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385話 どすこい寿司にて

 海洋都市ルクアージュに到着した。

 さっそく、腹ごしらえのために飯屋に来たところだ。


 店名はどすこい寿司。

 どんな寿司が出てくるか、見せてもらおう。


 俺たちミリオンズは、そわそわしながら待つ。

 まずは、板前のオススメの寿司が出される感じだ。


「へい、お待ちぃ!」


 板前が元気よくそう言って、寿司が盛り付けられた皿を差し出す。

 俺たち9人分の量が、大きな一皿に盛り付けられている。


「ふむ……。うまそうだな」


 赤、白、オレンジ。

 色とりどりの魚の切り身がシャリの上に乗っている。

 日本風に言えば、マグロ、ハマチ、サーモンといったところか。

 ここは異世界なので厳密には違う魚なのだろうが、見た感じはかなり似ている。


 もちろん、他にもいろいろな寿司がある。

 どれもおいしそうで、目移りするな。


「えっ……? 魚を生で食べるの? お腹を壊すと思うんだけど……」


「そ、そうですね。これが異文化というやつでしょうか。ちょっと恐いです」


 モニカとニムがそう言う。

 そういえば、今までのモニカの料理では、魚を生で出されたことはなかったな。

 それに、魚だけじゃない。

 肉や卵も全て加熱処理がされていた。


 この世界は科学技術の代わりに魔法が発展しており、日常生活や食生活は結構発展している。

 また、法体制や道徳観念などもなかなかの高水準だ。


 ただし、遠距離間の移動だけは地球と比べて大きく劣っている。

 海から遠いラーグの街で生まれ育ったモニカやニムは、海を見たことがなかったし、魚を生で食べるなど想像もしていなかったというわけだ。


「たぶん心配ないんじゃないか。この街では、生魚を食べることもよくあるのだろう。そうでしょう? リーゼロッテさん」


 俺はそう言う。

 俺は、生魚を食べることに忌避感などまったくない。

 とはいえ、モニカやニムの気持ちを置き去りにしてさっさと食べまくるのもな。


「ええ。経験則上、一部の新鮮な魚は生で食べてもだいじょうぶと言われていますわ。少しお腹を壊すぐらいでしたら、わたくしが治療魔法をかけるのでご心配なく……」


 治療魔法は、腹痛にも効果がある。

 瞬時に治るわけではなく、気持ちマシになる程度だが。


「実は、ボクは生魚を食べる文化を知っているよ。実際に食べたこともあるし。……もぐもぐ」


 アイリスがそう言って、さっそく寿司を口に運ぶ。

 彼女が最初に食べたのはサーモンだ。

 彼女は中央大陸から海を渡り、はるか南方のゾルフ砦まで旅をしていた。

 その途中で、様々な異文化に触れる機会もあったのだろう。


 彼女は適応力が高い。

 どんな環境でも、すぐに馴染んで生きていけそうな雰囲気がある。


 リーゼロッテの言葉に加えて、アイリスが先陣を切ったことにより、他のみんなも安心したようだ。

 それぞれ、思い思いの寿司に手を伸ばしていく。


「わあい! マリアは、この赤いやつを食べる! あと、この黄色いやつも」


 マリアがそう言って、マグロ風の寿司を口に運ぶ。

 次に狙っているのは、タマゴ寿司だ。

 やはり子どもは、マグロやタマゴ寿司が好きな傾向があるのだろうか。


「私は、このハンバーグ寿司を食べます。むんっ!」


 ミティはぶれない。

 肉系が大好きだ。


 しかし、ハンバーグは寿司じゃないだろ。

 日本の回転寿司では、半ば定番メニューだったような感じではあるが。

 異世界とはいえ、発想は同じだということか。


「私は、この緑色の寿司をいただきますね。何だか、落ち着いた味わいがありそうです」


 サリエがそう言って、緑の物体が乗った寿司をほおばる。

 彼女は、落ち着いた味が好きなようだ。

 リバーサイドのカキ氷でも、抹茶味を選んでいた。

 だが、今回はーー。


「ぶーーっ!!! な、なんでひゅかこれ……? か、辛ぁい!」


 サリエが盛大にむせて、そう言う。

 緑色の物体が乗った寿司。

 つまり……。


「お嬢ちゃん、すまねえ。説明が遅れた。それはワサビ寿司だ」


 板前がそう説明する。

 説明が遅い。

 何というトラップだ。

 俺が事前に気づけていればよかったのだが、俺も判断が遅れてしまった。


 しばらくして、何とかサリエが復帰する。

 涙目になっている。


「ふう……。ひ、ひどい目に会いました。気を取り直して、私はこちらの白い寿司をいただきます。これはだいじょうぶなものですか?」


「ええ。それは、ハマチですわ。なかなか味わい深くておいしいですわよ」


 リーゼロッテがそう答える。

 やはり行きつけだけあって、彼女は寿司に精通している。


 しかし、やはりこの寿司はハマチだったか。

 俺の異世界言語のスキルがそう訳しているだけとはいえ、ハマチという単語を聞くと安心して食べることができるというものだ。

 俺もハマチを口に運ぶ。


「うむ、うまい!」


 俺は力強くそう言う。

 ちゃんとした寿司だ。

 ついでに、醤油もある。

 俺が料理知識で無双できないのは残念だが、それ以上に最初からすばらしい食文化が発展していることの喜びのほうが大きい。


「ふふん。私は、サリエが断念したこのワサビ寿司に挑戦しようかしら。辛いものなら、私に任せなさい!」


 ユナがそう言って、ワサビ寿司を一口でほおばる。

 しかしーー。


「ぶーーっ!!! な、なにこれ? お、思っていた辛さと違うわ……!」


 ユナがそう言って、悶絶する。

 彼女が強いのは、チリ系統の辛さだ。

 ワサビ系統の辛さとは、また少し違うといったところか。


「そんなに辛いですか? 私は結構いけますよ!」


 ミティがそう言う。

 思わぬ伏兵だ。

 そういえば、彼女は酒に強いし、チリ系統の辛さに対してもユナの次に耐性がある。

 彼女は肉も好きだし、インパクトのある味付けが好みなのかもしれない。


 そんな感じで、俺たちミリオンズが寿司を堪能しているときーー。


「ぬううっ! 鮪や鮭の寿司の再現度は見事。しかし、はんばあぐや茄子を寿司に乗せるとは何事でござる……! 大和連邦出身の拙者としては、このような寿司を認めるわけには……」


 少し離れた席から、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。

 ええと。

 だれの声だったか。

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