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1811話 竜星軍

 天守閣の屋根上。


 風が裂け、屋根瓦の列が一瞬だけ鳴った。

 風の裂け目に忍ぶ音。

 誰かが息を潜める気配と共鳴するように、瓦が金属質に震える。

 空気そのものが、一瞬だけ意志を持ったように凝縮した。


「兄貴の気配が変わった……? 火御子の奴、何を企んでやがる……」


 城下町を一望できる屋根の上で、流華は低く呟いた。

 彼女もまた、火御子に支配されている。

 “一尾”のみの支配ゆえ、多少の自由意志は残っている。

 だが、それでも火御子の意向に正面から反発することはできない。

 外敵を察知し、排除する。

 それが今の彼女に課された最優先事項だ。


「…………」


 流華は天守の棟木に片膝を置き、夜の黒を舌で味わうように浅く呼吸する。

 空気は冷たい。

 けれど、どこか生温かさを孕んでいる。

 それは、血の予感か、あるいは焔の残り香か。

 彼女の瞳は静かに、研ぎ澄まされた刃で宙を射抜いた。


「――竜?」


 漏れた声。

 吐息とともに霧散する音に応じ、天空を裂く光の刃。

 空に縦へ走る焔の線。


 星ではない。

 雷でもない。

 燃え尾を引く巨大な軌跡――天を泳ぐ大蛇。

 その影が、月と城の間を悠々と滑っていく。

 しかし、流華の目が真に捕えたのは、その背だった。


 銀。

 夜の中でもなお、はっきり視える色。

 まるで月光そのものが降りてきたように、柔らかな銀髪が風にほどけている。

 姿勢に一切の乱れはない。

 畳に正座しているかのごとく、その少女は竜の背に座していた。


「……来る」


 囁きと同時に眼差しが鋭くなる。

 流華は“気配察知”を切り、足の指で瓦の角度を測った。

 静寂。

 彼女の内で世界が切り替わる――観測者から、狩人へ。

 しかし結果的に、それは裏目となった。


「なっ……!?」


 次の瞬間、火炎竜は裂けた。

 空そのものが砕けたかのように巨体が散り、体内から無数の仔竜が噴き出す。

 夜空いっぱいに散った群れが、尾の先まで燃えさかるまま流れ星の雨となって城へ落ちていく。


竜星軍ドラゴンダイブ


 火炎竜の口からそんな言葉が漏れように聞こえた。

 だが、流華にとっては、それどころではない。

 ――いない。

 最も警戒していた、あの銀髪少女の姿が見当たらないのだ。


「っ!! あの女はどこへ!?」


 声が思わず漏れる。

 一瞬の焦り。

 けれど、心は凍らない。

 流華の中にある忍者の核が、即座に感情を思考へと転化する。


(――兄貴への脅威。俺が必ず排除する)


 愛する者を守るため、極限まで研ぎ澄まされた流華の直感。

 考えるより早く、体が動いた。


「降り注ぐ無数の竜よりも危険なのは……あの女!!」


 言葉と同時に跳ぶ。

 足裏が棟を捉え、瓦が一枚、夜へ滑り落ちた。

 乾いた破片の音が静寂を裂く。

 流華は風と直線になり、銀髪へ向けて踏み切った。


「「…………!!」」


 空が一瞬、引き裂かれたかのように――ふたりの視線が交錯する。

 その交差は、すでに衝突だった。

 顔を視認できる距離。

 間合いは崩れ、探る余地はない。


 互いに、即応の構え。

 言葉は不要。

 ただ、直感だけが指し示す未来。

 出方を探る時間もなく、流華がさらに動く。


「――【刻死無双】」


 言葉と同時に、身体が時間を置き去りにする。

 動きは光速めいて、だが刃は抜かれない。

 抜かない。

 抜くより速い型がある。


 掌底、肘、膝、踵。

 全身が刃だ。

 発動から着弾まで瞬きより短い。

 それはまさしく忍術の極致。

 どの一点が当たっても、致命。


「ふふっ」


 銀の瞳が笑った。

 その瞬間、空気が反転し、時が凍る。

 周囲の火の粉が停まって見えた。

 まるで世界そのものが”静止”を選んだかのように、流華の視界が凍りついている。


 だが、銀の動きは――流麗。

 緩やかにしか見えないのに、どこにも隙がない。

 肉体の反応速度を超えた対応。

 予測か、それとも直観か。

 読みではない。

 確信に近い迎撃の構え。


「受け攻めいくつか想定していたけど……それは悪手でしょ、忍者っ娘ちゃん」


 声に揶揄の響きはある。

 けれど、軽視の色はない。

 銀髪の少女――アイリスの両掌が合わさり、花が開くようにほどけた。

 その所作は、まるで舞。

 腕が幾重にも増殖して見え、月明かりが白い扇の列となって弾ける。


「千手観音――壱乃手・化仏」


 空間が一瞬、仏の庭になる。

 回避を許さぬ速撃。

 流華は受けに回り、次で殺すはずだった重さが宙で砕けた。


「ぐッ……!」


 肩が軋み、肋が鳴る。

 遅れて届く打撃の重み。

 速度差に思考が追いつかない。

 吹き飛ばされる軌道を自らひねり、屋根で止めようとする――が、足りない。


 重力が敵に変わる。

 空気抵抗が壁になる。

 制御しきれない体が風にさらわれ、空へ流れる。


「そのまま町の外まで飛んでいってくれると助かるね」


 アイリスが、独り言のように呟く。

 声には確信と静けさがあった。

 まるで、勝負は既に決したとでも言うように。


 流華の体が弧を描き、桜花城の灯をかすめていった。

 砕けた瓦が星屑のように散る。

 燃え残りの炎が、その軌跡を追うように揺らめいた。


 城内には、まだ幾筋もの気配がある。

 強者の殺気と技が、城を揺らしている。

 アイリスは一度だけ瞼を伏せ、微笑とも溜息ともつかぬ息を零した。


「……さて。どこから片付けようかな。ミティたちとも上手く連携しないと……」


 月が雲間から顔を覗かせる。

 白い光が、少女と城と遠ざかる影を、ひとしく照らした。

 新たな参戦者の登場で、桜花城の戦いはさらなる混沌へと突き進んでいく――。

投稿ペースを変更します!


現状:4日ごと(中3日)の更新

今後:週一(金曜日)の更新


次回の更新は11/14、以降は11/21→11/28→……といったスケジュールになります。

今後とも変わらぬご声援をいただければ幸いです。


よろしくお願いいたします!

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