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1787話 ぶっ飛ばす

「これは……」


 社殿の裏手に案内された俺たちは、かつて神楽が執り行われていたという舞台を目にした。

 しかし、それはもはや「舞台」と呼ぶにはあまりに無惨な状態だった。

 空に向かって虚しく手を伸ばすように崩れ落ちた柱。

 踏めば軋むどころか、すぐにでも割れてしまいそうな板。

 かつて煌びやかだったであろう装飾は色を失い、まるで泣き崩れたように朽ちていた。


 さらに、舞台の一角には黒く焦げた跡が生々しく残されている。

 それが単なる老朽化ではなく、何かしらの“暴力”によって破壊されたことを雄弁に物語っていた。


「ふむ……なるほど。見事にぶっ壊れてるな」


「ひどい有り様ですね……」


 紅葉が目を伏せながら、小さく息を吐いた。

 俺は一歩前へ進み、肩を軽く回してから額に手を当てる。

 深呼吸しながら、神聖な場であったはずの残骸をじっと見つめた。


「……で、宮司さんよ。作業の段取りってのは、どうなってる?」


 問いかけた声には、自然と少しだけ力がこもる。

 目を逸らすのは簡単だが、今はその余裕もなければ、逃げる理由もない。


「まずは力仕事ですね。ここに積んである木材を、あちらまで運んでいただければと」


 宮司の少女は遠慮がちに指を差し、作業エリアを示す。

 なるほど、まずは資材運びからか。

 単純作業だが、それゆえに体力を使う。

 大工たちが逃げ出した今、神官や巫女たちには荷が重い仕事だろう。


「力仕事なら俺たちに任せとけ。三人は向こうで受け取りを頼むぞ」


「受け取り?」


 流華が一瞬きょとんとした表情を浮かべた。

 しかし、それも束の間のこと。


「……あー、そういうことか。了解だぜ、兄貴」


 彼はすぐに理解したように笑みを浮かべた。

 紅葉と桔梗も同様だ。


 三人は木材の受け取り場所へと移動していく。

 その背中を見送りながら、俺は大きく息を吸った。

 そして、己の内に宿る力へと意識を集中させる。


「行くぞ――【ぶっ飛ばす】!」


 俺の新たな力、ハーレムスタイル。

 その一つ、“ぶっ飛ばす”モードが発動する。

 瞬間、全身の筋肉に熱が走り、腕や脚に今までにない重さと力強さを感じた。

 力強く地面を踏み込むと、足元に小さな衝撃波が走る。

 爆発的に上昇した筋力が、全身を突き動かす。


「いくぜっ! そらそらそらぁっ!!」


 俺は木材を次々と掴み、指定されたエリアに向けて投げ飛ばしていく。

 重力魔法や空間魔法を使えば、もっと安全かもしれない。

 だが、今の俺には、これが一番合っていた。

 無駄を削ぎ落とした“物理”という名の信頼。

 それに、ハーレムスタイルの実戦訓練としても一石二鳥だ。


「ちょっ!? 貴重な木材を投げ飛ばすなんて――ああっ、危ないっ!」


 予想外の速度と迫力に、宮司の少女が思わず声を上げた。

 けれど、彼女の心配は杞憂だ。

 三人の実力は、決して見くびっていいものじゃない。


「【朽葉抱擁】」


 木材の着弾点。

 紅葉が柔らかく呟いた瞬間、周囲の落ち葉が生気を帯びて舞い上がる。

 まるで森そのものが息を吹き返したかのように、木材へと手を差し伸べる。

 それは、優しさと確かさを兼ね備えた、まさに“抱擁”だった。


「へへっ、【木遁・蔓手】だぜっ!」


 流華もすかさず術を展開する。

 その口調は軽やかだが、目の奥にはしっかりと集中の色が宿っていた。

 忍術で生み出された蔓が素早く、しかし丁寧に木材を絡め取っていく。


 彼が伸ばしている”忍術”スキルは少し特殊な仕様を持つ。

 どうやら、複数の属性が絡む技を広く浅く使えるようになるらしいのだ。

 植物関連の出力としては、植物妖術特化の紅葉には劣る。

 だが、使い方次第では侮れない。


「……【無明】」


 静けさの中に、桔梗の声が溶け込んだ。

 音もなく一歩を踏み出し、抜き放たれた刀が空気を切る。

 その刹那、飛来していた木材が重力を忘れたかのようにふわりと浮き、無音で地面に置かれた。

 どういう原理か俺もよく分からないが、彼女の卓越した剣技のなせる技なのだろう。


「見事だ、三人とも」


 俺はひと呼吸入れ、感嘆の声を上げる。

 完璧な連携。

 無駄も混乱も一切ない。

 それはまさに、信頼に裏打ちされたチームワークだった。


「な、なんという……」


 宮司少女が呆然と呟いたのも、無理はない。

 目の前で展開された光景は、常識という枠を軽々と飛び越えていた。


「すまん。ちょっと荒っぽかったか? 丁寧に手運びする方がよかったかもな」


「……いえ、大丈夫です。こちらが無理をお願いしている立場ですから。ちゃんと受け止めておられるようですし、木材が損なわれないのであれば……その、具体的なやり方に口出しはしません。……ええ、私の心臓以外は、大丈夫ですとも」


 少女の声はまだどこか上ずっていたが、それでも目はしっかりと前を見据えていた。

 信じてくれている――そう思えた。


「そいつはよかった」


 小さく笑って、もう一度肩を回す。

 お墨付きが出た以上、もう遠慮はいらない。


「よーし、どんどんぶっ飛ばしていくぞっ! 準備はいいな!?」


「お任せください、高志様!」


「もっと早くてもいいぜ!」


「……無問題」


 そんなやり取りが響く。

 神楽舞台の修復作業は続いていく――。

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