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1727話 妖獣狩りをしている謎の豪傑

「兄貴は本拠地でどっしりと構えてくれって言ったじゃないか。そりゃ、兄貴が死牙藩に行けば確実だろうけどさ。翡翠湖や虚空島で問題が発生したとき、対処が遅れるかもしれねぇぜ?」


 その言葉は的を射ていた。

 俺は桜花藩の最大戦力だ。

 いや、最大という表現すら生ぬるいかもしれない。

 俺以外の全戦力が一致団結しても、場合によっては俺一人に劣るかもしれない。

 自分で言うのも何だが、チート持ちの俺はそれほどまでに強い。


 そんな俺が単騎で特攻すればどうなるか?

 当然、他の場所における不測の事態に対応しづらくなる。

 俺が言葉に詰まったのを見て、流華は続けた。


「死牙藩は、俺に任せてくれよ。翡翠湖が紅葉、虚空島が桔梗なら、俺が何もしないわけにはいかねぇだろ」


 決意を帯びた瞳がまっすぐに俺を見据える。

 逃げ道も、躊躇も、そこにはなかった。

 ただ、己の役目を果たそうとする意志のみ。


「一理なくはないが……。流華はあくまで諜報活動が専門だ。妖獣相手の諜報活動なんて……」


「そうは言い切れねぇぜ?」


 彼はニヤリと口の端を上げ、懐から一枚の書状を取り出す。

 それは、新たな情報が記載された報告書のようだった。


「白夜湖の東部を拠点に、妖獣狩りをしている謎の豪傑がいるって話だ。いったい何者なのか調べるには、忍者が適任だろ? 無月の姉御や幽蓮にも手伝ってもらうから、危険も少ない。俺たち『闇忍』に任せてくれ」


 その口ぶりには誇りが滲んでいた。

 暗部組織『闇忍』――影に生き、影を統べる者たち。

 その名に恥じぬ動きを見せるつもりなのだろう。


 俺はしばし目を伏せ、思案に沈む。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「……わかった。しかし、一つだけ言いたいことがある」


「なんだよ?」


「絶対に無理はしないように。そして、お前たちの組織名は『漆刃うるは』だ。間違えるな」


「一つじゃなくて二つじゃねぇか。……だが、わかったよ。俺たちはあくまで情報収集が役目。それは心得ておくさ」


 軽口を叩きつつも、流華の声はどこか引き締まっている。

 その背に宿る責任感を、俺は確かに感じた。


「ああ、任せたぞ」


 視線が交差し、静かな火花が散る。

 それは信頼という名の絆の証だった。


 これで方針は決まった。

 翡翠湖、虚空島、死牙藩。

 それぞれ、信頼できる仲間たちが調査に赴いてくれる。

 何か問題が発生すれば、俺が急行すればいい。

 安全性と迅速性をバランスよく両立させつつ、有能な人材をさらに成長させるきっかけにもなる。

 悪くない方針だろう。


 ――このときの俺は、そう思っていたんだ。

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