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381話 カキ氷でキーンとなるやつ

 屋形船にて、釣りを体験し、釣った魚を丸焼きにして食べた。

 これで昼食は終了である。

 そして、シュタインによって食後のデザートが用意されている。

 何やら水魔法を使って下準備を済ませてくれたらしい。


「水魔法? 水を使ったデザートなのか?」


「半分正解だ。正確には、氷を使ったデザートだよ。……これだ!」


 シュタインがそう言って、ドヤ顔をする。

 彼が用意してくれたデザートとはーー。


「ただの氷ですわね……」


「すごく……氷です……」


 リーゼロッテとサリエが微妙な顔をしてそう言う。

 シュタインが出したものは、ただの氷だった。

 数センチぐらいの小さな氷塊が、たくさん用意されている。


「これを食べるのですか? 確かに、氷だけでもひんやりしていてマズくはありませんが……」


 サリエがそう言う。

 暑いときや喉が渇いているときは、氷だけでも悪くはない。

 俺が日本にいたときは、買ったジュースに入っている氷をボリボリと食べ尽くすこともあった。

 あまり行儀はよくないが。


「いいや、違うね。……ミサ、あれを頼む」


「りょーかーい」


 シュタインの指示を受けて、彼の第一夫人であるミサがそう返答する。

 彼女は記憶を取り戻し、ずいぶんと明るく軽い性格になった。

 シュタインとの仲も良好のようだ。


 しかし、今の良好な関係の裏で、ちょっとした修羅場があった様子も見受けられる。

 ある日、ソーマの頬にビンタの跡があったのだ。


 まあ、いくら自分の治療のためとはいえ、新たに第二夫人から第八夫人まで迎え入れていたらそりゃ複雑な気持ちにもなる。

それに、第二夫人から第八夫人たちも、今までおとなしかった第一夫人が突如復活したらそれはそれで複雑な心境だろう。

8人の妻たちの気持ちを受け止めなんだかんだ丸く収めつつあるシュタインの力量には、感嘆させられる。


 ちなみに、今回の屋形船に乗っているのは第一夫人であるミサだけだ。

 シュタインと1対1の夫婦として、仲良くしている。


 先ほども、ミリオンズに釣りを指南する傍らで、2人仲良く釣りをしていた。

 ラブラブで羨ましい限りだ。

 そんなシュタインが、ミサからとある器具を受け取る。


「氷をコイツに入れて……こうするのさ!」


 シャーコ、シャーコ。

 氷が削られていく。


 これは……。

 つまり、カキ氷機か。


「へえ。氷を細かく砕いてるんだね」


 モニカが感心している。


「ふふん。確かに、細かな氷なら口溶けもまろやかになるかもしれないわね。やるじゃない」


 ユナがそう言う。


「で、でも……。結局はただの氷ですし、味はしないのでは……?」


 ミティがそう言う。

 彼女は結構ガッツリとした食べ物が好きだ。

 肉料理とかな。

 ただの氷では、彼女を満足させることはできない。


「心配は要らない。シロップも用意してある。これを氷にかけるのさ。この食べ物の名を、カキ氷と呼ぶ!」


 シュタインがそう言う。

 やはり、これはカキ氷だったか。

 まあ、俺の異世界言語のスキルがカキ氷と訳しているだけだが。


 みんながそれぞれカキ氷を受け取り、思い思いのシロップをかけていく。


「俺はどの味にしようかな……」


「わ、わたしはリンゴ味にします」


 ニムがそう言う。

 彼女はなんでもよく食べるが、果物の中ではリンゴを好む。

 彼女の畑でも、リンゴを栽培していたことだしな。

 思い入れがあるのだろう。


「よし。俺はメロンだ!」


 リンゴの他、イチゴ、メロン、レモン、宇治などが用意されている。

 日本と味付けのバリエーションは変わらないようだ。

 まあ、これも俺の異世界言語のスキルがそう訳しているだけだが。

 厳密に言えば、メロンに酷似した果物の味がするシロップである。


 ちなみに、日本におけるカキ氷のシロップには、ちょっとした雑学がある。

 実は、シロップの味自体はほとんど同じらしい。

 違うのは色と香りだけで、それらの違いから脳が勝手に味を錯覚しているそうだ。


 つまり、メロン味を選ぼうがレモン味を選ぼうが、気分の問題だということである。

 俺はどの果物も結構好きだが、今回はメロン味にした。


「ボクはレモンをもらおうかな」


 アイリスはさっぱり系を好む。

 焼肉屋でも、カルビばかりではなく、ロースやサラダを合わせて食べることが多い。


「私は……宇治にします」


 サリエがそう言う。

 なかなか渋い趣味だ。


「マリアはイチゴにする! イチゴ! イチゴ!」


 やはり、子どもはイチゴ味が好きな傾向があるのだろうか?

 マリアはイチゴ味一択のようだ。


 みんなそれぞれ自分好みのシロップをかけ終えた。

 そして、カキ氷を食べ始めていく。


「うん、うまいな!」


 俺はそう言う。

 日本のカキ氷と比べても、氷の食感もシロップの味も十分においしい。


「おいしいですわ~。氷に、こんな味わい方があったなんて……。水魔法の名門ラスターレイン伯爵家として、このデザートと我が領地にも広めませんと……!」


 リーゼロッテがそう言う。

 彼女は本当に、何でもおいしそうに食べるな。


「なかなかおいしそうですね。私も食べますよ! むんっ!」


 ミティがそう言って、カキ氷を大きくすくって口に入れる。


「あっ……! そんなに一気に食べると……」


 俺はそう懸念の声を上げる。

 体が熱くなっているときに冷たいものを一気に食べるのはマズい。


「うっ! あ、頭が……!? イタタ……」


 ミティが頭を抱える。

 冷たいものを急に食べたときにキーンとなる、あれである。


 医学的には、アイスクリーム頭痛という名前がついている。

 冷たいものによって神経が刺激されたり、冷えた口や喉周りを暖めるために血管が膨張したりすることで引き起こされると考えられている。


「だいじょうぶか? ミティ」


「タ、タカシ様ぁ……」


 ミティが俺にギュッと抱きついてくる。

 戦闘時の力強い彼女や、鍛冶のときの職人気質の彼女も魅力的だが、こういった弱々しい彼女もまた魅力的だ。


「よしよし。じっとしていれば、じきに収まる。もう少しの辛抱だ」


 俺はミティを優しく抱きしめ、そう言う。

 そして、少ししてミティの頭痛は収まったようだ。


 そんな俺たちを見て、シュタインが口を開く。


「これは失敬。注意事項を伝え忘れていたな。急にたくさん食べると、今のミティさんのようになる。気をつけたまえ」


 注意が遅いぞ。

 まあ、まさか初めて食べる食べ物を一気に頬張るとは思ってもいなかったのかもしれないが。


「シュタインくん」


 チョイチョイ。

 ミサがシュタインの肩を叩く。


「ん? なんだい、ミサ」


「はい、あーん」


 ミサがそう言って、カキ氷をたくさん入れたスプーンをシュタインに差し出す。

 ラブラブだな。

 お熱いこって。


「ミ、ミサ? 今言った通り、カキ氷は急にたくさん食べるのはよくない。君も知っているだろう?」


「はい、あーん」


 ミサは、シュタインの言葉に耳を傾けていない。

 どうしたんだ?


「くっ。ええい。……ぱくっ!」


 謎の迫力を出すミサの様子を見て、シュタインが諦めてカキ氷を一口で頬張る。

 彼も懸念していた通り、あれだけのカキ氷を一気に食べると……。


「……うっ。頭が……」


 キーン。

 やはり、彼も頭痛に襲われてしまった。


「えへへ。ごめんね、シュタインくん。でも、浮気者への罰としてはかわいいものだよね?」


 ミサがそう言う。

 やはり、シュタインの女性関係の件ではまだ一件落着とはいっていなかったのか。


 シュタインが頭痛から立ち直り、口を開く。


「あ、ああ……。俺はミサを愛している。しかし、他のみんなのことを今さら裏切るわけにはいかない。どうか許してくれ」


 彼がいろいろな女性に手を出していたのは、治癒の宝玉とやらに愛の力をためるためだ。

 そのかいあって、俺とアイリスの治療魔法は増強され、ミサの完全回復に繋がった。

 ミサがこうして元気にしているのは、シュタインが浮気しまくったからだと言っても過言ではない。

 しかし、理屈ではわかっても感情では納得し切れないといったところか。


「わかってるよー。許すっ! でも、私のことを一番大切にしてね」


 ミサがそう言う。


 第八夫人までいるシュタインは、ハーレムを目指す俺の先輩だ。

 彼には、ぜひとも幸せなハーレム生活をしてほしい。

 陰ながら応援することにしよう。


 そんな感じで、屋形船でのイベントは進んでいった。

 釣り、魚の丸焼き、カキ氷など、面白い出来事がたくさん用意されていた。


 そしてーー。


「よし。ここで、みんなで写し絵を撮るぞ」


 俺はそう声を掛ける。

 写し絵の魔道具。

 精巧な写し絵を生成する魔道具である。


 日本でいえば、写真に近いレベルだ。

 つまりは、カメラと言ってもいい。

 俺の騎士爵授与に対する祝いの品として、少し前にハルク男爵家からもらったものだ。


「ほう。そのような希少な魔道具を持っているとは」


 シュタインが感心している。


「それは、我がハルク男爵家が差し上げたものですね。さっそく使っていただけるとは光栄です。では、僭越ながら私も……」


 サリエがそう言って、俺の隣に陣取る。

 俺は写し絵の魔道具を船頭さんに渡す。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。私はまだカキ氷を食べています」


 リーゼロッテがそう言う。

 彼女は食べるのが遅い……のではない。

 彼女は、既に3杯目のカキ氷だ。

 あんまり食べ過ぎると、腹を下すぞ。


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

 ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。

 そして、シュタインとミサ。


 みんなで屋形船の一角に集まる。

 少し船のバランスが崩れるが、反対側に乗組員が位置取ってくれているので、転覆したりはしない。


「いきますよー。はい、チーズ」


 船頭さんがそう言う。

 パシャッ。

 写し絵の魔道具が無事に動作する。


 しばらくして、さっそく写真が現像されていく。

 みんなで、写真を覗き込む。


「ふむ。みんないい感じに撮れているな」


「そうですね! タカシ様もカッコよく映っています!」


 ミティがそう言う。

 彼女も、ちゃんとかわいく映っている。


「あ、あら? わたくしはカキ氷を食べているところを撮られてしまいましたわね」


 リーゼロッテがそう言う。

 写真を撮る瞬間もまだカキ氷を食べていたのか。

 彼女の食いしん坊は筋金入りだな。


 そんな感じで、屋形船での一件はなごやかに進んでいった。

 ラスターレイン伯爵領におけるダンジョン攻略やファイアードラゴン戦に向けて、たっぷりと休養を取ることができたと言っていいだろう。

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