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1761話 最新地図とスキル強化方針

「さて、改めて地図を眺めると達成感があるな……」


 桜花城の天守閣。

 俺は一人、呟いた。

 手元の地図には、薄墨の線で描かれた印が浮かんでいる。

 それぞれがかつて敵対していた藩であり、今では俺の意志のもとに従っている藩でもある。



            北北

           北北北北

           北北北北

           北北


           北北

          北北北

          北北北

         中中北北

        中中中漢漢

九九九 重重翡虚中中中漢漢

九九九 重重翡虚死中中漢漢

 九九    桜那中中

 九九 四四 湧深

 九九 四四


桜……桜花藩おうかはん

湧……湧火山藩わかやまはん

那……那由他藩なゆたはん

深……深詠藩みえはん

死……死牙藩しがはん

虚……虚空島こくうとう

翡……翡翠湖藩ひすいこ



「ふふ……」


 地図を見ると、胸の内に染み込むような充実感が広がっていった。

 単なる征服欲ではない。

 仲間たちと歩んできた道のりの、積み重ねに他ならなかった。


「これも、みんなのおかげだよ。本当にありがとう」


 俺はそう言葉にした。

 だが、返事をする者はいない。

 風にそよぐ旗の音が、虚ろに天守閣の壁に反響するだけだった。


 いつもなら、俺のそばには紅葉、流華、桔梗――三人の気配があるはずなのに。

 今は、俺一人。

 彼女たちは、俺から感染した闇への拒絶反応で昏倒し、その後も眠り続けているからだ。


「……やはり寂しいな。闇は素晴らしいものだが、さすがにこれほどまでに寝込むのは心配だ」


 天守閣の外から注ぐ光が、俺の影を長く引き伸ばす。

 闇を受け入れるたび、俺は確かに強くなってきた。

 思い切りが良くなり、大胆な戦略や戦法を取れるようになった。

 だからこそ、紅葉たちも同じように強くなってくれると信じたかった。

 しかし……世の中に絶対などというものは存在しない。

 拒絶反応が強すぎれば、最悪の場合――そう、命に関わる可能性すらある。


「ちょうど、ミッション報酬で得たスキルポイントがあったな。治療魔法を強化して、彼女たちの回復を優先させるべきか……?」


 俺は口元に手を当て、熟考する。

 俺は記憶喪失だ。

 目を閉じれば浮かぶのは、今の仲間たちとの記憶ばかりで、それ以前の記憶はまるで霧の向こう側。


 そんな俺にとって、紅葉たち三人はかけがえのない存在である。

 家族でも、恋人でも、友でもない。

 だが、だからこそ、それらすべてを内包したような強い絆を感じていた。


 もちろん、失われた記憶を取り戻すことも諦めてはいない。

 そのために俺はミッション方針に従い、近麗地方を掌握した。

 しかし、成果は薄かった。

 いや、むしろ――死牙藩で大量の闇を吸収し、記憶の一部が再び霞んでしまった。

 白夜湖での出来事。

 それが曖昧になっただけとはいえ、軽い気持ちで看過できるようなものではない。


 これ以上、脳に異常をきたすリスクは避けるべきだ。

 ミッションの遂行がさらなる損失を生むなら、盲信など愚の骨頂だろう。

 そもそも、大和連邦関連の新たなミッションは届いていない。

 ならば、今この瞬間において最優先すべきは、仲間たちの回復に他ならないはずだ。


「今はスキルポイントが65もある。その中の30を使用し、治療魔法をレベル4からレベル5に強化して――いや、待てよ?」


 思考にブレーキがかかった。

 これまでも俺は、手をこまねいていたわけではない。

 治療魔法レベル4の限界まで使いこなし、ありったけの魔力を込めて、何度も紅葉たちに回復魔法を施してきた。


 だが、反応は鈍かった。

 通常の怪我や病なら、癒しの光はすぐに効き目を見せるはず。

 しかし、紅葉たちは……ほんのわずかに表情が和らいだかと思えば、次の瞬間にはまた深い眠りに沈んでしまった。

 闇の瘴気が引き起こす拒否反応。

 それが根本であるならば、治療魔法という概念自体が有効ではない可能性もある。


「……新たに『調薬術』でも取得してみるか? それとも……」


 俺は考える。

 無意識のうちに視線を落とし、目に見えぬ何かを探るように思考の底へと沈んでいく。

 黒き霧のようなものが脳裏を這い回り、俺の意識を刺激してきた。


 闇。

 それは俺にとって魅惑の泉でもあり、同時に災厄の種でもある。

 暗がりに手を伸ばすたび、何かを得ると同時に、何かが欠けていくような気がする。


 闇は素晴らしいものだが、急激な吸収は紅葉たちの体に負担をかけるリスクがある。

 あの静かな微笑みを浮かべる紅葉の表情が、もし痛みに歪んだとしたら……その姿を俺は想像するだけで、胸の奥がずきりと軋んだ。

 それは避けねばならない。

 彼女たちのためにも、俺のためにも。

 可能な限り制御してあげたい。


「……ん? 制御?」


 その言葉が、まるで水面に落ちた一滴の雨粒のように思考の湖を揺らす。

 制御……それだよ!

 閃光のような確信が走る。


「闇魔法を強化するのが良さそうだな。今はレベル3だが、とりあえず4に上げてみるか。それで残りスキルポイントは50になる」


 魔法系のスキルは主に魔法行使に直接的に関係する。

 だが、それだけではない。

 魔法とは単なる力ではなく、感覚そのものだ。

 魔法に対する直感的な理解――空気の流れや魔力の密度を読む能力――それらが増すのだ。


「闇魔法レベル3の今でも他者の闇を少しばかり制御することは可能だが……。レベル4になればその技術はさらに高まるはずだ」


 闇魔法スキルを伸ばすことで、制御能力を強化する。

 具体的には、相手の魔力の波長を読み取り、干渉し、調律する能力を高める。

 それならきっと、紅葉たちの苦痛も軽減できるようになるだろう。


 レベル5まで上げればより確実だが、それはそれでリスクがある。

 前回も、レベル3まで伸ばしたときに不快感が俺を襲った。

 頭痛、吐き気、そしてなにより感情の不安定さ。

 闇に深く触れるほど、俺は俺でなくなる気がしてならない。

 さらなる闇を受け入れた今ならレベル4ぐらいは大丈夫だと思うが、レベル5はさすがにヤバい気がする。

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