するつもりじゃ。護衛依頼を引き続き受けてくれる者は、冒険者ギルドで再度依頼を受注するようよろしく頼むぞ。では、解散してくれ」
彼はそう言って、去っていった。
荷下ろしの手続きなど、やることがあるのだろう。
解散となったので、さきほど整理した指針に沿った行動をしていきたいと思う。
本来であれば、まずは冒険者ギルドへ向かうのが優先か。
しかし、ここには“漢の拳”がいる。
ハルトマンの話によれば、“漢の拳”のメンバーたちは、武闘大会に詳しそうだ。
せっかくだし、まずは彼らに話を聞いてみよう。
「ギルバートさん。少しお伺いしたいことg……」
「うおおおお! 護衛任務は終わった! 野郎ども、行くぞ!」
「「「「うおおおお!」」」」
彼らは走り去っていった。
話を聞いてくれよ。
彼らはどこに行ったのだろうか。
あの雄たけびの感じからすると、武闘大会関係の場所か、もしくは魔物狩りか。
いや、単純に仕事が終わってテンションが上がって、飲みにでも行ったのかもしれない。
彼らは疾風のごとく走り去ってしまっている。
探し出すのは厳しそうだ。
まあ、彼らもここゾルフ砦が目的地であると聞いた。
しばらくは滞在しているだろう。
そのうち見かけることもあるはずだ。
ミティといっしょに街を散策する。
ラーグの街とそれほど大きな違いはないようだ。
宿屋も武器屋もあるし、冒険者ギルドもある。
冒険者ギルドに入る。
受付嬢に話しかける。
「こんにちは。護衛依頼の達成報告をしたいのですが」
「承知しました。ベネフィット商会の護衛依頼ですね? ギルドカードの提示をお願いします」
受付嬢にギルドカードを提示する。
「では確認致します。……Dランクのタカシ様とEランクのミティ様ですね。少々お待ちください」
受付嬢が依頼の達成手続きを行い、報酬金を準備する。
「こちらが報酬金となります。ご確認ください」
受付嬢から金貨を受け取り、枚数を確認し、アイテムボックスに入れておく。
「ありがとうございます。確認しました」
ついでに情報収集しよう。
「あと、少しお尋ねしたいことがあるのですが」
「はい。なんでしょうか?」
「私たちはしばらくこの街を拠点にして活動しようと考えています。何かオススメの常設依頼などはございますか? 比較的安全に狩れるものがいいです」
「そうですね……。この辺りには、他の街と比べて強力な魔物が多いとされています。ファイティングドッグなどは安全に狩れますが、あまり街から離れすぎないようにしてください。南の山の方から強力な魔物が下りてくることがあります」
この街の南側には、巨大な山脈がある。
その山脈を超えると魔の領域だ。
「強力な魔物とは?」
「シャドウウルフやファルコンバードなどです。Dランク以下の少人数パーティですと、かなりの危険が伴います」
「両方とも知りませんね……。特徴はどのような?」
影の狼と、鷹だろうけど。
「シャドウウルフは影魔法の使い手です。自身の影を操り、本体と共に攻撃してきます。1頭いれば、実質2頭を相手にするような状況になります。動きも速く、厄介な魔物です。打たれ弱いので攻撃を当てることさえできれば何とかなります」
「なるほど」
魔法を使う魔物がいるのか。
なかなか強そうな感じだ。
「ファルコンバードは空を素早く飛ぶ魔物です。空を飛んでいるので近接武器では相手にできません。弓や魔法で狙おうにも、動きが速いのでなかなか当てることができません。攻撃を当てるには相当な技量と慣れが必要です。魔法の範囲攻撃があれば狩ることはできますが、効率はあまり良くないとされています」
確かに。
せっかくの範囲魔法を、たかが鳥1羽に使うのはもったいない。
俺はスキルの恩恵で範囲魔法を連発できるが、普通は無理だ。
そもそも、範囲魔法を使えるレベルなら、鳥1羽に使うよりも、ゴブリンなどの群れを相手に使用した方が効率がよい。
「よくわかりました。あまり街から離れずに、安全を重視して狩りに行こうと思います。ありがとうございました」
「いえいえ。何かあればお気軽にお聞きくださいね」
結構長々と聞いてしまった。
まあ今は昼時だ。
それほど混雑していないし、大丈夫だろう。
よく考えたら、魔物については同業者である冒険者に聞いた方が良かったかもしれない。
……いや、そうでもないのか?
冒険者にとっては、他の冒険者はライバルでもある。
多少のアドバイスはくれるかもしれないが、重要な情報は渋られるかもしれない。
一方で、冒険者ギルド運営側からすれば、冒険者が多くのクエストをこなせばこなすほど、自分たちも潤うことになる。
俺のような新米冒険者に対する助言も、冒険者ギルド運営への利益に繋がっていくだろう。
どちらかといえば、他の冒険者よりは、冒険者ギルドの職員に尋ねるほうが正攻法かな。
冒険者ギルドを出る。
街から出て、魔物を探す。
しばらく歩くと、魔物をちらほら見かけるようになってきた。
とりあえず、ファイティングドッグを1匹倒してみるか。
「ミティ。あそこのファイティングドッグに石を投げてくれるか?」
「わかりました。……せえぃっ!」
ミティが振りかぶって、全力投球を行う。
見事にヒットした。
「いいぞ! ミティ!」
「ありがとうございます!」
ミティの投擲の命中率も、かなり向上してきたな。
投擲術のレベルが上がっているし、器用のステータスも上がっているし、慣れもある。
彼女の投擲は、かなり強力な攻撃手段だ。
ミティの投石により、ファイティングドッグは一撃で絶命している。
ミッションを確認する。
ミッション(期間限定)
ゾルフ砦の防衛に加勢しよう。
報酬:スキルポイント20
ミッションは達成になっていなかった。
やっぱりダメか。
まあミッションに直接は関係なくとも、魔物を倒しておいて損はない。
レベルアップに近づくし、金策にもなる。
その後、数体の魔物を倒してみた。
ファイティングドッグ以外にも、いろいろな魔物がいた。
初見では少し不安だったが、特に問題はなさそうだ。
問題なく討伐していく。
冒険者ギルドに戻り、報告を済ませる。
金貨数枚の収入だ。
この街でも、安定した収入は得られそうだ。
夕食を食べるために、良さげな食堂に入る。
ミティの首輪は隠してあるし、特に問題ないだろう。
料理を注文し待っている時、周りの人の話し声が聞こえてきた。
筋肉質な男が数人だ。
「明後日の武闘会、気合入れていけよ」
「ああ。月に1度のチャンスだからな。今回こそ上位入賞してやるぜ!」
「賞金が入れば奢れよ! ガハハ!」
へえ。
話にきいていた武闘会が、タイミングよく明後日にあるのか。
見にいくか。
「ミティ。明後日に武闘会があるそうだ。見にいくか?」
「そうですね。私も興味があります。見にいきたいです」
しばらくいっしょに過ごしてみてわかったが、ミティはけっこう武闘派だ。
体育会系と言い換えてもいい。
たぶん武闘会に本当に興味があるのだろう。
明日の武闘会の観戦で、何か新たな発見があるかもしれない。
期待しよう。




