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1698話 讃岐家の血統妖術

 リーゼロッテの氷剣が琉徳の喉元に届こうとした、その刹那――。


「――終わってなどいない!」


 琉徳の怒声が広場に響き渡った。

 雷鳴のようなその叫びは、空気を震わせるほどの気迫を帯びていた。

 同時に、彼の身体から異様な妖気が放たれる。


 ぞわりと肌を刺すような空気が、しかし次の瞬間には熱へと変わり、じわりと広場の雰囲気を歪めた。

 異様な香りが立ち込める。

 香ばしく、どこか甘みを含んだ、しかしながら人の持つ妖気としてはあまりに異質なそれに、リーゼロッテが目を見開いた。


「なっ!? こ、これはいったい……!?」


 彼女の表情に、初めて動揺の色が浮かぶ。

 戦場においても決して揺らぐことのなかった瞳が、一瞬だけ迷いを見せた。

 その足元で凍りついていた地面が、不気味な震動を起こし、ひび割れ始める。


「見せてやろう……我が讃岐家に伝わる、禁断の血統妖術を!! 他藩からの侵攻を幾度となく跳ね返してきた、武の真髄を!!」


 琉徳が地面に手を突き立てた。

 その瞬間、衝撃波が走る。

 大地が割れ、そこから白銀の奔流が噴き出した。

 それは水ではない。

 粘り気のある――そう、まるで生きた麺のような物質が、ねじれ、絡まり、うねりながら形を成していく。

 瞬く間に、それはひとつの巨体へと姿を変えた。


 うどんでできた巨人。

 つるりとした光沢を持つ純白の麺が、幾重にも絡み合い、まるで鍛え上げられた武士のごとき姿を形作っていく。

 ねじれた麺の筋繊維が、まるで鍛え抜かれた筋肉のように浮かび上がる。

 しなやかさとコシを兼ね備えたその体躯は、ただの異能の産物ではない――研ぎ澄まされた妖術の結晶だった。

 さらに、琉徳の周囲を漂っていた天ぷらの破片が、次々と黄金の輝きを帯び、巨人の装甲へと変化していく。


 琉徳は満足げにその姿を見上げる。

 彼は悠然と飛び上がり、巨神兵の頭部付近――まるでコックピットのような位置に陣取った。

 そこは、まるで彼のために用意された玉座のようだった。


「讃岐家奥義――『白麺の神・おうどん湯の巨麺兵』だ!! ワハハハハ!!!」


 その名が告げられた瞬間、巨神兵の背に巨大な黄金の大砲が出現する。

 ぶくぶくと煮え立つ液体が内部で沸騰し、今にも解き放たれんとしていた。

 出汁だ。

 圧倒的な熱量を孕んだ、芳醇な香りを放つ特濃の出汁が、今、戦場を焼き尽くそうとしている。


「まさか、こんな異能が……!」


 リーゼロッテは驚愕しつつも、すぐに冷静さを取り戻した。

 剣のみでは勝てないと瞬時に悟ると、彼女は素早く印を結ぶ。


「【聖なる氷壁・アイスウォール】!!」


 眼前に氷壁が生成される。

 蒼白く輝く純氷の障壁が、厚く、強固に戦場を隔てた――しかし。


「神に小細工など通用せん!!」


 ぶっしゃあああ!

 煮えたぎった出汁が大砲から射出される。

 それは弾丸ではない、洪水だ。

 圧倒的な熱量と粘度を持った奔流が、リーゼロッテの氷壁に襲いかかる。


 バチバチッ……!

 ジュワァァァ……!!


 氷壁が、まるで雪が陽に溶かされるかのように、いとも容易く崩れ去っていく。

 壁の奥にいたリーゼロッテの頬に、熱された蒸気がかすめた。

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